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探偵遊戯
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それから店長と僕の関係は、以前のことが嘘のように良好になった。仕事以外の雑談もしばしばするようになったが、店長の一番の関心は、妻に関することだった。まさか既婚者の彼が妻に恋をしているということはないだろうと思っていたが、とにかく店長は妻について知りたがった。
あまりにも度々訊いてくるもので、僕は彼女の前夫の死因が未だ謎であることを、つい話してしまった。すると店長は目を輝かせてその話に飛びついて来た。
「吉永さん、その謎、僕らで解明しませんか?」
「解明するって……どうやって?」
「僕は以前、なんでも屋をやっていたんですよ。その頃は探偵みたいなこともやってましてね。一応その方面のノウハウはあるんですよ」
「はあ……」
興味本位で探偵ごっこをするのは、妻を裏切るようで気が引けた。もし下手なことをしでかして、家庭崩壊なんてことにでもなれば……。しかし、せっかく良好になった店長との関係を損ねるのもなんだかなあ、という気がした。「でも、バイトだからって、そんなに時間に自由がきくわけでもありませんし……」
「その点なら心配ありません。ちゃんとバイトしてたことにして給料払いますよ」
そこまで言われてしまうと、僕の気持ちも大きく動く。もともと、妻の前夫の死因は気になっていたことなのだ。
🏡
──僕は、星空のかなたからやって来たウルトラマン──
目の前では2匹の怪獣たちが、暴れまわっている。このままでは地球が滅んでしまう、何とかしなければ……。
ところが、既に変身して3分経ち、胸のカラータイマーが赤く点滅した! 僕は立っていることもままならず、地に倒れ伏してしまう。それを見た怪獣たちは一気に襲ってきた。倒れて動けなくなっている僕を、足で踏みつけ出したのだ。
「うわぁーっ!」
激痛のあまり叫ぶ僕。とその時、天から声がした。
「こらっ、何してるの、やめなさい!」
それはウルトラの母……ならぬ、妻の声だった……。
目が覚めると、二人の子どもたちが僕の寝ている布団の上で、パンツ一丁ではしゃぎまわっていたのだ。妻が彼らの後を追い回す。どうやら着替えの最中で子どもたちが逃げ出したようだ。僕は飛び起きて長男を捕まえ、シャツとズボンを着せた。どうにか準備が整うと、妻は子どもたちの手を引いて、玄関の扉を開く。保育園へ送り届けに行くのだ。
「それでは、行って来ます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
僕はそう言って彼らを見送る。仕事の都合でいつも出来るわけではないが、僕にとってはほっこりする時間でもある。
(……なんてのんびりしている場合じゃなかった)
僕は携帯を掴み、店長に電話をかけた。
「今、妻が家を出ました」
「オーケー、これから行きます」
それから間もなく呼び鈴が鳴った。店長が訪ねて来たのだ。
「……どうぞ、上がって下さい」
「お邪魔します……」
探偵ごっこの第一歩は我が家の探索から始まることになった。元探偵(?)である店長が言うには、いわゆる灯台下暗しで、謎を解く鍵は自宅にあるものだという。それで、妻が子どもたちを保育園に送り届けている時間、僕と店長の二人で家中を探索しようということになったのだ。アルバイトの子たちを手配して店を任せ、店長は朝からこの近辺に待機していたのだ。店の主が仕事をほっぽりだして道楽にうつつを抜かすことに呆れないでもないが、僕に関してはその分時給を払ってくれるというので、文句は言えない。
家に上がった店長がまず向かったのは、台所だった。
「台所は、言わば主婦の城。大事なものはここに隠すことが多いんです」
店長は台所のあちこちを見渡すと、サイドボードに目を止め、その抽斗を開いた。そうして出て来たのは、輝と恵の母子手帳だった。N県M市発行のもので、保護者欄には生田妻、生田涼真の名前が連なっていた。
「奥さんの前夫は、N県M市に住んでいた生田涼真……とりあえず探索のとっかかりは出来ましたね」
僕は彼の言うことに耳を傾けながら、抽斗の奥にある封筒が気になった。取り出してみると、そこには筆文字で「遺言書」と書かれており、生田涼真の署名があった。
「こ、これは……!」
「吉永さん、読んでみて下さい!」
僕は恐る恐る封筒の中身を取り出した。
あまりにも度々訊いてくるもので、僕は彼女の前夫の死因が未だ謎であることを、つい話してしまった。すると店長は目を輝かせてその話に飛びついて来た。
「吉永さん、その謎、僕らで解明しませんか?」
「解明するって……どうやって?」
「僕は以前、なんでも屋をやっていたんですよ。その頃は探偵みたいなこともやってましてね。一応その方面のノウハウはあるんですよ」
「はあ……」
興味本位で探偵ごっこをするのは、妻を裏切るようで気が引けた。もし下手なことをしでかして、家庭崩壊なんてことにでもなれば……。しかし、せっかく良好になった店長との関係を損ねるのもなんだかなあ、という気がした。「でも、バイトだからって、そんなに時間に自由がきくわけでもありませんし……」
「その点なら心配ありません。ちゃんとバイトしてたことにして給料払いますよ」
そこまで言われてしまうと、僕の気持ちも大きく動く。もともと、妻の前夫の死因は気になっていたことなのだ。
🏡
──僕は、星空のかなたからやって来たウルトラマン──
目の前では2匹の怪獣たちが、暴れまわっている。このままでは地球が滅んでしまう、何とかしなければ……。
ところが、既に変身して3分経ち、胸のカラータイマーが赤く点滅した! 僕は立っていることもままならず、地に倒れ伏してしまう。それを見た怪獣たちは一気に襲ってきた。倒れて動けなくなっている僕を、足で踏みつけ出したのだ。
「うわぁーっ!」
激痛のあまり叫ぶ僕。とその時、天から声がした。
「こらっ、何してるの、やめなさい!」
それはウルトラの母……ならぬ、妻の声だった……。
目が覚めると、二人の子どもたちが僕の寝ている布団の上で、パンツ一丁ではしゃぎまわっていたのだ。妻が彼らの後を追い回す。どうやら着替えの最中で子どもたちが逃げ出したようだ。僕は飛び起きて長男を捕まえ、シャツとズボンを着せた。どうにか準備が整うと、妻は子どもたちの手を引いて、玄関の扉を開く。保育園へ送り届けに行くのだ。
「それでは、行って来ます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
僕はそう言って彼らを見送る。仕事の都合でいつも出来るわけではないが、僕にとってはほっこりする時間でもある。
(……なんてのんびりしている場合じゃなかった)
僕は携帯を掴み、店長に電話をかけた。
「今、妻が家を出ました」
「オーケー、これから行きます」
それから間もなく呼び鈴が鳴った。店長が訪ねて来たのだ。
「……どうぞ、上がって下さい」
「お邪魔します……」
探偵ごっこの第一歩は我が家の探索から始まることになった。元探偵(?)である店長が言うには、いわゆる灯台下暗しで、謎を解く鍵は自宅にあるものだという。それで、妻が子どもたちを保育園に送り届けている時間、僕と店長の二人で家中を探索しようということになったのだ。アルバイトの子たちを手配して店を任せ、店長は朝からこの近辺に待機していたのだ。店の主が仕事をほっぽりだして道楽にうつつを抜かすことに呆れないでもないが、僕に関してはその分時給を払ってくれるというので、文句は言えない。
家に上がった店長がまず向かったのは、台所だった。
「台所は、言わば主婦の城。大事なものはここに隠すことが多いんです」
店長は台所のあちこちを見渡すと、サイドボードに目を止め、その抽斗を開いた。そうして出て来たのは、輝と恵の母子手帳だった。N県M市発行のもので、保護者欄には生田妻、生田涼真の名前が連なっていた。
「奥さんの前夫は、N県M市に住んでいた生田涼真……とりあえず探索のとっかかりは出来ましたね」
僕は彼の言うことに耳を傾けながら、抽斗の奥にある封筒が気になった。取り出してみると、そこには筆文字で「遺言書」と書かれており、生田涼真の署名があった。
「こ、これは……!」
「吉永さん、読んでみて下さい!」
僕は恐る恐る封筒の中身を取り出した。
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