シングルパパ

夏の章

こころみ

　僕が家の中で最も落ち着く場所は、トイレの中だ。離婚する前からずっとそうだ。ここにいれば誰にも干渉されないばかりか、その間子供が何をしようと、監督責任を逃れられる……気がする。無論そんなわけないのだが。
　この春から、営業の事務所に貼ってあるようなグラフがトイレの壁に貼られている。上の方には「おかたづけキャンペーン」と書いてあり、その下には左右二本の棒グラフ……右側はハヤテ、左側はツムジのものが並んでいる。お片付けをする度に一マス塗りつぶすもので、その頂点にはそれぞれ欲しがっているレゴセットの画像が貼ってある。ハヤテはスポーツカー、ツムジは恐竜が欲しいのだ。ところがグラフは一向に高くならず、近頃は成長が滞っている。

　これまで色々な作戦を立ててきた。ネットで調べると色々出ている。たとえば……

　〝お買い物ごっこ作戦〟。収納ケースを買い物かごに見立てて、散らかっているものをそれに入れるというもの。
「お買い物ごっこやるかー？」
「「やるー！」」
「じゃあ、ハヤテはミニカーをこのカゴに集めて、ツムジはプラレールをこのカゴに……」
　と言い出した途端、
「「やだー！」」
　彼らは急速にモチベーションを下げ、前言撤回した。


　次は〝歌作戦〟。お片付けのモチベーションが上がるような歌を作り、それを歌いながら一緒にお片付けをするというもの。
　最近彼らが口ずさむのは、お気に入りの「何たらレンジャー」のテーマソングだ。僕はユーチューブでそれらを聞きながら、真似してそれらしい歌を作曲した。よし、この歌で彼らのヤル気を喚起しよう！
　次の日、カオスとなった子供部屋の真ん中に立ち、僕は作ったばかりのお片付けソングを披露した。

〽カタヅケー、ウォオッオー、カタヅケレンジャー～♪

ところが……

「へんなの」
　ハヤテが冷たく言い放つ。ツムジは「へんなの、へんなの」と言って僕を指さしてバカにした。
「人を指さすなあっ！」