記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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制裁への不満2

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 ぽつりぽつり話しているとまた扉が開かれる。

「わっ!?出た!」
 小奇麗になったエノワールの声がまた食堂へ響く。

「あ”ぁ??」

 “出た!って。お化けじゃないんだから。”
 思わずフフッと声がでる。

 エノワールの後ろにいたニーナも笑っている様だった。

 恐る恐る近づいてくるエノワールにカレルドは睨みつける。
「なぜここに居る。
 俺は仕事をしてこいと言ったはずだが?」

 “ここに来る事が分かってて自分も来てるくせに。”
 口にしない代わりに残っていたケーキを一口食べてみる。

「あのスケジュールは無理だと散々言ったではないですか!
 聞き入れてもらえないから助けを乞いに来たのです!!」

 力の入るエノワール。

「無理じゃねぇ。やれ。」

「お嬢様!!!」

 エノワールの言葉で私に視線が集まる。

「迷惑な話ね。」
 それだけ言い次は紅茶を口にする。

「ほら。迷惑だと。さっさと行ってこいよ。」

「だから無理なんですって!
 1ヶ月程はかかる事を2週間で終わらせ、更にコルン様の所にも寄ってこい!?
 1か所に留まっていない方なのご存知でしょう!?
 それに今、殿下から離れる訳にはいかないでしょう!?
 と、言うか昨日から殿下のせいで寝てないのに!」

 ヒートアップするエノワールをニーナが宥める。
「落ち着いて下さい!首の傷が…!」

 “たんまり仕事をやったとか言ってたけど、だいぶ無茶振りしてるのね。”

 そう思いながらチラッとエノワールの首元を見ると、血が滲んでいた包帯は新しく取り替えられている様だが段々とまた血が滲んできていた。

「騒ぐ時間と体力あるならサッサと始めて終わらせてこいよ。
 大体、何だ?その格好は。」

 シャツだけ綺麗になり他はマシにはなったがまだ汚れているのが分かる。

「もぉ…。お嬢様ぁ…」

 さっきより弱くなった声で私を呼ぶ。

 カレルドは横目で私を睨む。

「服装に関しては私です。
 あんな土埃を被ったままで食堂に居られては迷惑なので。」

 ふーん。と、カレルドはカップに手を伸ばす。
 お咎めなく、鋭い視線から逃れられた為かホッとした表情になるエノワール。

「で、なぜそんなボロボロだったの?」

 エノワールに聞いたつもりだったが、答えたのはカレルドだった。

「ロベルトの相手をさせただけだ。」

 思いもしなかった者の名に驚くが、傷だらけなのに納得がいった。

「あら、なぜまた?」

「…丁度目についたから。」
 テーブルに肘をつき頬杖をしながら言う。

 “そんな理由で…”

「苦戦していた。と報告を受けたぞ。」
 カレルドはエノワールに不敵な笑みを見せる。

 はぁ。と小さくため息をしエノワールは嫌そうに返事をする。
「えぇ。まだ未修得の様ですが小賢しい事をしてきます。」

 また、ふーん。とカップを持ち上げるカレルド。

「それでもアナタが勝ったのでしょ?」
 ロベルトの悔しそうににらみつける顔が目に浮かぶ。

「…はい。なんとか。」
 傷を見るからに苦戦したのは明らか。
 苦笑いを見せる。

「じゃぁ。その首の傷もロベルトに?」

 この質問に、エノワールはただ首を横に振るだけだった。

「それは俺。」
 何の悪びれる様子などなく当たり前の様に言うカレルド。

 ピクッと身体を反応させ驚く私にカレルドの口角が少し上がる。 

 “やり過ぎなんじゃ…”

 そう思うが、先程名の出たコルンが見せてくれた首の傷を思い出し軽く微笑んで聞く。

「ふふ。陛下直伝だったりするのですか?」

 すぐに意味が分かったのだろう、鼻で笑われる。

「ふっ。そう言えばアイツもよく首に包帯巻いてたな。」

 静かに笑う私達をジッと見つめるエノワールが痺れをきらす。
「あの…話を逸らさないで頂けますか?」

 カレルドの赤い瞳はエノワールではなく私をチラッと見る。

 “まったく…”

「あら。逸らしたつもりはないけれど。
 その前に、また大分汚れてきたわよ。
 興奮しすぎね。」
 エノワールに向かって自分の首に指差す。

 サッと包帯に触れるエノワールの奥にいるニーナに目配せをする。

 すぐエノワールはニーナに連れられ食堂の隅で包帯を替える。 




「やり過ぎだとは思いますが、殿下のやり方もあるでしょうし口出しはしないつもりですが?」

 何か私に話したそうだったカレルドに言う。

「別に構わん。」

 相変わらず短い返事が返って来る。

「ふふ。それで?何かご用ですか?」

 はぁー。と長いため息をつき話し出す。





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