記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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第一騎士団長の別の顔

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 2人の会話を聞きつつドイムが去って開かれた窓からエマがそわそわとコチラを伺う姿がある。

 そんなエマを見てマルセルが軽く笑う。
「まるで小動物だな。」

「ふふ。可愛いでしょ?」
 私も笑いながらコチラを気にするエマに手招きをする。

 パッと表情が明るくなりバルコニーへと足を踏み入れるエマ。

 私たちの前にきてお辞儀をしニコリと言う。
「準備が整いました!」

「あら、早かったわね。
 わかったわ、戻りましょう。」

「はい!」
 そう元気に返事をし、左へとズレて道を開ける。



 部屋を戻ると既に大勢の皇宮の使用人らが食事をしに集まっていた。

 皆が一斉に私達の方を向き深くお辞儀をする。

「休憩なのにお邪魔してごめんなさいね。
 私達は気にしなくていいから、いつも通りお食事していってね。」

 私の言葉に皆顔を上げるが、少し緊張している顔をしていた。

 “まぁ。この人もいるから無理ないわね。”
 そう思いながらマルセルを見上げる。

 目が合い、ニコリと笑顔が向けられる。

 何とも言えない雰囲気が漂う中、エマの元気で明るい声が空気を変える。

「お嬢様と殿下の分はコチラにご用意致しました!
 どうぞ!」

 私達に笑顔を向け案内するエマの後ろを歩く。

 窓際に置かれ、2人分の食器が並べられている席に着く。

 団長はマルセルの後ろに付き、エマは私の後ろに付く。

 すぐに食事を運んでくるニーナと、すぐ横にワインボトルの様な瓶を持つドイムがコチラに歩いて来る。

 その光景を目にし、マルセルが呟く。
「ちっ。バレたか。」

 “何のことかしら?”
 不思議に思い軽く首を傾げる。

 マルセルの前に立ち、慣れた手つきでボトルからグラスに注ぎつつドイムが言う。

「当たり前です。
 大事な会食前に飲もうとしないでください。」

「はいはい。わかったよ。」
 面倒くさそうに返事をするマルセル。

 その隙に私の前に料理が運ばれ、次にマルセルの前にはワインに合うのであろう軽い軽食。

 グラスを置き、ドイムが珍しく私に話しかけて来る。

「お嬢様も飲まれますか?
 ただのブドウのジュースです。」

 “あぁ。なるほど。”
 2人の会話の意味がわかり微笑む。

「えぇ。なら少し貰おうかしら。」

 ドイムはグラスに注ぎ私の前に置き、軽く会釈し素早く去っていく。

 “綺麗に注ぐわね。”

 そう思っていると目の前のマルセルがグラスを近づける。

「乾杯。」

 ふわっと優しく微笑む顔がグラスの奥に見え、
 私もグラスを持ち上げマルセルのグラスの縁より下の方に軽く当てる同じく微笑む。

 音もしない程軽く当てたが、私達を見ていたのであろう皆から小さく黄色い声が聞こえる。

 気にせずお互いに軽く一口飲みグラスを置く。

 先に話し出したのはマルセル。

「正直、俺よりアルヤの方が身分が高いんじゃないかと思うが。
 次期皇后陛下?」
 私がグラスを当てた位置の事を言っているのだろう。

「ふふ。考えた事ないですね。
 私はまだシャンドリの性を名乗っていますし、例え同じ地位になったとしてもアナタが上なのは間違いありませんし。」

 軽く笑いまた一口とグラスを傾ける。

「おっと?それは俺に決まったってことかなぁ?」

「さぁ?どうでしょうね。
 それに、例えと言ったでしょ?」

「ははは。
 まぁ、急ぎはしないさ。
 でも言っとくけど、同じ地位なのだから上下なんてないよ?
 何なら俺の方が弱そうだ。」

 言い終わると目の前の食事を口にする。

 すると後ろに居た団長が少し腰を折り言う。
「惚れた方が弱いからですか?」

「それさっき俺が言ったやつだろー。
 取るなよ。」

 軽く後ろを振り向き顔を合わせながら言う。

 まるでさっきの仕返しと言わんばかりに楽しそうな顔をする団長。

「違いましたか?」

「まぁ。…そうだけどさ。」

 2人の会話にクスクス笑いつつ、私も食事を進め思う。

 “昨日も思ったけど…
 第一騎士団には和やかな雰囲気が漂よう時があるのよね。”

 常にピリピリとした緊張感があるカレルドの第二騎士団との大きな違いを感じる。

 “人柄の違いか…
 飴と鞭の使い方が上手いのか…”

 チラッとマルセルを見ると目が合い首を傾げられる。
「ん?」

 ニコリと笑顔を作り答える。
「なんでもありません。
 会食のお約束があるのでしょう?
 こんな所でお食事なんてされてて良いのですか?」

 さっきドイムが言っていた事が気になった。

「あぁ。まだ時間はあるし構わないよ。
 今日に限って予定があるんだよなぁ…
 俺的には、アルヤとこうしてる方がいいんだけどな。」

 またチラッと後ろの団長を見るマルセル。

「勘弁してくださいよ?
 ただでさえ予定を変更して今日なのですから。
 それに、文句を言われるのは私ですし。」

 そう団長に言われ、ため息をつき諦めた様な声で言う。

「はぁ。わかってるよ。」

「あら、会食の相手ってもしかして…」
 団長とマルセルを同時に視界に入る様に顔を上げる。

「そう、コイツの家。マルンラルクの伯爵だよ。」

 マランラルクはシャンドリと同じく武術や剣技に力を入れ名を馳せる伯爵家。

 代々、武術に長けてきたミラディン侯爵家。

 2代前から徐々に力をつけ名を聞くようになったマルンラルク伯爵家。

 そして、お父様の代から一気に名を馳せたシャンドリ伯爵家。

 マルンラルクとシャンドリは、約20年ほど前の混乱を気に武術や剣技に力を入れ始めた家。

 この3家が今武術や剣技の中心となっている。

「ふふ。それはしっかりお会いしなければなりませんね。」

 笑う私の後ろを見て、面倒くさそうな顔をしていたマルセルが笑った。

「ははは。
 面白い顔になってるよ?」

 マルセルの言葉に後ろを振り向いて見ると、エマといつの間にか後ろに来ていたセナがポカーン。とした顔をしていた。

「エマは兎も角、セナも知らなかったの?」
 私も二人を見て笑う。

「存じ上げませんでした…」
 セナの言葉に、エマはコクコク!と頷くだけだった。

「あはは。マルンラルク イメリオと申します。」
 簡単に自己紹介する団長。

「まぁ、知らなくても無理ないね。
 皆は団長と呼ぶし、たまにだが第一のイメリオとかそう言う呼び方しかしないし。」

 セナの驚く顔を見ながらマルセルが説明する。
 肝心のエマはまだポカーンとしていた。

 そんなエマが可笑しくて少し昔話をする。

「ふふ。私の元婚約者様よ。」

 目を見開き驚くセナとエマ。






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