記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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第一騎士団長

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 ガチャっと後ろの扉が開き、私たちのいるバルコニーを入って来たのは第一騎士団長。

「お。呼ばれる前に来たな。」
 後ろを振り返るマルセル。

 ニヤっとするマルセルとは対照的に、団長は面倒だと言わんばかりに軽くため息をつく。

 そんな2人を見るために私も軽く振り返る。

「殿下にお話しする様な事はありません。
 私は、お嬢様にご挨拶に来たまでです。」

 そう言う団長と目があう。

「あら?私?」

「はは。挨拶ねぇ?まぁ許してやるよ。」
 軽く笑いマルセルは腕を組む。

 “偉そうなことね。”
 そう思いながらも、私から団長に声をかける。

「お久しぶりですね。」

 記憶をなくす以前にどんな会話をしたかわからないが、目が覚めてから今まで会話はしておらず久しぶりなのは間違いなかった。

「はい。お姿は拝見しておりましたが、こうしてお話しするのは久しぶりですね。」
 胸に手を当て軽く頭を下げつつ言う。

「先程は、私の侍女を助けていただきありがとうございました。」

 私も軽く頭を下げる。

「とんでもない。何事もなくよかったです。」

「手伝いまでもありがとうございます。
 団長様ですものお忙しいでしょ?」

「いいえ、自由にさせてもらっているので。
 ですが、嫉妬深い主人はどうも私がお嬢様と話すのが気に入らない様で阻止して来るのが唯一の不自由ですかね。」

 団長は笑顔になり、マルセルを見ながら言う。
 釣られ視線を移す。

 組んでいた腕を解き、左右に手のひらを広げ首を傾げとぼける。

 思い当たる節があり、笑いが込み上げて来る。

 “ふふ。昔少し出た話を気にしているのかしら。”

 手でニヤける口元を隠しつつフッと前を向くと、団長の後ろの窓ガラスからドイムがコチラを見ていた。

 それに気づいたマルセルはドイムに手招きをし入って来るのを許す。

 すぐにドイムが入って来て私達にお辞儀をし、マルセルに近づき小声で何かを伝える。

 話を聞きつつマルセルは団長に目配せをした。

 それに軽く頷き答え、私との間にあった距離を縮めつつ言う。

「先程の件で、どうやらその嫉妬は少しは解けたようですね。」
 照れなのか、諦めなのか分からない微笑みを見せる。

「ふふ。唯一の不自由がなくなったではありませんか。」

「緩和しただけでなくなった訳ではなさそうですし、違う不自由が出来るだけです。」

 2人で話し笑い合う。
 そんな私達をムスッとした表情で見つめるマルセルの姿が見えた。

 はぁ。と小さくため息をつく団長に言う。

「侍女らの恋路に口を出す気はないけれど。
 もし、アナタの所へやるとなると色々と大変そうね。」

 ピクっと反応をみせ、向き合うかたちで話していたが後ろを振り向き窓越しに部屋の中を見て黙ってしまった団長。

 丁度、エマが楽しそうな笑顔を振り撒いているのが見えた。

「身分が気に入りませんか?」

 私の問いに驚きつつも答える。

「い、いえ!…そう言う訳ではありません。
 身分など私は気にしてませんし…。」

 そう言いながら私の横へ並び窓越しに部屋の中を眺める。

「ふふ。そうですか。」

「まぁ。私が気にしなくても周囲が気にしますね。
 …そんな中に連れて行きたくはない。」

 侍女であるエマと、第一騎士団長でもう一つの肩書きのある彼。
 不釣り合いだと思う者も多いしだろう。

「それを聞いて安心しました。
 ですが…彼女が行きたいと言うのならば、その時は力になりましょう。」
 団長を見上げ、笑顔を見せる。

 夕日のせいか赤い頬をし目を見開き驚く。
「なっ…!?」

 そんな彼にクスクスと笑う私を見て、驚く顔が緩み微笑みに変わる。

「はは。その様に仰って頂けると心強いですね。
 まぁ見向きもされていない様ですが。」

 そんな団長の言葉に返したのはドイムとの話が終わったのだろうマルセルだった。

「惚れた方が弱いんだ。
 俺を見てれば分かるだろ?」

 ドイムは逃げる様に部屋の中へ戻って行くのが見えた。

「えぇ。殿下のお気持ちがわかる日が来るとは思ってもみませんでした。」
 私の横から離れながら言う団長。

 2人の会話を聞きつつドイムが去って開かれた窓からエマがそわそわとコチラを伺う姿がある。




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