記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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夕日を眺めての告白

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 食堂へマルセルとはいる。
 中では夕食の準備と今朝唐突に決まったデザートが簡易の机に並べられている最中だった。

 私達に気づいた皆は手を止め深くお辞儀をする。

「あぁ。気にしなくていいから。」
 マルセルの言葉に皆顔を上げ、作業に戻る。

 すぐにニーナが近づき丁寧なお辞儀を私とマルセルの前でする。
「お疲れ様でございます。」

「ありがとう。準備はどう?」
 私の言葉に顔を上げニーナは少し微笑みつつ聞く。

「はい。
 手伝いを申し出て下さった方が多くもうすぐ完了いたします。」

 その言葉を聞き、横にいるマルセルから『ふっ。』と鼻で笑う様な声がしたが気にせずながら周りを見渡す。

 奥の方に先に行ったドイムと団長の姿が見え、あちこちには皇宮侍女や従僕の姿。

「そう…。」

 “あまり見ない子もいるわね。”
 フッとエマに目をやる。

 周りの皆がドイムらに近寄るのを躊躇う中、エマと後ろから着いていくセナは気にする事なく近づき話しかけ、楽しげに会話する姿が見える。

 そんなエマを見ているとニーナが口を開く。

「どうされますか?
 一度お部屋に戻られますか?」

「いいえ、ココで待ってるわ。
 殿下はどうなさいます?」
 チラッとマルセルを見上げる。

「ん?アルヤがいるなら俺もココに居ようかな。」
 ニコリと笑顔を見せる。

「かしこまりました。

 出過ぎた真似かと思いましたが、殿下もお食事されるかもしれないと厨房には伝えてありますので、申して頂ければすぐにご用意できると思います。」

 ニーナの言葉に驚きをみせマルセルは答える。
「おぉ。流石だね、ありがとう。」

 そう言い私に聞く。
「アルヤもココで食べるって事?」

「はい。」
 頷きつつ答える。

 パッと表情を明るくしたマルセル。

 “まるで犬みたいね…”

「じゃ、俺もココで貰おうかな!
 いつものって言えば伝わるから、お願いしていいかい?」

「かしこまりました。」
 スッとお辞儀をし、直ぐに厨房へと向かうニーナを目で追う。

「やった!ラッキー!」
 満面の笑みを私に向けられる。

 犬みたいだと思ったからか、ピンと立つ犬の耳とブンブンと勢いよく振る尻尾が見えた気がした。

 思わずクスッと笑いが込み上げ、隠す様に顔を背ける。

「えー?なに?
 俺なんか変な事した?」
 私の顔を覗き込む様にし腰を折る。

「いいえ!何でもないですよ!」
 “犬みたいで可愛かった。だなんて言えないわ。”

 そう思いながら言い、私もマルセルに笑顔を見せつつ歩き邪魔にならないであろう部屋の端の窓の前に移動する。

「気になるんだけどなー?」
 マルセルもそう言いながら着いてくる。

「何でもないですって!」
 夕日で赤く染まった空が見える窓際を背にし立ち、開いている窓から風が入り髪が揺れる。

 髪を耳にかけながらマルセルを見上げ微笑む。

「まったく…」
 小さく笑うマルセルの声がした。

 マルセルも私の横に来て窓を背にし、部屋全体を見渡す。
「ところで、俺はアルヤがこんな所で何するのか知らないんだけど?」

「知らずに付いてきて、知らずに一緒にお食事する気だったのですか?」
 揶揄う様に笑う。

「そうだよ?
 さっき応接室で侍女らに『食堂に~』ってアルヤが言ってたのが聞こえたくらいだ。」

 “皆んなして耳がいいんだから。”

 廊下での陛下と、馬車でのカレルドを思い出しつつ今朝の話をし経緯を話す。

「あぁ。なるほど。」

 簡単な説明だったが理解し、並べられるテーブルを見ながら言うマルセル。

 すると、扉が開き数人の侍女らが入ってきた。その1人は台車を押しケーキを運び込んでいる。

 すぐ私達に気付き、ハッとした顔をし深くお辞儀をする侍女ら。
 そんな彼女らに笑顔を向けながら言う。

「ふふ。皆アナタを見ると緊張感を持ちますね。
 ね?皇太子殿下?」

 はぁ。と短いため息を吐く。
「別になりたくてなった訳じゃないんだがね。
 あぁやってかしこまられるのはあまり好きじゃない。」

 私の方を向き言うマルセル。

「ふふ。分かります。」

 クスクス笑いながら食堂を見渡す。

 他の者らと笑顔で会話をし相談し合い準備を進めていくエマを見つける。

 そして、そんなエマにチラチラと視線をやる者の姿も見えた。

 すると、後ろの窓からオレンジ色の光が強くそそがれる。

 フッと窓に振り返ると、マルセルも外を眺めていた。

「いい色だ。」

「そうですね。」

 簡単に返事をした私に笑いかけながらマルセルは私の後ろの方を指差して言う。

「外出てみようか。」

 指さす方を向くと、バルコニーへとつながる窓だった。

「えぇ。いいですよ。」
 笑顔で返し、外へと移動する。

 手すりに手を掛け、そよそよと心地の良い風が髪を揺らす。
 なびく髪を耳にかけつつ抑える。

 マルセルも直ぐ隣に来る。

 黙り夕日を見つめた。
 白い雲までもオレンジ色に染まる空。

 “キレイ。”
 眩しく輝きゆっくりと沈んでいく太陽。

「綺麗な夕日だね。」
 隣のマルセルが囁く様に言う。

 返事をする事なくマルセルを見ると、夕日ではなく私の方をしっかり見て言っている。

 ニコリと微笑みを崩さずに続ける。
「明日は晴れるかな?」

 何が言いたい事はすぐに分かった。

 ”このまま知らないフリをし適当に会話を続ける事も出来るけど…”

 夕日に視線を戻し考える。

 直球な物言いのカレルドとは違い、マルセルは意味を含ませる。


『気持ちが知りたい。』
『この想いは届くだろうか?』


 夕日を見ながらではなく、私の方を向いて言うのはそんな意味が込められているから。

 “花言葉の次は隠し言葉。
 そう言うの好きなのね…”

 だが、嫌いではない。

「…天気は変わるものですから、わかりませんね。
 ですが、晴れるといいですね。」

 私の返事にマルセルは笑う。

「ははは。十分だ。」








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