記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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 “ふふ。可愛い。”

 マルセルの背中に腕を回しポンポンと背中を軽く叩く。

「分かりましたから。離してください?」

 スッと身体を起こし眉が下がる顔で私を見下ろす。
 ニコッと笑い続ける。

「殿下が思っている様な事は考えておりませんでした。」

「それならいいけど。」
 少し安心した表情にかわるが、少し揶揄いたくなる。

「ですが、必要なのであれば受け入れないといけないとの思いはあります。
 キャロル嬢とは仲良く出来る気はしませんけどね?」

 クスクス笑いながら話す私を見てマルセルは動揺しながらも言う。

「なっ!
 ない!絶対ないから!」

 “いい反応するわね。”
 笑いながら思っていると、フッとマルセルの首に掛かるネクタイが少し緩み曲がっているのが気になった。

 “今崩れたのね…”

 マルセルの首元に手を伸ばす。
 ピクっと反応したが、気にせずネクタイを直しながら言う。

「まぁ、必要だったとしても、快諾出来るほどの器は持ち合わせていないですけど。」

 曲がったネクタイを直し終わり、ポンっと胸板を叩き『出来ました。』と合図を送り一歩下りまたニコリと笑顔を見せる。

 マルセルと目が合った瞬間また抱きしめられる。

「っ?!もぉ、せっかく締め直したのに。」

 はぁー…。
 と、長いため息の後にマルセルは言う。

「もぉ。は俺のセリフだから。
 …アルヤはさ?そう言うの考えてやってるわけ?」

「ネクタイを直すのがですか?
 私が気になったからしただけですが?」

「計算じゃなくて素なのか…
 困ったものだな…」

 どんどんマルセルの腕に力が入っていく。

「嫌だったのならもうしませんけど?」

 そう言うとガバッと顔を上げたマルセルと目が合う。
「違う!逆!」

 珍しく声を荒げる、そんなマルセルの顔は真っ赤だった。

 驚いてジッとマルセルの顔を見てしまうと、片手で顔を覆ってしまった。

「ふふ。そんなに嬉しかったのですか?」
 また揶揄いたくなりマルセルの顔を覗き込む。

「嬉しいに決まってるだろ…
 心臓止まるかと思った。」
 珍しく私から顔を背けながら言う。

「それは大変。
 本当に止まったら困りますので、控えますね。」
 クスクス笑いつつ言うと、マルセルの背中がピクリと動いたのが分かった。

 と、同時に私の方に振り向きながら言われる。
「それはヤダ!」
 まだ赤い顔が私に向けられる。

 視界の端でドイムが呆れているのか、片手を額に軽く添え頭を振るのがわかった。

 マルセルはさらに続ける。
「俺だけにして欲しい。
 他の奴にやってるの見たらソイツの首を切り落としそう。」

 恐ろしい事を口にするが顔は笑っていた。

「こわーい!」
 そんな一言だけ笑顔で返す。










 マルセルと横に並び廊下を歩く。
 その後ろからドイムがついてくる。

「あ、そう言えばここに来る時エノワールを見かけたんだけど、なんかすごいズタボロだったよ?」

「へ?!」
 マルセルの言葉に驚き見上げ変な声まで出る。

「はは。一体どんなヘマをやらかしたんだい?」

 いつもと変わらないマルセルの笑顔が私に向けられる。

「な、なぜ私に聞かれるのですか…?」




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