記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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ミラディン侯爵2

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 はぁ…
 ため息を吐き言う。

「私に謝罪は結構ですよ。」

 マルセルの言葉にも表情を変えなかった侯爵の眉がピクリと動く。

 ダナンと一瞬目が合うが直ぐに逸らされる。

「なんで?」
 私の方に身体を向けたままのマルセルは視線を私に移し不思議そうに見下ろす。

「本人の謝罪ではないからです。
 侯爵様からの謝罪はいりません。」

 そう言うと、マルセルはフッと笑う。

「はは。
 手厳しいですな。」

 ニコリと優しそうな笑顔を見せながら私に言う侯爵。

「侯爵様が謝罪したい事がある。と仰るならお聞きしますけど。」

 私も、ニコリと侯爵に笑顔を見せる。
 それをチラっと一瞬だけ見たダナンは頬赤くし俯いた。

「私がですか?
 ははは。残念ですがありませんな。」

 笑い飛ばす侯爵。
 マルセルは私たちの会話を黙って聞いているだけだった。

 笑い終え侯爵は続ける。

「娘は明日から皇宮の出入りを許されておりますので、本日は連れてきておりません。明日伺わせましょう。」

「いいえ。それも結構です。
 言われ、形だけの謝罪を聞く時間はありませんので。
 ご本人の意思で謝罪を。と言うならお聞きしますが。」

 また一瞬だけダナンと目が合う。
 そんなダナンを見て直ぐにマルセルの手が視線を遮る様に目の前に現れる。

「ちょ?!また!」

 マルセルを見上げるといつもの笑顔で小声で言われる。
「言ったろ?俺以外に笑顔禁止。」

 “本気で言ってたの!?
 自分だっていつも笑顔を貼り付けているくせに…”

「…では。あなたもその笑顔禁止です。」

 ニコリとマルセルに向かい笑顔を見せながら小声で言い返す。

 少し驚いた顔をし、ピクリと身体が反応するが直ぐに余裕そうな笑顔に戻る。

「いいよ?」

 予想外の返事に驚く。
 “『それは困るー。』とか、言われると思ったのに。”

 そう思っていると目の前の手が降ろされ言われる。
「今だけね。」

「あ、ズルい!なら私も…」
 言いかけ気づくが遅かった。

「いいよ?なら、話が終わるまで俺と居てくれるって事でいいね?」
 満面の笑みを私に向け言うマルセル。

 少しムッとするが、反論する事を諦める。
 これ以上は時間の無駄だろうとマルセルの笑みを見て思う。

「はぁ…
 分かりました。
 ですが、長居はできませんよ?」
 ピラっとカレルドから受け取った紙の束を見せる。

「わかった。」

 クルッとマルセルに背を向け、侍女らの方に向かいながら少し振り返り言う。

「どうぞ、謝罪でも受けてらしてください。」

「はは。そうするよ。」
 そう言うマルセルは侯爵らの元に歩いていく。

 “まったく…。上手く載せられてさしまったわね。”

 マルセルから目を離した、侍女らの前に行く。

「待たせてごめんなさいね。
 セナ。あなたはニーナと着替えていらっしゃい。
 疲れたでしょ?」

 セナを見て言う。

「ですが…」
 困った顔をするセナ。

「大丈夫よ。殿下もドイムも居るから。」

 チラっとセナの視線が、マルセルとドイムに移り直ぐに戻る。

「かしこまりました。
 …正直、足が限界です。」
 困った顔のまま少し照れくさそうに言う。

 後ろでは侯爵の声とマルセルの声が交互に聞こえてくるが構わず言う。

「エマは食堂を手伝ってらっしゃい。」

 ニーナとエマはサッとお辞儀をし言う。
「「かしこまりました。」」

 扉の前まで一緒に行き見送る。
 最後に出るニーナが心配そうな顔をし、私の前で止まる。

「…お一人で大丈夫ですか?私だけでも」

「大丈夫よ。さっきも言ったけど殿下とドイムも居るわ。」
 そう言いながら手に持つ紙の束をニーナに渡す。

「それに、これを私の机に仕舞ってきて欲しいの。大事な物だから。頼んだわよ?」

 受け取り大事そうに抱えるニーナは、心配ではあるのだろうが笑顔を作り言う。

「かしこまりました。」

「あ。それと、セナの着替えが終わったらアナタ達も食堂に居て頂戴。
 私も行くから。
 お願いね。」
 廊下に出る3人に言う。

「かしこまりました。」

 返事を聞き、私が扉を閉める。

 扉の前で大きく深呼吸をする。

 “カレルド殿下がそそくさと出ていったところを見ると…
 面倒な相手なのでしょうね…”
 そう思いながらゆっくり振り返る。

 謝罪が終わったのか既に向かい合いソファに腰掛けている3人。
 足を組み、背もたれに片腕を置き笑顔が消えたマルセルと目が合う。

 いつもの笑顔ではなく、ニヤッとした顔をし横に来い。と言う意味だろう、ポンポンと合図が送られる。

 そんなマルセルの横に行き一言添えて座る。
「お待たせ致しました。」





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