記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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秘密

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「簡単に信用していいの?」
 見上げると少し意地の悪そうな顔をしていた。

「えぇ。他の者より信用しても良いだろうと思っていますよ。」
 笑顔を見せ、セナを気にし目線をマルセルからそらす。

 料理長にケーキの感想を身振り手振りをしつつ言い、侍女らと笑い会うセナを見て安心する。

「あの子の両親だから?」
 マルセルもセナを見てから言う。

「そうですね。親族も含め問題ないからセナは副団長をやれているのでしょうから。」
 ニコリとマルセルを見上げる。

「確かに。団長や副団長なんかの側に置く者は、家柄や親族に危ない奴がいないか、関わってないかなんかは俺は調べはするけど、アイツはどこまで調べたりしてるかは知らないよ?」

 カレルドの騎士団のセナ。
 自分が調べていないからか、少し心配そうな顔をする。

「構いません。
 側に置くわけではありませんし、何かあれば私に見る目がなかった。ってだけです。
 それに…」

 娘が今の地位まで上り詰めたのを、台無しにするような事はそうそうしないだろう。
 そんな考えもあったし、セナの父親の依頼を受ける際の対応も個人的に好感が持てた。

 私の依頼だから。と、なりふり構わず受けず、理由を聞き納得し、さらに『自分らにも客を選ぶ権利がある。』と言わんばかりのしっかりとした目は好きだ。

 既に姿が見えなくなっている廊下を遠い目で眺める。

「アルヤ?」
 黙った私の顔を覗き込む様に屈むマルセル。

「…両親や親族と言うものに、羨ましさもあるのです。」
 ボソッと、言うつもりはなかった本音が出る。

 マルセルを背にする様に、クルッと集まり話すセナたちの方に身体の向きを変える。

「えっ」
 微かに声がする。

 軽く身体をひねり振り向き、人差し指を口元に近づける。

 ここでマルセルの顔を見る。
 眉が下がり、悲しげで心配なんかが入り交じるような…そんな表情をしていた。

 あえて満面な笑みを作り小首を傾げ言う。

「誰にも言ったことなかったのに、つい言ってしまいました。
 秘密ですよ?」
 サラッと髪が流れる。

 そんな私を見て、マルセルはフッと微笑む。

「あぁ。『二人だけ』のね。」

 何も答えることなく、身体をもどしセナ達の元へ行く。
 マルセルも後ろから付いてくる。

「お疲れ様。
 急なお願いをしてごめんなさいね。ありがとう。」
 料理長と皇宮侍女にお礼を言う。

「とんでもございません!
 私こそ、お気遣いいただきありがとうございます。」

 料理長が言い、頭を下げる横で皇宮侍女も頭を下げる。

 “この子は、皇女様の侍女らに食ってかかってた子ね。”

 そう思っていると、顔を上げた皇宮侍女と目が合う。

 ビクっと緊張した顔をするが私はニコリと笑顔を見せる。

「ふふ。どういたしまして。
 私も今夜食堂に行くから、また会いましょう。」
 皇宮侍女と料理長に言う。

「はい!
 それでは、これで失礼いたします。」

 また深く頭を下げ、侍女が台車を押し帰っていき扉が閉められる。

「私たちも、戻りましょうか。」
 そう侍女らとセナに言う。

「「はい!」」
 エマとセナの元気な返事を聞き、既にある程度片付けられていた部屋を見渡していると、閉められたはずの扉が開く。

 驚き、皆は開かれた扉に視線を集める。

「…カレルド殿下?」
 機嫌の悪そうな顔をしたカレルドと目があった。




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