記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

文字の大きさ
上 下
191 / 218

取り戻す自信と見送り

しおりを挟む





 すると、コンコン。と扉がなる。
 ニーナが急いで向う。

 すぐに台車を押し一人の皇宮侍女が入ってきて、そのすぐ後ろから今朝話した料理長が入ってきて深くお辞儀をする。

 つられて4人もペコリと頭を下げる。

 エマはサッと立ち上がり皇宮侍女が、押してきた台車に向かう。

 チラッと時間を確認する。
 “いい時間ね”

 そう思い立ち上がろうとするとニーナが私とマルセルの間にきて屈み小声で言う。

「殿下。ドイム様がお見えです。
 お伝えしたい事があるとの事ですが、お連れしますか?」

 チラッと扉の方に目をやると、ドイムの姿が少し見える。
 マルセルも同じように扉を見ながらスッと左手を軽くあげニーナに答える。

「いや、俺が行くからいいよ。ありがとう。」

「かしこまりました。」
 スッと後ろに下がるニーナを背中で感じる。

 少し、ふぅ。と息を吐きつつ立ち上がりマルセルが扉に向うのを横目で覗う。

 すぐにセナの母親が少し私に近づき小声で聞いてくる。

「あのお方は…?」

 腕を組みドイムと何やら話しているマルセルの横顔をチラッと見て言う。

「殿下の側近の方です。少し用があった様ですね。」
 ニコリと答える。

「…お忙しそうですね。」

「はい。昨日あんな事されたのですから、後数日は特別忙しいでしょうね。」

 チラッとマルセルを見たあと、すぐにセナの母親に目線を戻し言う。

 昨日、私たちの目の前にいた事もあり察することが容易に出来たのだろう。

「は!ここに来るまでに着飾った貴族の方々をお見かけしたのはそういう…
 お嬢様もお忙しいでしょう?お時間大丈夫なのですか?」

「私は普段と変わりありませんから、大丈夫ですよ。
 まぁ、数件話がしたいと申し出がありましたがお断りしました。」

「そうなのですね…
 貴族の方よりすぐに皇宮に入れてもらえたので視線が痛かったです…、」
 気がついたような表情をしたあと、苦笑いを浮かべる。

「ふふ。
 気にされなくて大丈夫です。
 今日は『騎士のセナがご親族をお呼びした。』と言う事になっているからスムーズだったのです。」

「…だからお嬢様はご自分が『おまけ』だと仰ったのですね。」

「その通りです。
 私の名を出すと色々と時間がかかるのです。」
 ここで、スッと人差し指を口元に添えつつ、セナの母親に少し近づき小声で言う。

「陛下も殿下も皆、過保護なのです。」

 いい終わりスッと離れ笑顔で背筋を伸ばす。

「まぁ!」
 クスクスと二人で笑いつつ、エマ達に目配せする。

 エマはコクリと頷き、料理長と皇宮侍女と一緒にコチラに来て紙袋を一人一人に手渡しする。

「どうぞ、お受け取り下さい。
 急にお呼びたてしたにも関わらず来て頂いたお礼です。」
 ニコリと4人に笑顔を見せる。

「わ!ありがとうございます!!」

 各々お礼を言うのを見測り料理長に言う。

「忙しいのにありがとう。
 ケーキ、美味しかったわよ。」

「あ、ありがとうございます!」
 思いもしなかったのか、慌てて頭を下げる料理長。

 すると叔母もお礼を言う。
「本当に、美味しかったです!
 見た目も綺麗で食べてしまうのが勿体無いくらいでした!」

 セナの母親も続く。
「えぇ!さすが皇宮の物だなと思いました!
 毎日頂けるお嬢様が羨ましい!」

 味の感想を言い合う姿を見て、笑顔では居たがどこか不安げな顔をしていて料理長の顔に本当の笑顔が戻る。

「そう言って頂けると嬉しいです…!
 ありがとうございます!」

 わいわいとケーキの話で盛り上がっている姿を笑顔で見つめる。

 “この人らなら、大きくリアクションをとり褒めちぎるとは思っていたけど、想像よりも大成功ね。”

 総料理長に頼んだ伝言が思いの外上手くいき嬉しく思う。

 “自信を取り戻せた様で、よかった。”

 嬉しそうな料理長を見ながら思っていると、セナの父親と叔父が近くにきた。

「土産まで頂きありがとうございます。」
 頭を下げる二人。

「ほんのお礼ですので、気になさらないで下さい。
 コレからもよろしくお願いしますね。」

「はい!こちらこそ、よろしくお願い致します。」
 叔父がペコペコと何度も頭を下げる。

「他にもご要望があれば、何なりとお申し付けください。」
 父親は私に笑顔をみせ言う。

 “要望…か。”

 少し考え言う。
「では、こんな色の物なんて出来たりしますか?」
 サラッと髪を手で払いながら聞く。



 マルセルも戻ってきて扉の前までだが4人を見送る。

「本日はありがとうございました。」
 4人は一斉に頭を下げる。

「いいえ。こちらこそ。
 ここまでしかお見送り出来ず申し訳ございません。
 気をつけてお帰りになって下さいね。」

 私の言葉にブンブンと首を横に振るセナの母親。
「とんでもない!十分でございます!」

「それでは、失礼いたします。」
 セナの父親が言うとまた皆一斉に頭を下げ帰っていった。

 そんな後ろ姿を見送りつつ横のマルセルが言う。

「簡単に信用していいの?」
 見上げると少し意地の悪そうな顔をしていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

処理中です...