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取り戻す自信と見送り
しおりを挟むすると、コンコン。と扉がなる。
ニーナが急いで向う。
すぐに台車を押し一人の皇宮侍女が入ってきて、そのすぐ後ろから今朝話した料理長が入ってきて深くお辞儀をする。
つられて4人もペコリと頭を下げる。
エマはサッと立ち上がり皇宮侍女が、押してきた台車に向かう。
チラッと時間を確認する。
“いい時間ね”
そう思い立ち上がろうとするとニーナが私とマルセルの間にきて屈み小声で言う。
「殿下。ドイム様がお見えです。
お伝えしたい事があるとの事ですが、お連れしますか?」
チラッと扉の方に目をやると、ドイムの姿が少し見える。
マルセルも同じように扉を見ながらスッと左手を軽くあげニーナに答える。
「いや、俺が行くからいいよ。ありがとう。」
「かしこまりました。」
スッと後ろに下がるニーナを背中で感じる。
少し、ふぅ。と息を吐きつつ立ち上がりマルセルが扉に向うのを横目で覗う。
すぐにセナの母親が少し私に近づき小声で聞いてくる。
「あのお方は…?」
腕を組みドイムと何やら話しているマルセルの横顔をチラッと見て言う。
「殿下の側近の方です。少し用があった様ですね。」
ニコリと答える。
「…お忙しそうですね。」
「はい。昨日あんな事されたのですから、後数日は特別忙しいでしょうね。」
チラッとマルセルを見たあと、すぐにセナの母親に目線を戻し言う。
昨日、私たちの目の前にいた事もあり察することが容易に出来たのだろう。
「は!ここに来るまでに着飾った貴族の方々をお見かけしたのはそういう…
お嬢様もお忙しいでしょう?お時間大丈夫なのですか?」
「私は普段と変わりありませんから、大丈夫ですよ。
まぁ、数件話がしたいと申し出がありましたがお断りしました。」
「そうなのですね…
貴族の方よりすぐに皇宮に入れてもらえたので視線が痛かったです…、」
気がついたような表情をしたあと、苦笑いを浮かべる。
「ふふ。
気にされなくて大丈夫です。
今日は『騎士のセナがご親族をお呼びした。』と言う事になっているからスムーズだったのです。」
「…だからお嬢様はご自分が『おまけ』だと仰ったのですね。」
「その通りです。
私の名を出すと色々と時間がかかるのです。」
ここで、スッと人差し指を口元に添えつつ、セナの母親に少し近づき小声で言う。
「陛下も殿下も皆、過保護なのです。」
いい終わりスッと離れ笑顔で背筋を伸ばす。
「まぁ!」
クスクスと二人で笑いつつ、エマ達に目配せする。
エマはコクリと頷き、料理長と皇宮侍女と一緒にコチラに来て紙袋を一人一人に手渡しする。
「どうぞ、お受け取り下さい。
急にお呼びたてしたにも関わらず来て頂いたお礼です。」
ニコリと4人に笑顔を見せる。
「わ!ありがとうございます!!」
各々お礼を言うのを見測り料理長に言う。
「忙しいのにありがとう。
ケーキ、美味しかったわよ。」
「あ、ありがとうございます!」
思いもしなかったのか、慌てて頭を下げる料理長。
すると叔母もお礼を言う。
「本当に、美味しかったです!
見た目も綺麗で食べてしまうのが勿体無いくらいでした!」
セナの母親も続く。
「えぇ!さすが皇宮の物だなと思いました!
毎日頂けるお嬢様が羨ましい!」
味の感想を言い合う姿を見て、笑顔では居たがどこか不安げな顔をしていて料理長の顔に本当の笑顔が戻る。
「そう言って頂けると嬉しいです…!
ありがとうございます!」
わいわいとケーキの話で盛り上がっている姿を笑顔で見つめる。
“この人らなら、大きくリアクションをとり褒めちぎるとは思っていたけど、想像よりも大成功ね。”
総料理長に頼んだ伝言が思いの外上手くいき嬉しく思う。
“自信を取り戻せた様で、よかった。”
嬉しそうな料理長を見ながら思っていると、セナの父親と叔父が近くにきた。
「土産まで頂きありがとうございます。」
頭を下げる二人。
「ほんのお礼ですので、気になさらないで下さい。
コレからもよろしくお願いしますね。」
「はい!こちらこそ、よろしくお願い致します。」
叔父がペコペコと何度も頭を下げる。
「他にもご要望があれば、何なりとお申し付けください。」
父親は私に笑顔をみせ言う。
“要望…か。”
少し考え言う。
「では、こんな色の物なんて出来たりしますか?」
サラッと髪を手で払いながら聞く。
マルセルも戻ってきて扉の前までだが4人を見送る。
「本日はありがとうございました。」
4人は一斉に頭を下げる。
「いいえ。こちらこそ。
ここまでしかお見送り出来ず申し訳ございません。
気をつけてお帰りになって下さいね。」
私の言葉にブンブンと首を横に振るセナの母親。
「とんでもない!十分でございます!」
「それでは、失礼いたします。」
セナの父親が言うとまた皆一斉に頭を下げ帰っていった。
そんな後ろ姿を見送りつつ横のマルセルが言う。
「簡単に信用していいの?」
見上げると少し意地の悪そうな顔をしていた。
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