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分からない思惑と青
しおりを挟むマルセルの口出しにもより、数枚のデザイン案が出来ていく。
その横で、私達はカラーを決める。
「んー。お嬢様の侍女様だと分かる色ってなると私は、淡いピンクを思い浮かべるのだけど…」
真剣な顔をして、私を見つめながら考えて呟くセナの母親。
「淡いお色のイメージはわかるけど、すべて淡い色にするのは締りがないわよ。
エプロンだけ淡いピンクで下の服とメリハリを付けるために濃いお色もいるでしょ?」
デザイン案の一つの紙に色の候補を書きながら叔母も考える。
「黒がやっぱり合わせやすいかしら?」
「それだと今とあまり変わらないじゃない?」
「じゃぁ濃いピンク?」
「えぇ…ないでしょ…」
二人の話を聞き、濃いピンクを着る侍女らを想像してしまう。
“ふふ。
似合わないし、濃いピンクはあの子のイメージね。”
ドきついピンクのドレスにギラギラのアクセサリーを身に着ける彼女を思い出す。
狩猟大会で、悪態を晒し1ヶ月の謹慎を命じられたキャロル。
“そろそろ、戻ってくる頃ね。”
まだあの時から1ヶ月しか経っていないけれど、随分と濃い1ヶ月だった。と思い返す。
だが、ゆっくり思い返す時間はない。
”もう戻ってこずに私に関わらないで欲しいとも思うけど、それはないでしょうね。
やけにマルセル殿下を慕っているようだし。”
カップを手にしたものの、ジッと紅茶を眺めながら思う。
“まぁ。戻ってきた方が、行動を観察できるし動きがあるならすぐに対処できるか…”
キャロルがマルセルに好意があるのは誰が見ても明らか。
その理由で、私を毛嫌いするのもわかる。
が。
何がしたいのかが分からない。
私にマルセルを取られなくないのならば、
マルセルではなく、カレルドを選ばせるようにう私に振る舞うのなら理解できる。
だが、そんな素振りは感じられない。
マルセルが皇帝になるのなら、側室を狙っている?
もし、ならなかった場合はそのまま正妻として?
どちらにしても、キャロルの意思ではどうにもならない。
まして、私に敵意を剥き出しにしている時点で印象は良くないだろう。
考えがあってあの様な稚拙な態度を取るのか、ただ思った事を行動に移しているだけなのか。
記憶のない部分のキャロルがわからない以上、考えれば考えるほどドツボにハマっていく様な気がする。
“…あの子と面と向かって話す必要がでてくるかもしれないわね。”
そう思うと気が重くなる。
「なら、紫はどうだい?
シャンドリ伯爵家のカラーでもあるし、深紫ならシックで落ち着いたアルヤの雰囲気にもピッタリだろ?」
マルセルの声でフッと我に返り、正面に座る彼と目が合う。
私の顔を見てフワッと微笑みを浮かべる。
「まぁ!素敵です!」
セナの母親がマルセルに向かい言い、叔母はコクコクと大きく頷く。
ニーナとエマを見ると、二人もコクコクと首を縦に振るのが見えた。
二人が気に入ったのなら文句はない。
「では、そうしましょうか。」
大本の色が決まり、細かいところの色が4人と侍女らで話し合わされるのを眺める。
「お嬢様?お疲れになられましたか?」
そう話しかけてきたのは後ろにいたセナだった。
「ん?大丈夫よ?」
少し屈み、私の顔を覗き込むような体制になるセナに顔を向け笑顔を見せる。
“考え事をしてたのが疲れたように見えちゃったかしら。”
そう思い少し反省する。
するとセナが小声で言う。
「無理されないで下さいね。あのテンションの両親らと話すと私でも疲れますから。」
思わず笑ってしまう。
「ふふ。大丈夫よ。ありがとう。
楽しいご両親たちね。」
「そう言って頂けると助かります。」
少し困った顔をし、セナはスッと屈めていた姿勢を戻す。
すると、正面にいたはずのマルセルが私の右隣に座る。
「どうした?考え込んでいた様に見えたけど?」
優しい微笑みとともに手が私の方に伸びき、サラッと横顔にかかる髪を耳にかけられるが、サラッとすぐに戻り耳が隠れる。
マルセルの指が耳に触れる。
「…大丈夫です。何でもありませんから。」
「本当かなぁ?アルヤはすぐ平気なフリするからなぁー。」
足を組み、その膝の上に肘をつき頬杖をし私の顔を見て笑顔になるマルセル。
まだ付けたままだった、お揃いの耳のカフスが付いていた事が嬉しかったのだろう。
フッと見ると、マルセルの左耳にもお揃いのカフスがチラリと見える。
「別に大したことは考えてませんよ。
濃いピンクの話で、彼女を思い出しただけです。」
「あぁ。あの子ね。」
誰のことか理解したのか、短い返答がすぐに返ってきた。
なにも返答せずにいるとセナの父親と目が合う。
「お話中すみません。少しよろしいですか?」
「えぇ?どうされました?」
「深紫ですが、一概にこの色。と言うのはないのです。」
緊張しているのか、一旦間を置きまた話を続ける。
「黒紫、赤紫。そして青紫などありまして…
特に青紫は、紺や青だと認識される方もいらっしゃいます。
私的には、青は他の貴族様のお色でしょうから青紫はオススメできません。
いつもなら、色のサンプルを出しつつお話を勧めていくのですが今手持ちがないものでして。」
「あ、ごめんなさい。
今日すべて決めるのは難しいのは分かっているわ、大体でよかったの。
はじめにお伝えすべきでしたね。」
笑顔を見せると、安堵した表情を全員がみせる。
「ちなみに、ミラディン侯爵家が青のカラーだよ。」
マルセルの言葉にピクリと反応してしまう。
「ふふ。イメージないですね。」
私がいうと、皆縦に首を振る。
「ははは。ないねー。
でも、コルンは青ではないけど紺をどこかしらにつけてるよ。」
“あぁ…。確かに、ネクタイが紺だった気がするわね。”
思い出していると、叔母が口を開く。
「コルン様!懐かしいお名前!
豪快でカッコよかったわよねぇ!」
「そう!憧れたわよねぇ」
セナの母親としみじみと思い出しているようだった。
「怖いイメージしかないんだが…」
叔父がぼそっと言うのが聞こえそれに賛同する様に、セナの父親が首を縦に振る。
“そうか…
この年代の方々は、20年ほど前の混乱を目の当たりにし復興してきたのよね。”
そう思っていると、セナの母親が私に笑顔を見せ言う。
「セナが騎士になるって言い出したのも、コルン様に憧れてなのですよ。」
「ちょ!お母さん!?」
思わず声を上げるセナ。
振り向き言う。
「え?そうなの?」
マルセルも私の後ろのセナを見ながら言う。
「へぇー。」
「やめてください…」
耳まで顔を赤くし両手で顔を覆うセナ。
「え?あんなのがタイプ?」
マルセルの言葉にバッと両手を顔から離し、全力で横に振り否定する。
「ち!違います!!そんなんじゃありません!」
セナの反応に全員が笑う。
すると、コンコン。と扉がなる。
ニーナが急いで向う。
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