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紫色の花
しおりを挟むゆっくり扉が開かれ、聞き慣れた声が聞こえるが、ここからでは姿は見えなかった。
声だけで誰が訪ねてきたのか分かったエマとセナが立ち上がる。
そんな二人に続き私も立ち上がると、緊張した表情になる4人に気がつく。
「そんな顔されなくて大丈夫ですよ。
昨日もお会いした方ですから。」
そう言い、少し開かれた扉にセナを引き連れ向う。
私の言葉で誰なのかわかったのか、4人もあ一斉にその場で立ち上がる。
すぐに扉の向こうの小さい花籠を持つ人物と目が合う。
セナは私の後ろで、先程両親らにも披露したようにお辞儀をする。
私は、ニコリと笑い軽く裾を持ち上げる。
「いらっしゃいませ殿下。お忙しいなら無理せずとも良かったのですよ?」
「すまない。必ず。と返事もしたし、もっと早く来れる予定だったんだけど、思いの外長引いてしまった。」
謝りつつ、いつもの笑顔で部屋に入ってきて私の前に来るのはマルセル。
「お疲れ様です。」
目の前のマルセルを見上げ微笑むと微笑み返してくれる。
「ありがとう。
キミらも顔をあげていいよ。楽にしてくれていいから。」
私に言い、お辞儀をし続ける私の後ろのセナとソファから立ち上がりその場での深くお辞していた家族らにも言う。
皆の顔が上がり、フッと笑うマルセルに持っていた小さな花籠を目の前に出される。
「はい。これ、アルヤに。」
小さく濃い紫色をした花がキレイに並ぶ。
“これは…”
見覚えのある花を目にし受け取るのに躊躇する。
意味を知っていているのだろうか。
花籠からマルセルの顔へと目線を上げる。
「…これは、意味のあるプレゼントですか?」
『気軽に物を受け取らないでほしい。』
そんな目の前の彼の言葉を思い出す。
「はは。あるよ?
けど、丁度時期だったのもあるから、深く考えなくていいよ。
懐かしいだろ?」
笑顔のマルセルから、そっと籠を受け取る。
「…えぇ。懐かしいですね。
ありがとうございます。」
“この時期になると庭に咲いてたわね…”
幼い頃遊んだ、シャンドリ邸の庭を思い出す。
ジッと花を見つめる私の頭をポンポンと叩きマルセルが言う。
「それで?何の話ししてたの?」
にこやかなマルセル。
簡単に今の説明をする。
そう言えばマルセルにセナのご家族の紹介をしていないと思い、セナを見る。
すぐに理解し、先程私に紹介したようにマルセルにも紹介する。
「へぇ。関係性は想像通りだが、服を作っているとは。」
関心するような物言いをし、マルセルはフワッと笑い私の方を見て言う。
「俺も名乗っとこうかな?」
何も言わず、笑顔だけを返す私。
スッと胸に手を当てニコリといつもの笑顔を4人に向け言う。
「第一皇太子の
ロンバルディ マルセルと申します。
昨日は邪魔し、巻き込んで申し訳なかった。」
マルセルの笑顔に女性二人は顔を少し赤らめる。
「と、とでもございません!」
セナの父親が言い、ハッとしたように皆で深く頭を下げる。
エマにより、皆に新たなお茶が配られ新たにマルセルのカップも準備される。
「お茶の1杯くらいのお時間はあるのでしょ?」
マルセルに聞く。
「アルヤの願いならば何杯でも。」
「まぁ。」
クスクス笑う私と一緒にソファに向う。
当然のように私の横に座るものだと思っていたが、セナの父親と叔父の近くに行き書いていたデザインに興味を示す。
「へぇ…。」
そう言いながら、テーブルを挟み私と向き合う様に座る。
そっとエマがマルセルの前にカップを置く。
私も先程と同じところに座り、花籠を膝の上に置く。
セナは流石に私の隣には座らずに後ろに立つ。
「コレって俺も口出していいやつ?」
デザインを見ながらマルセルは私に聞く。
「構いませんが、ご意見が通るかは分かりませんよ?
私の物ではなく、侍女の物ですから。」
「わかってるよー。」
そう言いながら、楽しそうに笑うマルセル。
“こういうの好きなのかしら。”
花籠の花にそっと触れながら思う。
思い掛けず男女で別れ、セナの母親が私に声をかけてくる。
「小さくて可愛らしいお花ですね。」
「えぇ。オダマキ。と言うお花です。」
花籠をセナの母親と叔母の間のテーブルに置く。
「流石ですね!私たちは王道なお花しか分かりません。」
叔母もニコリと私に話しかけてきてくれる。
「花言葉なんて、色でも変わってくるのですよね?」
ジッと花を見つめながセナの母親が言う。
「はい。贈る本数でも意味が変わるのものもありますね。
薔薇がその王道ですね。」
カップを手に取り少し口に含む。
「素敵ですよね!花言葉で自分の気持ちを伝えるって!」
「素敵だけど、難しいわよ。贈る方も受け取る側も意味を知っていないと成立しないものだし。」
叔母の言葉に母親が笑いながら話す。
「私たちには無理よね!お嬢様の様な教養がある方なら別なのでしょうけど。」
二人とも私を見る。
「私もそんなに詳しくはないですよ?
ただこの花は、シャンドリ邸の庭で良く見ていたからわかるだけです。」
お父様に庭に咲くこの花の事を聞いたことがある。
シャンドリのカラーである紫色をする花。
5月6月頃はこの『オダマキ』
少したち9月頃からは『リンドウ』が咲く。
どちらも花言葉に『勝利』の意味がある。
それを聞き、武術長けたシャンドリに合う花だと思い覚えていた。
「まぁ!馴染み深いお花なのですね!」
叔母が手をあわせ頬に当てうっとりとした表情を見せる。
「素敵な意味もあるのでしょうねぇ!帰ってから調べちゃおうかしら!」
愛の囁きの意味でもあると思ったのか、セナの母親は楽しそうに言う。
それにいち早く反応したのはマルセル。
クスッと笑うだけで何も言わなかったが目が合った。
「ふふ。思っている意味とは違うものが出てくるだけですよ?」
笑いながらセナの母親と叔母にも言う。
4人の頭の上に?が飛び交っているようだった。
ニーナとエマも花言葉までは知らないのか不思議そうな顔をしている。
フッと後ろのセナも見るとやはり頭の上に?が浮かんでいるような顔をしている。
「教えてあげたら?」
マルセルの言葉で皆一斉に期待した眼差しで私を見る。
「私がですか?持ってこられたのは殿下なのに?」
クスッと笑いつつマルセルを見ると、なんだか勝ち誇った顔をしていた。
「はは。良いじゃないか。」
勝ち誇った顔と、いつもの笑顔がなんだか癪に障る。
“全く。どこから自信が湧いて出てくるのか不思議ね。”
そう思いながら笑顔を返し言う。
「オダマキの花言葉は…
『愚か』です。」
「「「え?」」」
皆同時に同じ反応をする。
マルセルだけは笑っていた。
「ははは。まったくもぉ。」
「あら、本当だもの?」
ニコリとマルセルに笑いかける。
益々皆は、頭上に??が飛び交っている。
「それは全体で。だろ?
色見て欲しいなー。」
にこやかなマルセルは足を組み膝を軽く抱えながら言う。
同じ花でも、色で花言葉は変わるのもが多く存在する。
オダマキもその1種。
紫色をしたオダマキの花言葉は
『勝利への決意。』
、
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