記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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「さっきの?エノワールの事?」

「はい。エノワール様何かなさいましたか?」
 不思議そうに首を傾げるセナ。

「…まぁね。
 誰が誰に恋しようが勝手だけど、利用するために近づいてくる者は0ではないってだけよ。」

「え…」

 驚くセナに笑顔で返す。
「そう捉えられる仕草をしただけよ。
 大丈夫。セナが気にする事ではないわ。」

「は、はい。」
 よく分からないといった顔だったが、それ以上セナは何も聞いてくる事はなかった。

 片付けをするニーナの後ろ姿を見ながら考える。

 ”もし私が、カレルド殿下を選ばなかった時。
 あの人はどうするだろうか…”

 いずれは皇宮を出る事になるだろう。
 その時エノワールも着いていく決断をし、ニーナもそれに着いていくと言うのなら止めはしない。

 ただ。
『カレルド殿下を選ぶ方が、我々を引き剥がさずに済むと思いますよ?』
 みたいな、あの笑顔がムカついた。

 私のムッとした顔に、すぐエノワールは誤解だと答えたのも気に入らない。
 とっさに『誤解』と言う言葉が出てくると言う事は
 彼の中でも、そう言う思考があるからこその答えだから。

 本当に恋愛感情があるなら、付き合うなり結婚するなりして構わない。
 でも…カレルド殿下を有利にさせようとしたのが理由で近づいて来たのなら話が違う。

 ”その時は…”

 私の視線に気づいたのか、ニーナはフッと振り返り私に笑顔を向ける。

 とっさにニコリと笑い返したが、同時に今自分が考えていた事に罪悪感を覚える。

 “悪いふうに考えすぎね…”

 スクッと立ち上がり、セナに向かって言う。

「さぁ。着替えていらっしゃい。」

「え、着替えですか??」
 キョトンとするセナだったが、私の言葉を聞いたニーナは気合が入っている様な仕草をし、エマはパァッと笑顔になる。

「すぐにご用意致します。」
 そう言いすぐに動いたのはニーナだった。

「さぁ!こちらです!」
 エマがセナの腕を引っ張り歩く。

「え、何ですか?!」
 腕を引かれつつ、私の方を見るセナ。

「立ち居振る舞いを習いたかったのでしょ?
 ドレスもあるし、折角だしご両親に一番はじめに見て頂きましょ?」
 エマとセナの後ろから付いていきながら話す。

「え!!?そんな!見せなくていいですから!?」
 慌て、恥ずかしいのか顔を赤くするセナを笑いながら私の部屋に入る。




 慣れないドレスを身に纏い、ぎこちない動きをしつつも、容赦ないニーナの立ち居振る舞いの指導が続く。

「手が下がっていますよ。後、背筋が曲がっています。」

「は、はぃ!!」
 必死なセナの悲鳴のような返事が聞こえる。

 フッと時間を確認する。
 “そろそろ付く頃ね。”

 準備してある応接室に向かおうと思った瞬間、扉がなる。

 コンコン。
「お嬢様失礼いたします。総料理長のルベンでございます。」

 エマに目配せをし、すぐに扉が開かれ総料理長の姿が見える。

「失礼いたします。」
 ソファに座る私に深々とお辞儀をする総料理長。

「いらっしゃい。体調が優れないと聞いたけれど、もういいの?」
 今朝聞いた話をする。

「ご心配お掛けし大変申し訳ございません。
 少し疲れが出ただけですので、もう大丈夫でございます。」
 スッと顔をあげ、まだ疲れた表情が見える。

「そう。よかった。話は大体聞いたわ。
 大変だった様ね。」
 軽く微笑み、労いの言葉をかける。

「ありがとうございます。
 今朝の話は聞きました。
 私が不甲斐ないばかりに、申し訳ございません。」

「いいのよ。皇后様も、
 祖国の皇女殿下をどう扱って良いのか。と悩まれていたし。
 また何かあったら私の所へ来れば良いわ。」

 それに私こそごめんなさい?
 勝手に、今日の侍女らの賄いにデザートを追加させたの。良かったかしら?」

「問題ありません。助かりました。
 何から何まで、本当にありがとうございます。」

「ふふ。いいのよ。対したことしてないわ。」
 クスっと笑う私に、安堵の表情を浮かべる。

「ありがとうございます。
 侍女らに出すケーキとは別に出されていた物はどう致しますか?
 今からお持ち致しましょうか?」

「あぁ。あれは今から私のお客様が応接室にいらっしゃるの。
 その方々へ、と思ったのよ。」

「左様でございましたか。
 では、応接室にお持ち致します。」

「えぇ。エマがお茶の準備でそちらに行くから、一緒にお願い。」

「かしこまりました。それでは、準備をしてまいります。」

「ありがとう」
 ニコリと笑うと、深々とお辞儀をし部屋を出て行くのを見送る。

 すぐに立ち上がり皆に言う。

「さぁ。行きましょうか。」
 とても楽しそうなエマの隣で元気がなくなったセナがいる。

「ふふ。コケたら大変だから、ゆっくり行きましょうか。」

 コクリと頷くセナは、ぎこちない足取りでドレスを踏まないように気をつけながら歩く。

 そんなセナを気にしながら廊下を進み、応接室の扉がニーナによって開かれる。

 扉の前に、昨日知り合ったばかりの男女二人組が深々とお辞儀をしていた。

「すみません。少し遅れてしまいましたね。」




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