記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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打ち明ける秘密

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「…なるほど。そのお話でしたか…」

 そう呟くと、スッと背筋を伸ばしドイムは続ける。

「確かに。お目覚めになられた後から違和感を感じました。
 1週間以上お目覚めにならなかったのだから、混乱されていてもおかしくわないかとも思っておりましたが…」

 スラスラと話していたドイムは言葉を詰まらせる。

「アナタの推測で構わないわ。聞かせて?」

 私の言葉に頷き、続きを話すのではなく行き着いた答えを口にする。

「記憶がない。のですね。」
 珍しく私の目を見て言うドイム。
 私もその目をジッと見つめる。

「言い切るのね。」

「…はい。」

「どこでそう思ったの?」

「…遠征に行かれる前に、マルセル殿下と騎士団を回られてましたよね。
 その時、訓練している第一騎士団の中に居る自分を見て驚かれているお嬢様をお見かけしました。
 その時、ただの推測だった考えが間違っていないのだと思いました。

 …自分が騎士達に混ざり、剣術を始めたキッカケはお嬢様ですから。
 知らないはずないんです。」

 黙って聞く私に、ドイムはふわっと悲し気な微笑みを見せた。

 ふぅー。と長く息を吐き、軽く背もたれにもたれる。
「…そう。
 まぁ、何処かしらで矛盾のある行動はしているのだろうなとは思っていたけど…」

 私の言葉にエノワールとドイムは軽く顔を見合わせる。

「では…本当に…。」
 恐る恐る聞くドイム。

 ニコリと笑顔を見せ、背筋を伸ばし答える。
「えぇ。アナタ達の推測通りよ。流石ね。」

 黙ってしまうドイム。
 その横にいるエノワールが少し身を乗り出し、焦ったように私に聞く。

「ど、ドイムが騎士団で訓練しだしたのってだいぶ前ですよ!?
 一体、いつからいつまで!?」

 その質問に答えたのはドイム。
「少なくても5.6年の記憶がないのですね。」

 目を丸くするエノワールと、真剣な顔のドイム。
 カップを持ちながら答える。

「約6年から目覚めるまでよ。
 まぁ、半年程前の事は何となく思い出したけれど、曖昧なところも多いわ。」
 平然と答え、紅茶を口にする私。

 膝に肘をつき頭を抱えるエノワールがボソッと呟く。
「まじか…」

 何か言葉をかける事なく、カップを口元に持っていくとドイムと目が合う。

「この事は、何方までご存知なのですか?」

「…皇帝陛下。皇后陛下。マルセル殿下。カレルド殿下。アノルと、私の侍女2人までよ。」
 1人ずつ口に出す。

「最低限。って感じですね。」

「えぇ。この事は今私に付いてくれている、セナ達も知らないわ。」

「そうですか…」

「私は、てっきり2人とも殿下に聞いたのではないかと思っていたのだけど、違ったのね。」

「はい。何もお聞きしていませんし、自分からお聞きすることもありませんでした。」
 そうドイムが答え、エノワールがやっと顔を上げ言う。

「はぁ…。同じく。聞いていないです。」

「そうなのね。
 ふふ。少しはスッキリしたかしら?気になってはいたでしょ?」
 何とも言えない表情の2人に笑顔をで聞く。

 先に答えたのはドイム。
「…はい。予想はしていましたが。こう実際話を聞くと衝撃ですが。」

「スッキリと申しますか…。複雑ですね。
 6年て…
 少し思い出されたと仰ってましたが、少しづつでも思い出せてはいるのですか…?」

 想像以上の記憶がない事に驚きを隠せないエノワール。
 その質問に少し考えて答える。

「…いいえ。思い出そうとしていたけど、やめたの。
 過去を思い出しても、それは思い出に過ぎないわ。
 今からのこと。未来の事を考える方が重要だと思ったの。」

「今からのこと。ですか…」
 独り言の様に呟くエノワール。

「そう。特に今はね。
 今変に思い出しても私が混乱するだけ。ってものあるのだけどね。

 …記憶がない以上、今の殿下達を見ていき次期皇帝を決める事になるわ。」

 私の口からでた、『次期皇帝』の言葉にスッと背筋が伸びる2人。

「それは、殿下お二人にも伝えてあるからアナタ達が何かしなければならない訳ではないわ。
 でも、この事を知ってるか、知らないかでは考えが変わってくるでしょ?
 まぁ、気づいていた様だし。
 私からの激励として伝えておくわ。」

「「ありがとうございます。」」
 頭を下げる2人。

「ふふ。この事を殿下に話すかは自由にしてくれて構わないわ。
 動きやすい方で構わない。
 でも、他言無用でお願いね。」

「「かしこまりました。」」
 また2人の声がかぶる。

 少し顔を上げた2人は何か真剣に考えている様だった。
 黙ってその様子を、お茶を口にしながら伺う。

「6年。長いですね…。」
 ドイムもカップを手に取り口元に近づける。

「ふふ。初めアナタ達が誰か分からなかったわ。特に…」
 ジッとドイムを見つめる。

 パッと目を背けるドイムにエノワールが言う。

「随分変わりましたもんね。
 細くて病弱な感じでしたが、今では筋肉盛り盛りの大男ですもんねぇ」

 何も言わずに、目を合わせる事なくお茶を口にするドイム。

「ねぇ?私がアナタに何か言って剣術を始めたのでしょ?
 私、何で言ったの?」
 ビクッと反応し、チラッと私を見てため息をつくドイムにニコリと笑う。

「…何の取り柄もなく、落ち込んでいた自分に、
『私は近々妃教育が少しづつだけど始められるそうなの。私と同じタイミングで何か初めてみない?剣術なんてどう?!』
 っと、言われたのがキッカケです。」

 観念した様に話をしてくれた。

「まぁ!私そんな事を言ったの?!」
 クスクス笑う私に、ドイムは続けた。

「…はい。
 度々、廊下などですれ違う時などに、
『調子はどう?』『私はコレを習った。』など、お話をしましたね…。」

「へぇー!」
 と、ニヤニヤしながら聞くエノワール。
 ドイムは何も言う事なく黙る。

「ふふ。その調子じゃ、私エノワールにも何か言ってそうね?」
 悪そうな顔をしてドイムをみるエノワールに話を振る。

「僕ですか!?
 あぁ…。ありますね。」
 振られるとは思ってなかったのか、驚きつつ思い出す仕草をする。

「教えてちょうだい?」
 エノワールにもニコリと笑顔を見せる。





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