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ニーナとエノワール
しおりを挟む流石のエノワールもビクッとするのが見えた。
「そ、そうは言いませんが…」
「なら黙ってろ。」
そう言うとスタスタと歩いて行きあっという間に見えなくなった。
「はぁ…まったくもぉ…」
大きなため息をつくエノワール。
「随分機嫌が悪いわね。」
「えぇ…昨夜から機嫌悪かったり、心ここに在らずな時もありますね。」
疲れ切った顔を無理に笑顔を作る。
「ふふ。まぁ、お茶でも飲みながら少しゆっくりして行くと良いわ。」
私の言葉に、エマが準備をしに行き、ニーナが私の部屋の扉を開ける。
「あぁ、少し散らかっているけど気にしないでね。」
部屋入りつつエノワールに言う。
「はは。散らかってるだなんて、そんな事あるのですか?」
そう言いながら、私の後に続き部屋に入り直ぐに動きを止める。
「おっと…」
気にせずソファに座る。
ニーナは、ポットやカップの準備をする。
エノワールの視線の先には、トルソーにかけられた2つのドレス。
「こ、これ、見ちゃいけないものじゃ…」
自分を指差し言うエノワール。
「あら、なら見なきゃいいでしょ?
どうせ着れないもの、飾ってるだけよ。
意味はないわ。」
「もう見てしまいましたからねー。」
そう言いながら、マルセルから贈られたドレスをマジマジと見るエノワール。
「へぇ…。
さすが、マルセル殿下気合いが入ってますね…。」
見てはいけない。なんて言ったばかりなのにじっくり見る姿に笑いが出る。
エマが戻ってきた。ニーナが準備したカップが例のガラスの物ではなくいつもの物で、少し残念そうな顔をする。
それもまた、可笑しくて笑いが出るがエノワールに言う。
「ふふ。カレルド殿下も負けていないでしょ?
一見、真っ白に見えるけど、裾先に向かってうっすら色づいているじゃない?」
「あ、お分かりになって頂きましたか。」
そう言いながら、カレルドのドレスも見る。
胸元は真っ白。だが、本当にうっすらと徐々にピンクになっていってる。
私の髪色をイメージしたような、そんな色々。
だが、腰の赤いリボンが目に付き、本当に近くで見ないと分からない。
「布からの特注なのでしょ?
着れないの分かってるのに、凝りすぎよ?」
「えぇ…。本当はもう少し色が付く予定だったのですけどね。
これは、意地の張り合いみたいなものですから。」
“意地。ねぇ…”
そう思いながら、お茶が入りカップに注がれるのを眺める。
「時間やお金の無駄ね。」
「はは。まぁ、そう仰らずに。
コレを考えている殿下は、毎年心なしか楽しそうですよ?」
ドレスから目を離し私に振り向いて笑うエノワール。
「そう…。
さぁ。座ったら?お茶が入ったわよ。」
私の目の前と、対面にも置かれる紅茶。
「ありがとうございます。」
そう言い、私の対面に座る。
チラッとニーナを見ると、少しエプロンを握っているのが分かった。
「エマ。悪いけど応接室の準備をお願いしてもいいかしら?
3時ごろ、来客があると思うから。」
「来客ですか?かしこまりました!」
元気に言い、素早く部屋を出て行くエマを見送る。
「随分曖昧なのですね?」
紅茶を口にしながらエノワールが私に聞いてくる。
「えぇ。約束をしていた訳じゃないの。
今、セナが呼びに行っている所だからどうなるか正直わからないわ。」
私も、一口紅茶を口に運ぶ。
「なるほど。珍しいですね、お嬢様が人を呼ばれるのは。
お嬢様からのお誘いを断る人なんて居ないでしょ?」
「どうかしらね。」
別に隠しているわけではないが、詳しくは言わずにニーナに目を向ける。
「ふふ。昨日のカップを使いたいのだけど。
私が持っていった方が良いかしら?」
ピクリと反応を見せ少し顔を赤らめる。
「い、いえ!私が…」
ニーナは不思議そうな顔をするエノワールの前に行き、エプロンのポケットから手のひらサイズの小さな袋を取り出す。
「…どうぞ。」
一瞬固まるが、すぐに理解したのかビクッと立ち上がりニーナの手から袋を受け取る。
「え!?あ、ありがとうございます!
…お菓子ですか?」
「はい…」
小さく返事をするニーナ。
焼き菓子が数子入っているのだろう、透明な袋から見えた。
照れくさそうな2人を、紅茶を飲みながら眺める。
「良かったわね。甘い物ほしかったのでしょ?」
思考を巡らせているのか、黙るエノワール。
ニーナは一礼し、棚に向かいカップを準備しに行く。
頬を赤らめ座り直すエノワールに言う。
「付き合っているのではないの?」
「はぃ?!?!」
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