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夜の庭園

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「おや?」
「あら!まあまぁ!」
 男女1人づつの声。

 顔を上げると、仲良く腕を組んで歩く両陛下がコチラに近づいてきている。

 スッと立ち上がりお辞儀をする。

「アルヤお帰りー!」
 ニッコニコの皇后が私に言う。

「ただいま戻りました。」
 私も笑顔で挨拶する。

「こんな所で何してるの?
 マルセルの上着まで羽織っちゃってー!」
 楽しそうな皇后は陛下の腕から離れ近くにくる。

 マルセルも立ち上がりため息を吐きつつボソッと言う。
「…まったく。皆んなして俺の邪魔する。」

 聞こえたのか皇后はムスッとしマルセル頬をグイっと摘み言う。
「親に向かって邪魔とは何よー?!」

「ちょ!!母さん痛いって!!?」

 思わぬ家族の光景にクスクス笑いが出る。

 そんな私の横に来た陛下。
「お帰り。どうだったかな?」

「はい!楽しかったです!許可して頂きありがとうございました。」
 マルセル達よりも背の高い陛下を見上げ笑顔で答える。

「ははは!
 カレルドから軽く報告は受けているし、新聞記事も目にしたよ。
 まぁ、楽しかったのなら良かった。」

 優しく微笑んでくれる陛下と顔を見合わせる。
「はい。やらなくてはいけない事が見えてきましたし。とても有意義な日々でした。」

「ほぉ?まぁ好きにやりなさい。手助けが必要な時は遠慮なくおいで。」

「ありがとうございます。
 実は、侍女の件で少しご相談が…」

 ソフィアの事を話し、まず皇宮侍女として雇えないかと相談する。

「構わないが、皇宮内の事は皇后の管轄だ。言えばすぐ手配してくれるだろう。」
 そう言いながら陛下は、言い争う皇后とマルセルの方を向く。
 私も同時に陛下と同じ方を向く。

「だから!どうみても俺とアルヤはデート中だったでしょ!?」
 頬を抑えながら皇后に言うマルセル。

「知らないわよ!そこ曲がったらアナタ達がそこに居たんだもの!」

「居ても察して離れてくれてもいいでしょう?!」

「屈んでたんだから何してるのかって、普通気になるでしょ!?」

 2人の言い争いを陛下と見守る。
「はぁ。君が出て1週間、皇女の相手をしてたロザリアはずっとあんな感じでねぇ。」

 苦笑いする陛下。

「まぁ…。それは、お察し致します…。
 あ、先程皇女様にお会いしました。
 マルセル殿下もそのせいか気が立っているようですね。」

「あぁ。知ってるよ。この先だろ?
 皇女がここに入っていくのが見えたから、私達は鉢合わせないように後ろからゆっくり歩いてきたのだからね。
 ロザリアの気分転換のつもりだったが、こうなるのは予想外だ。」

「申し訳ございません…。」
 苦い顔をし陛下を見上げ言う。

「はは。君が謝る事なんて何もないよ。」
 そう言うと陛下は皇后に声をかける。

「ロザリア。アルヤ嬢が君に相談したい事があるそうだよ。」
 陛下の言葉を聞き、パッと明るい表情を私に向けて近づいてくる。

「アルヤー!」
 ガバッと抱きつかれ少しよろけるが、陛下がソッと支えてくれた。

「もう、アルヤがどれだけ良い子か実感する1週間だったわ!
 何でも言って!どんな無茶でも絶対叶えてあげるから!」

「お疲れ様でした。
 私はただ皇宮侍女として入れて欲しい子がいるので、そのご相談だったのですが…」

 顔を上げ首を傾げる皇后。
「皇宮の侍女?アナタのじゃなくて?」

「はい。技術面では問題なさそうですが、既に3度試験に落ちているそうなのです。どうでしょう?」

 少し離れるが、私の手を握る皇后の目を見て話す。

「いいわよ?なんなら皇宮侍女の管理、アルヤがする?」

 平然と言う皇后の言葉に驚いていると、マルセルが横に来て言う。
「それは皇后の仕事でしょう?」

「あら、いずれアルヤの仕事になるのよ?
 早いか、遅いかの違いよ。
 ねぇ?ロレンツォ?」
 マルセルを見たあとに陛下に視線が集まる。

「そうだね。」
 多くは語らなかった陛下。

「流石に急に全部丸投げはしないし、次の侍女長をどうするか、なんかも決めないといけないから、1番時間がかかると思うの。
 それに、何をするのか知らないけど、侍女達の動きが分かった方がやり易いでしょ?
 どうかしら?」
 優しい表情で私を見て話す皇后。

 “確かに、全て把握できるのならかなり役に立つし、いずれ私がする仕事…”

 黙って考えていると、またマルセルが口を開く。
「それっぽい事言って、自分の仕事減らしたいだけなのでわー?」

「やけに今日は突っかかってくるわね!」
 ムッとマルセルを見る皇后。
 握られていた手をソッと握り返し、私の方を向いた皇后に笑顔を見せる。

「とても有難いお話です。
 お忙しいとは思いますが、お願いでしますか?」

「もちろんよ!
 やった!皇女の相手が出来ない理由ができた!
 あ…」
 思わず本音が出たのか、言い終わり口を手で隠す。

「ははは。それが狙いだったのか。」
 笑う陛下に釣られてマルセルも私もクスッと笑ってしまう。

「そ、そうだけど!アルヤの為でもあるのよ!
 アルヤも断る口実になるでしょー!?」
 ワタワタと少し慌てて言う皇后が続ける。

「もう限界だったのよお!
 コレからは私は忙しいから、アナタ達の所に行けって言うから!覚悟しなさいよ!」
 マルセルに指を刺しながら笑う。

「俺の所より、カレルドの方を勧めてくれません?
 どうやら、カレルドと楽しく話されたそうですよ?」
 フッと少し悪い笑顔になるマルセル。

「はは。あいつと楽しく会話?何だそれ。」
 笑う陛下に私が答える。

「先程、皇女様ご本人が仰ってました。」

「そうなの?!」
 目を丸くする皇后。陛下も驚いているようだった。

「はい。」

「あの子にどんな話ししたのか聞き出さなくちゃ…」
 ボソッと言う皇后に笑っていると、皇后に握られていた手をマルセルが解き、私の手を引く。

「俺は、アルヤ。
 カレルドは、皇女。コレで丸く解決。
 でわ。」



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