記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

文字の大きさ
上 下
166 / 220

踊り

しおりを挟む




 すぐ横にマルセルの顔。
 あまりにも近くで囁かれビクッと身体を震わせた瞬間、周りにいた人たちから大きな拍手が鳴り響く。

 周りを見渡すと、かなり大勢の人集りができていた。
 その中にセナ達の姿が見え、さらにあちこちに記者であろう人の姿が多く伺える。

 “企み通り。って感じね。”

「…あの。離していただけますか?」

「えー。」
 嫌そうな返事をしながらも離してくれる。

 ずっと私達の周りを回っていた無数の火の玉がフワッと空にまた上り一つ、また一つとゆっくり消えていくのを見上げる。

「…綺麗。」

「アルヤの方が綺麗だよ?」

 後ろのマルセルに顔を向ける。
「もう…。」

 すると、私達に近づく人影。
 セナと、その家族だった。

「あ、あの!知らなかったとはいえかなり失礼な発言ばかりでした!本当に申し訳ございません…」
 セナを先頭に皆頭を下げる。

「まぁ、いいのよ。楽しかったもの!
 それに、謝るのは私達のほうよ?
 ご家族と過ごす予定だったのでしょ?邪魔してごめんなさい。」

 セナの肩をポンポンと軽く叩きながら、頭を下げ続ける家族に言う。

 それでも頭を下げ続けられる。
 どうしようもなく、マルセルを見上げ微笑む。

「ね?マルセル殿下?」

「はは。そうだね。」

 マルセルの声を聞き皆ゆっくり顔を上げるが不安そうな表情は消えていなかった。

「ふふ。なら、一つお願いしてもよろしいですか?ご婦人方。」

 笑顔で女性2人の前に立つ。

「も、もちろんです!!」
 少し表情が強張っている2人に両手を差しだす。

「一緒に、踊っていただけますか?」

「「え?」」
 驚く2人の手を取り引っ張り音楽隊の前に行く。

「楽しい音楽を、お願いできますか?」

 すぐに楽しげな揚々とした音楽が流れる。

「女性の皆さん!私と踊りましょ?」
 両手でドレスを広げて身体をひねり回る。

 良いのだろうか、と悩んでいる様子の女の子らの手を取り誘う。

 フっと微笑むマルセルと目が合った。
「ふふ。女性だけなら嫉妬しないでしょ?」

「ははは。女性だけならね。
 だが、楽しそうな君の笑顔を見る男どもの目はくり抜きたい。」
 髪を掻き上げながら笑うマルセルの言葉に、周りからヒッと低い悲鳴が聞こえる。

「まぁ!こわ~い!」

 マルセルの近くにいたセナが1番顔を引き攣らせていた。

「セナ!アナタもおいで!」
 手を取り引っ張り連れ出す。

「お、お嬢様!?私!踊りなんてできませんよ!?」

「適当でいいのよ!」

 女性たちの楽しそうな高い声が街中に響く。
 そんな光景をマルセルをはじめ、優しい目で男性たちが見守る。

 すると視界の隅で、金色の髪が横切った。
 “…金色?”
 すぐに見えなくなった。

 周りを見渡すが見つけることが出来ず、気のせいか?と思っているとパチン。と指を鳴らす音がした。

 先程より小さな火が多く空を舞う。

 ワッと皆空を見上げるが、私はマルセルに視線をやる。

 “あ…”




 、
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

処理中です...