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 少し歩くと、朝話をした騎士の一人が姿を現した。
「あいつが俺の隊の副団長だよ。」
 マルセルがその副団長を見ながら教えてくれた。

 すると、マルセルがローブの紐をスッと取っるとバサッと一瞬で脱ぎローブを現れた副団長に投げる。

 急に姿を表した皇太子に、人々は驚きのあまり黙るがすぐに黄色い悲鳴があがる。

 軽く手をあげ答えると、その手で髪を掻き上げる姿を見上げる。

「まぁ。派手な事なさるのですね。」

「アルヤがアイツとだけ出掛けている。なんて思われたくないからね。」

 そう言い立ち止まると、私の首元の紐を解きフワッと私のローブが外される。

 深く被って居た為、良くなかった視界が開け、風が髪を抜ける。
 さらにサラッとはらい輝く髪をなびかせる。

「キレイ…」
 後ろのセナのご両親らから声がし、振り返る。
 私達を呆然と見つめる4人に微笑む。

「ふふ。ありがとうございます。」

 すると、マルセルに手を引かれる。
「おいで。」

 言われるがままついて行く。
 音楽が流れていた噴水の前に連れて行かれる。
 楽器を演奏していた人たちも踊っていた人達も動きが止まっているが、そんな事を気にする事様子のないマルセル。

 私の前で膝をつき、握っていた私の手の甲にキスをし顔を上げ言う。

「踊っていただけますか?」
 笑顔のマルセル。

「ふふ。喜んで。」

 大きな拍手と黄色い声援が街を包む。

「お願いできるかな?何でも良いよ。」
 マルセルが噴水下の楽器を持つ人達に言うと、すぐにゆっくりとした音楽が流れはじめる。

「下手でも文句言わないで下さいよ?」

「はは。ないない!と、言うか任せて。」
 そう言うと、マルセルはパチン。と指を鳴らす。

 夕日も落ちてきて、ぼちぼちと電灯がつき始めた空に小さな灯りが無数に灯る。

 皆一斉に空を見上げる。
『わーー!きれいー!』
 歓声が沸き、そんな言葉が聞こえた瞬間、マルセルが私の腰に手当てゆっくり動き出す。

 踊る私達を見てさらに歓声が沸く。

「綺麗ですね…あれは…火?ですか?」
 踊りながら見上げ聞く。

「そうだよ。アルヤが水が得意なように、俺はこっちが得意。」
 そう言われた瞬間、小さな灯りが私達の周りを飛び交う。

「わぁ!」

 驚く私に、マルセルは笑う。

 皆に見守られながら踊りを続ける。

「正体を明かすのなら、初めから隠す必要なかったのでは?」

「はは!明かす予定はなかったよ。
 隠さないと自由に周れないし、常に付き纏われるのは、君嫌いだろ?」
 フワッと笑うマルセルを見上げる。

「もしかして…私が何か、言いました?」

「…ずっと皇宮で過ごす君が呟いたんだよ。
『鳥籠の中の鳥になった気分になる。周りを気にせず自由に歩き回りたい。』ってね。」

 覚えていない、失われている記憶の話。

 黙る私にマルセルは続ける。
「俺が勝手にその呟いてたのを聞き、過去3度連れ出し街を歩き回ったってだけだよ。」

「今回が初めてではないのですね…」

「そうだね。こうして街を歩くのは今回で4度目。
 俺は君を連れて出る時は基本、隠しひっそりとだけど。
 カレルドはそう言うのしないからなぁ。」

「では…今回こうして顔を出したのは、公に知らせるためですか?」

 踊りを続けながら2人で話す。
 黄色い声がやまない中で話す会話は、周りの者には聞こえていないだろう。

「まぁ、嫉妬ってのもあるけど、正直それが狙い。カレルドとだけじゃなくて、俺とも出掛けてるんだぞってね。
 あんなに大きく、君とカレルドの記事が数日続いてるんだ。黙ってはいられない。」

 笑顔を絶やさずに踊り、話すマルセル。

「ふふ。この事を記事にでもしてもらうおつもりですか?そう簡単にならないでしょ?」

「いいや。記事になるのは簡単だ。
 だが、この場に記者が居なければならない。が、居ないならこの場に呼べば良い。」

 冗談で言った言葉に、意外な反応が返ってきた。

「呼ぶって…」
 さっきのマルセルの行動を思い出し、ハッとする。

「何を書いているたのかと思えば…
 そう言う指示ですか…?」

 不敵な笑顔にかわるマルセル。
「ははは!そうだよー。
 そして、ここに居るぞ。と目印だ。」

まだ数個、夜空を漂う炎を見上げ続ける。

 「だが、セナって子には悪い事をした。
 つい、ドイムに渡す癖で紙を折るのを忘れてしまった。指示が丸見えだっただろうね。」

「なっ!?
 だから…セナの様子がおかしかったのですね。」

 カレルドの第二騎士団、副団長セナが、マルセルの企みが分かった上で動いたと言う事が知られれば何かしらの処分があるかもしれない。

 機嫌が悪いのであるなら尚更だろう。

「意地悪ですね…カレルド殿下よりあなたのほうが暴君だったりして?」

 私の言葉に笑い、片手は握られたまま腰に回されていた手が離れ、マルセルが私の後ろに回り抱きしめられピタっと止まった瞬間音楽も終わる。

「わぁ!?ま、マルセル殿下?!」

 マルセルに耳元で囁かれる。
「今、俺の前で他の男の名を口にしてほしくないな。
 俺の名だけを口にしてればいいんだよ。」

 すぐ横にマルセルの顔。
 あまりにも近くで囁かれビクッと身体を震わせた瞬間、周りにいた人たちから大きな拍手が鳴り響く。



 





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