161 / 220
お揃い
しおりを挟む真っ直ぐ私に向く。
「納品時は、直接お渡しさせて頂きたい。」
「ふふ。条件だなんて仰るから、何かと思えば…」
クスッと笑う私に目の前の老人の口元が少し緩む。
「大袈裟でしたかな?ですが、前皇后陛下にもそうさせて頂いてましたから。
もちろん。こちらから伺います。」
“やはり、前皇后と関わりがあったのね。”
「分かりました。ぜひ、お孫さんとおいで下さい。」
口角を上げ言う。
「はは。ありがとうございます。真実を知り、倒れるかもしれないですな。」
後ろを振り返ると、奥の一つの棚の前で何やら悩むマルセルの横で商品をいくつか持つ女の子が見える。
「ふふ。お孫さんはおいくつなのですか?」
真剣に悩んでいる様なので雑談を始める。
「あぁ…先月19歳になりました。」
「あら、私の2つくらい下だと思ってしまっていました。」
「顔も幼く、あの通り落ち着きがありませんからな。
貴女に憧れるのはいいが、少しは見習って欲しいものです。」
ため息を吐き呆れながら言い、椅子の背にもたれる。
「ふふ。元気で明るくて良いではありませんか。看板娘でしょう?」
老人の方に向き直し言う。
「あの子がですか?ないですな。ベラベラと話倒してるだけです。」
「まぁ。ふふ。話を途絶えさせないのも、才能だと思いますよ。」
クスクス笑っているとマルセルが後ろからやってきた。
「おや、ごめん。俺待ちだった?」
「大丈夫ですよ。何を真剣に悩んでらしたのですか?」
振り返り言うと、マルセルが私の前に屈む。
スッと私のフードの中に手を入れ右耳に触れられる。
「な、なにを…」
近くで、両手で口元を押さえぴょんぴょん跳ねる女の子が見えた。
直ぐに手が離れ、触れられた耳を触ると何かついていた。
マルセルと目が合う。
「俺とお揃い。」
そう言い、自分の左耳を見せる様にフードを横に引っ張る。
マルセルの耳の中心に小さな薔薇の形をしたガラスのイヤーカフスが挟まっていた。
もう一度触れて確かめると、同じ形だろうイヤーカフスが付いていた。
「…コレを真剣に選んでらしたのですか?」
「ははは。それなら普段も特別な時も邪魔にならないだろ?似合ってるよ。」
立ち上がりながら言うマルセルは少し照れくさそうだった。
「ふふ。ありがとうございます。」
「きゃー!素敵ですー!是非、結婚式呼んでくださいー!」
ぴょんぴょん跳ねていた女の子が我慢していたであろう声を出す。
「こ、コラ!やめないか!」
思わず老人が立ち上がり叱る。
正体に気づいているのかと疑ってしまう程、的確に揶揄ってくるような事を言う女の子。
「きっとすごく素敵なのでしょうねー!お顔を見なくても声や雰囲気がもう美男美女ですもんー!」
クネリクネリと身体を揺らし、叱られている言葉は聞こえていない様だった。
焦る老人に軽く手のひらを見せ、大丈夫だと合図を出したのはマルセルだった。
その合図に、椅子に座り机に肘をつき頭を抱えため息をつく。
「ふふ。アナタの名すら知らないのに?呼びたくても呼べないわ?」
クスクス笑い、女の子に言う。
ピタっと揺れていた身体が止まり、目を輝かせる。
「ヘレンと申します!!呼んで頂けるのですか!?」
「考えておくわ。」
きゃー!っと喜んぶヘレンを背にし、老人の方を向く。
「…ガラス工房店主、ガラス工芸師の
ブルネーロ ジノ と申します。
後日、改めてご挨拶させて頂きます。」
「わかりました。よろしくお願いしますね。」
そう言い立ち上がり、マルセルと2人店を出る。
外まで見送りにきてくれる2人。
ヘレンが少し申し訳なさそうにし来た。
「あ、あの!私も、お姉さんのお名前聞いても宜しいですか…?
訳があるのは承知ですが…。
誰にもいいませんので!!」
背の低いヘレンに少し腰を折り顔を近づけ耳元で言う。
「ごめんなさい。今は言えないの。
次に会った時に教えるわね。お爺さんについて来なさいね。」
そう言い、スッと離れ立ち直す。
「楽しみにしているわ。」
マルセルと一緒に、2人に手を振り店を後にする。
「あの子気に入ったの?」
また手を繋ぎ歩いているとマルセルに聞かれる。
、
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる