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ガラス細工
しおりを挟む足を止める私につられ、マルセルも足を止め私の視線の先を見る。
「ん?…行ってみる?」
コクコクと頷き、路地を歩き店の窓際に置かれたガラス細工が目に入る。
「キレイ…」
少し屈み、ウサギや猫などの動物のガラス細工に見入る。
「へぇ…。細かいね。一つ一つ動きが違う。」
マルセルも私の横で腰を折り、見ていた。
店内を隙間から覗くと、天井には小さな店にはそぐわない大きなシャンデリアが下げられていた。
その下の棚や机に、多くのガラス製品が並ぶ。
“ガラスのティーカップなんてあるのね…”
そう思っていると、店内に居た店の子だろう女の子が私達に気づくのが見えた。
パッと笑顔を見せ、店の扉が開けられる。
「どうぞ!ご覧になっていってください!」
立ち上がったマルセルがソッと私の背中に触れる。
「入ろうか。」
頷き、女の子の横を通り店の中に入る。
「わぁ、背高いですね…手が届きそう!」
シャンデリアを見上げるマルセルに、女の子が言うのが聞こえた。
「はは。流石に届かないよ。それに、これくらいならよく居るよ。」
「あ、すみません!これ程近くで背の高い方を見る機会がなかったもので!
私の家族皆、ずんぐりむっくりですから!」
マルセルの笑い声がする。
思わず、女の子の言った『ずんぐりむっくり』で笑いが込み上げクスッと笑ってしまう。
笑う私達に女の子は続ける。
「この通り!私もこんなですし!」
チラッと女の子を見る。
確かに、背は低く少しふくよかで可愛らしい子が自分のお腹を摩っていた。
“幼い雰囲気の子ね。私より2歳くらい下かしら。”
「女の子らしく可愛くて素敵よ。」
私の言葉にテンションがあがる女の子。
「わー!初めて言われました!ありがとうございますぅ!
でも、先月露店に出てこられたアルヤお嬢様の様になりたいのです!
偶然近くてお見かけしましたが、お綺麗で素敵な笑顔で見惚れてしまいました!
お二人も見られましたか?!」
まさかの私の話になり思わず黙ると、マルセルが代わりに答える。
「見てないねぇ。」
「それは残念です!
第二皇太子殿下と歩かれていましたが、とてもお似合いで素敵でしたぁ。」
思い出し、うっとりするような素振りを見せる女の子に対し黙ってしまったマルセル。
“その話を続けるのはマズいわね…”
「ねぇ?このグラスの模様って頼めば変えられるかしら?色なんかも入れられる?」
目の前のシャンパングラスを指差しながら女の子に聞く。
「あー。ちょっとお待ち下さいね!」
そう言うと、小走りで奥の方に入って行った。
マルセルが私に近づきながら言う。
「まったく。よく口が回る子だ。」
「ふふ。あれも一種の才能ですね。」
すぐに女の子が戻って来た。
「お待たせしました!
すぐに祖父が来るのでもう少しお待ちください!」
「あら、家族でやっているお店なのね。」
トントンと靴のつま先を床につける女の子に言う。
「はい!祖父、父、姉がガラス細工を作り、祖母、母、私が交代で店番しています!
祖父は昔、皇宮にガラス細工を卸していた職人らしいですよ!
本当か知りませんけど。」
最後だけ少し小声になり私たちに言う。
“皇宮に?…祖父という事は、前皇帝の時代かしら。”
マルセルの後ろ姿をチラッと見る。
「またお前はベラベラ余計な事を話しとるのか。」
店の奥からゆっくり出てきた老人が言う。
「余計じゃないわ!聞かれたからお話ししただけよお爺ちゃん!」
女の子が老人に向かって言う。
「皇宮の話はお前からだろうが。毎度毎度、言うなっと言っとるだろ。」
そう言いながら店に降りてきて私達を見て呆れた様に続ける。
「…まったく。店の中でもそんなモノを深々と。顔を隠さないとならない者に売るような品はないのだがね。」
“ごもっともね。”
「もぉ!お爺ちゃんたら!お客様にそんな事言ったら駄目よ!
それに、皇宮は話しをするのはこのお店の宣伝なのよ!」
女の子は私達に背を向け、老人の方を向き言う。
すぐにマルセルが口を開いた。
「ごもっともだ。だが、こちらも事情があっての事だ。分かって欲しいな。」
少し顔を見せる様に顔を覆うフードを軽く上げた。
背の低い老人は背の高いからマルセルを見上げる。
軽くでも、しっかりと顔が見えたのか驚く老人。
「え?」
っと、女の子が老人の方から私達に向き直す時には既にマルセルのフードはおろされていた。
「…なるほど。そちらのお嬢さんもですか。
ですが、ここは私の店です。
好きにさせてもらいますよ。」
椅子に座り、机に腕を置きながら言う老人。
“知り合いなの…?”
「構わないよ。」
そう言うマルセルの後ろ姿で軽くお辞儀をする。
「それで?どちらのご依頼かな?」
老人の問いに私が答える。
「私です。」
「どうぞ。」
座る老人と机を挟んだ椅子をすすめられ座る。
メガネをかけ、紙とペンを出し私の希望を聞きながら完成のイメージ図を書いていく。
話し合いながら多少修正をしていく。
紙を眺めながら、ゔーん。と考える老人に聞く。
「難しいでしょうか?」
「いいえ。出来なくはないでしょうが、やってみない事には。
イメージ通りにいくとは言えませんね。」
メガネを外し、目頭をつまみつつ言われる。
「出来る限りで構いません。」
ピタっと動きが止まるのが分かった。
「…職人様に向かって、出来る限りとは失礼でしたね。
申し訳ございませんでした。言い方を変えましょう。
期待しております。」
バッと顔を私に向け驚いた表情をする。
「…どこでそれを。」
首を傾げる私。
それに気づき老人は笑う。
「はは。失礼いたしました。
喜んで承りましょう。
ですが、条件があります。」
「何でしょう?」
、
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