記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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「え?それはどう言う意味…?」
 キョトンとする私にマルセルは笑う。

「今から、俺とデートしよう。」

 思ってもみなかった言葉に驚く。
「え…?」

 馬が止められ、降ろされる。
 騎士の一人から白いローブを渡された。

「本当に、行くのですか?ラドラインの件を考えると止めておいた方が…」
 ドイムが黒いローブを身に纏うマルセルに言ってるのが聞こえた。

「皇宮に居ても来る時は来るし。
 さっきの状況で、襲ってこなかったんだ。
 街中で、警備を張り巡らしている中にわざわざまた来て襲ってくる事はないだろう。」

 マルセルの言葉を聞きながら、私もローブを身に纏いフードを深々と被る。

「ですが…」
 まだ、何か言いたそうなドイムに背を向け私の前に来るマルセルを見上げる。

 私にニコリと笑いかけ、周りの騎士を見渡し言う。

「さぁ。行こうか。いつも通り頼りにしてるよ。」

 マルセルの言葉を聞き、騎士達は一斉にその場で片膝を付く。
「かしこまりました。」

 ドイムも少し遅れるが膝を付いていた。

 “すごい…
 人を動かす力。私なんかよりこの人の方があるでしょ…”

 マルセルは私に肘を曲げる。
 深々とフードを被ったマルセルを見上げると、優しい微笑みで私を見ていた。

 そんなマルセルの肘に手を掛けることなく、真っ直ぐ手を出す。

「…手を繋いでいただけますか?」

 驚いた顔をしたと思ったら、スッと手を握ってくれた。
 が、もう片方の手で顔を覆う。
「なに?その技。可愛すぎなんだけど…」

「わ、技って…。ただ思っただけですけど…」

 ”エマにオススメだと言われて途中まで読んだ小説でのデートシーンを思い出しただけなのだけど…”

 騎士たちから、笑い声がする。
「私らからすると、腕を組む方が難易度激高なんですけど…
 育った環境の差を感じますねぇ」

 騎士達に揶揄われる、顔の赤いマルセルを見て思わず笑う。



 手を繋ぎ、街へと続く小道を歩く。
 後ろに付いてきていた騎士の姿は既に見えなかった。

 不思議に思っているとマルセルが言う。
「大丈夫だよ。姿が見えないだけで近くで護衛してるから。」

「凄いですね…全然わかりせん。
 ドイムはどうするのですか?」

 乗ってきた馬数頭と、山道に置いてきたドイムを思い出す。

「アイツは馬を連れて皇宮に戻るよ。任せてる事もあるしね。」

 そんな会話をしていると、多くの人々が行き交い賑わう街に出た。

「わぁ…賑わってますね!」
 多くの店々が並ぶ通りに、集まる人々。

「今日は祝日だからね。俺らにはあまり関係ないけど。」
 “あ、そっか。”

 マルセルと手を繋ぎ一緒に歩く。
 “案外気付かれないものね…”

 背の高いマルセルをチラッと見るがローブで顔は見えなかった。

 私の歩幅に合わせてだろう、ゆっくり歩くきつつ周りを見渡す。

 オシャレなカフェ、沢山の花が並ぶ花屋、大きなガラスのショーウィンドウに並ぶドレス。

 ワクワクしながらキョロキョロする私にマルセルが言う。
「はは。気になる所、全部回ろうか。」

「いいのですか?」

「もちろん!目的がある訳じゃないからいくらでも付き合うよ。」

 普段、皇宮に篭りっきりで外に出るにも大勢の人の助けてがいる為、目的なく街を歩き回ることはない私にとって嬉しい話だった。

 思わず自然と満面の笑みが溢れる。
「ありがとうございます!」

 そんな私を見て、立ち止まり顔を背けるマルセル。

「どうされました?」
 キョトンと、マルセルの顔を覗き込む。

「いや…可愛すぎて見てられなかった…」

「え!?」

「後、ちょっと嫉妬。」
 背けていた顔を戻し、私を見てゆっくり歩き出す。

「…嫉妬?」

「そー。カレルドと露店回っただろ?
 その時も、アイツにもそんな顔して回ったのかと思ったら…ね。」
 いつもの笑顔のマルセル。

「ふふ。あの日は沢山の方に話しかけて頂きましたから、この様にゆっくり話しながら歩くなんてしてませんよ?」

「そうなの?」

「はい。多少は話しましたが、皆さんカレルド殿下に話し掛けておられましたし。
 殿下も応えて話してましたしね。」

「まじ?意外だね?」

「ふふ。私もそう思いました。
『街や村によく行くから俺を知っている奴が多いだけだー。』って仰ってましたけど。
 それにしては、親しげでした。」

「ふーぅん…」
 手を口元に持っていき考えるような仕草をするマルセルを見ると、丁度細い路地への道の奥に店がみえた。

 “ガラス…?”




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