157 / 191
招かれざる者
しおりを挟む心配で、不安でたまらなそうな顔をする侍女らが目に入る。
「大丈夫よ。あなた達も気を付けてね。」
笑顔を見せていると、カレルドの声がした。
「おい、ロベルト。お前も一緒についていけ。」
“え?!”
ビックリして後ろを向こうとするがマルセルで見えなかった。
そんな私の為か、自分の為か、マルセルは馬を操りカレルドの方を向ける。
マルセルが何か言う前にロベルトが呆れ声で答えた。
「はぁ?嫉妬っすか?気持ち悪。
自分で行きゃぁいいじゃないっすか。」
黙ってロベルトを睨みつけるカレルド。
“あんな殺気立ってるあの人によくそんな事言えるわね…”
そう思ってるとマルセルが言う。
「俺、そいつ嫌いだから付いてきてほしくないんだけど。」
カレルドを睨み返してたロベルトがマルセルに視線を移し微かに声が聞こえた。
「あ”ぁ?」
スッと横にいたドイムが腰の剣に手を掛けながら少し前に出て、マルセルと目を見合わせる。
軽く首を横に振るマルセルを見て、ドイムはそれを見てこれ以上動かなかった。
“従順なこと。”
二人を見て思う。
「俺だってコイツは嫌いだ。
だが、この中で一番ピンピンしてるのはコイツくらいだ。」
カレルドがマルセルに言う。
バチバチと3人の間に火花が飛ぶのが見えるようだった。
すると、カレルドらの後ろの道から一人の人物が馬で近づいてくるな見え顔が確認できるくらいまで来たところで思う。
“あ、エノワール。”
マルセルと馬に乗る私を見てか、どんどん顔が暗くなっていくのが分かる。
カレルドもエノワールに気づき後ろを向いた。
馬から降り、嫌そうな顔をしながら周りを見渡すエノワール。
最後に私を見て言う。
「あーー…。
どうやら、一番最悪な状況の時に戻ってきてしまったようですね。」
苦笑するエノワール。
「ふふ。そうね。」
軽く手を握り口元にやると、腕につけている魔鉱石のブレスレットが手首から肘に向かって滑った瞬間、一瞬で強く光る。
意味の分かる者すべてが緊張感を持ち辺りを警戒する。
マルセルは、私を力強く抱きしめながら辺りを見渡す。
黙ってマルセルに身体を預け私もキョロキョロと辺りを見渡す。
マルセル、カレルド、第二騎士団長の魔鉱石も光り輝いていた。
一瞬にして変わる雰囲気に、動揺する騎士達もいる。
ロベルトもその一人だった。
「な、何だよ…」
そんなロベルトの言葉を遮ったのは、カレルドだった。
「真上だ!!」
皆一斉に空を見上げる。
そこには、左右の翼の大きさもあまり気にならなくなっているラドラインの姿があった。
「ラドライン…」
思わず声が漏れる。
光る黄緑色の目が私を見つめフッと口角を上げたと同時にスッと一瞬で消えていった。
“消えた…”
同時に、魔鉱石も光を放たなくなる。
「何しに来たんだ…?」
マルセルのいつもより低い声が聞こえた瞬間、目の前に黒い蝶がヒラヒラと私の前に飛んできた。
見覚えのある黒い蝶に身体がビクッと反応する。
バッとマルセルがその蝶を手で掴もうとするが、つかむ前に消えラドラインの声が響いた。
『フッ。見に来ただけだ。』
皆も聞こえたのか、少し張り詰めた緊張がほぐれる。
何だよ、あれ…
人間?翼が生えてたぞ?
新人騎士らを中心にざわざわとどよめく。
「クソが…」
ラドラインのいた空を見上げ続けているマルセルを下から見上げる。
怖い顔をしボソッと呟くマルセルの腕にさらに力が入る。
「…殿下。あの…苦しいです。」
バッと私を見て、急いで力の入った腕を緩める。
「おっと!ごめん!」
何も言わず、ニコリと笑うとギュッと抱きしめられる。
「…はぁ。まったく…もぉ。」
少し震えるマルセルに抵抗することはなかった。
私達を見てか、今見たラドラインの事を言ってるのか分からないが、周囲のざわめきが大きくなる。
「何だよ…!アイツ!」
ロベルトの大きな声が聞こえた。
カレルドだろう舌打ちが聞こえる。
「アイツが『ラドライン』だ。全騎士に通達されただろ。」
え、あれ本当だったんだ…
何かの訓練かと思ってた…
そんな声が騎士たちから聞こえだす。
ゆっくりマルセルの腕の力が抜け、顔を見る。なんとも言えない顔で微笑むマルセル。
「そんな顔されなくても…私はここに居ます。」
笑顔で言うと、驚いたような表情になったがすぐいつものマルセルの笑顔に戻る。
「はは。そうだね。」
「何をしたらあんなのに付け狙われるん…ですか…」
私を見ながら言うロベルト。
マルセルとドイムに睨まれたのだろう、ロベルトは語尾に気をつけた様だった。
「ふふ。私も知りたいわ。」
カレルドも眉間にシワを寄せながら私を見ているが、何も言わなかった。
カレルドの隊と離れ、マルセルに馬に乗せられ帰路につく。
ロベルトは結構付いてくることはなかった。
馬車とは違い、風や木々の匂いを肌で感じる。
そして、真後ろにいるマルセルの香りもフワッと香ってくる。
「まだ、お渡しした入浴剤を使っておられないのですか?」
、
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる