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招かれざる者

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 心配で、不安でたまらなそうな顔をする侍女らが目に入る。
「大丈夫よ。あなた達も気を付けてね。」

 笑顔を見せていると、カレルドの声がした。
「おい、ロベルト。お前も一緒についていけ。」

 “え?!”

 ビックリして後ろを向こうとするがマルセルで見えなかった。
 そんな私の為か、自分の為か、マルセルは馬を操りカレルドの方を向ける。

 マルセルが何か言う前にロベルトが呆れ声で答えた。
「はぁ?嫉妬っすか?気持ち悪。
 自分で行きゃぁいいじゃないっすか。」

 黙ってロベルトを睨みつけるカレルド。

 “あんな殺気立ってるあの人によくそんな事言えるわね…”

 そう思ってるとマルセルが言う。

「俺、そいつ嫌いだから付いてきてほしくないんだけど。」

 カレルドを睨み返してたロベルトがマルセルに視線を移し微かに声が聞こえた。
「あ”ぁ?」

 スッと横にいたドイムが腰の剣に手を掛けながら少し前に出て、マルセルと目を見合わせる。

 軽く首を横に振るマルセルを見て、ドイムはそれを見てこれ以上動かなかった。

 “従順なこと。”
 二人を見て思う。

「俺だってコイツは嫌いだ。
 だが、この中で一番ピンピンしてるのはコイツくらいだ。」
 カレルドがマルセルに言う。

 バチバチと3人の間に火花が飛ぶのが見えるようだった。

 すると、カレルドらの後ろの道から一人の人物が馬で近づいてくるな見え顔が確認できるくらいまで来たところで思う。

 “あ、エノワール。”

 マルセルと馬に乗る私を見てか、どんどん顔が暗くなっていくのが分かる。

 カレルドもエノワールに気づき後ろを向いた。
 馬から降り、嫌そうな顔をしながら周りを見渡すエノワール。
 最後に私を見て言う。

「あーー…。
 どうやら、一番最悪な状況の時に戻ってきてしまったようですね。」

 苦笑するエノワール。

「ふふ。そうね。」
 軽く手を握り口元にやると、腕につけている魔鉱石のブレスレットが手首から肘に向かって滑った瞬間、一瞬で強く光る。

 意味の分かる者すべてが緊張感を持ち辺りを警戒する。

 マルセルは、私を力強く抱きしめながら辺りを見渡す。
 黙ってマルセルに身体を預け私もキョロキョロと辺りを見渡す。
 マルセル、カレルド、第二騎士団長の魔鉱石も光り輝いていた。

 一瞬にして変わる雰囲気に、動揺する騎士達もいる。
 ロベルトもその一人だった。
「な、何だよ…」

 そんなロベルトの言葉を遮ったのは、カレルドだった。
「真上だ!!」

 皆一斉に空を見上げる。

 そこには、左右の翼の大きさもあまり気にならなくなっているラドラインの姿があった。

「ラドライン…」
 思わず声が漏れる。

 光る黄緑色の目が私を見つめフッと口角を上げたと同時にスッと一瞬で消えていった。

 “消えた…”

 同時に、魔鉱石も光を放たなくなる。

「何しに来たんだ…?」
 マルセルのいつもより低い声が聞こえた瞬間、目の前に黒い蝶がヒラヒラと私の前に飛んできた。

 見覚えのある黒い蝶に身体がビクッと反応する。

 バッとマルセルがその蝶を手で掴もうとするが、つかむ前に消えラドラインの声が響いた。

『フッ。見に来ただけだ。』

 皆も聞こえたのか、少し張り詰めた緊張がほぐれる。

 何だよ、あれ…
 人間?翼が生えてたぞ?

 新人騎士らを中心にざわざわとどよめく。

「クソが…」
 ラドラインのいた空を見上げ続けているマルセルを下から見上げる。
 怖い顔をしボソッと呟くマルセルの腕にさらに力が入る。

「…殿下。あの…苦しいです。」

 バッと私を見て、急いで力の入った腕を緩める。
「おっと!ごめん!」

 何も言わず、ニコリと笑うとギュッと抱きしめられる。
「…はぁ。まったく…もぉ。」
 少し震えるマルセルに抵抗することはなかった。

 私達を見てか、今見たラドラインの事を言ってるのか分からないが、周囲のざわめきが大きくなる。

「何だよ…!アイツ!」
 ロベルトの大きな声が聞こえた。

 カレルドだろう舌打ちが聞こえる。
「アイツが『ラドライン』だ。全騎士に通達されただろ。」

 え、あれ本当だったんだ…
 何かの訓練かと思ってた…

 そんな声が騎士たちから聞こえだす。

 ゆっくりマルセルの腕の力が抜け、顔を見る。なんとも言えない顔で微笑むマルセル。

「そんな顔されなくても…私はここに居ます。」

 笑顔で言うと、驚いたような表情になったがすぐいつものマルセルの笑顔に戻る。

「はは。そうだね。」

「何をしたらあんなのに付け狙われるん…ですか…」

 私を見ながら言うロベルト。

 マルセルとドイムに睨まれたのだろう、ロベルトは語尾に気をつけた様だった。

「ふふ。私も知りたいわ。」

 カレルドも眉間にシワを寄せながら私を見ているが、何も言わなかった。




 カレルドの隊と離れ、マルセルに馬に乗せられ帰路につく。

 ロベルトは結構付いてくることはなかった。

 馬車とは違い、風や木々の匂いを肌で感じる。
 そして、真後ろにいるマルセルの香りもフワッと香ってくる。

「まだ、お渡しした入浴剤を使っておられないのですか?」




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