記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

制圧

「はは。次からはそうしよう。」
　ニコリと笑うマルセルの顔が見えた。
　ローブの隙間から、後ろがチラリと見える。
　大勢の騎士たちが倒れていた。
　その中に、ハンナとロベルトの姿もある。

「大丈夫…なのですよね？」
　思わず聞いてしまう。

「もちろん。血なんて流してないだろ？
　気絶しているだけだよ。」

　マルセルの言葉に安堵のため息で下を向く。

　すると、ムクリと起き上がる一人の騎士が見えた。
　“ロベルト…？”

　直ぐに剣を拾い上げ、マルセルに向かってくるのが見えた。

「ま！待って！」
　思わず声をあげる。

　既に気がついていたのか、マルセルは軽く剣で攻撃を受け流し、ロベルトの首に腕を回した。

「バカか？そんな殺気立たせて気付かれないと思うのか？」
　そう言うマルセルは、重々しい雰囲気が漂い、少し恐怖を感じ何も言えなかった。

「もういいだろ。」
　倒れている騎士達の横を、避けながら歩いてくるカレルドが見えた。

「…カレルド殿下」
　その後ろからカレルドと一緒に出て行ったベテラン騎士の一人も見えた。

　マルセルはパッとロベルトの首に回した腕を離す。
　その場でしゃがみ込みゴホゴホと、苦しそうな咳をするロベルト。

　そんなロベルトを見下ろしながら、マルセルは深々と被っていてたローブのフードを脱ぐ。
　片手で髪をかきあげ言う。
「お前、俺だと気づいてたろ？」

　“え…？”

　はぁはぁ。と苦しそうに呼吸をしながらくるりと体勢をマルセルに向け答えた。

「はぁ…あれだけ…派手に剣術を披露してたじゃねぇか。独特だったしすぐに分かった。
　…それに。」

　馬車から降りず座ったままの私を見上げ、すぐにカレルドに視線を移す。
「あんたが、このお嬢様を置いて出て行くのも違和感だった。」

　“あの時、私を見ていたのはそう言う事…”

　フッ。と笑ったカレルドは何も言うことなく、もう一つの馬車の方に行った。

「その観察力だけは評価する。」
　マルセルはそう言い、重々しい雰囲気だったのが嘘の様にいつもの笑顔に戻り私に手を差し出す。

　手を黙って重ね、もう片方の手で髪を耳元で押さえながら馬車を降りる。
　その様子を見上げるロベルトと目が合う。

「もぉ…。言葉使いを気をつけなさいって言ってるでしょ？」
　苦笑する私を見てロベルトは、その場で倒れる様に寝転がり片腕を目の上に置く。

「はぁ…はいはい。わかりました。」

「ダルそうに言わない。はい。は1回。」
　剣を仕舞わずに歩いてきたドイムが近づいてきながら言うと、ロベルトの顔の横の地面に剣を刺した。

　ビクッと飛び起きるロベルトを見て、クスっと笑っているとニーナとエマの声がした。

「「お嬢様！！」」




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