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涙
しおりを挟む幼い頃の夢を見る。
母と手を繋ぎ、楽しそうに笑い歩く。
見上げ、母を見るが笑っている口元が分かるくらいで、その上は暗く歪んで見えた。
誰か私の顔に優しく触ったのが分かった。
ゆっくり目が開く。
“あれ…私、寝ちゃって…”
開けたままだった窓は閉められてたのか、閉めた覚えのないカーテンが揺れていなかった。
窓際に寄りかかっていたはずだが、逆の方に身体から傾いていて見えた光景を、まだぼーっとする頭で思う。
段々目が覚めてくる。
対面に居たはずのカレルドの姿は見えなかったが、白いスーツの脚は目の前にある。
一瞬で今の体勢を理解する。
“え!?”
ドクンっと、心臓が大きく鼓動したと同時にカレルドの声が頭上から聞こえた。
「起きたか?相変わらず危機感ないな。」
バッと起き上がり、横に座るカレルドに謝る。
「す、すみません!!って言うか、何故そこに!?」
フッと笑うカレルドは、私の右頬に手を当て親指が動かされる。
「な、何を…」
「ボロボロ涙を流しているお前を、見て見ぬふり出来ないだろ。」
「え…」
カレルドを見つめながら、自分でも頬に手を当てると少し濡れている。
「まったく。寝ながら泣くなよ。」
今度は、少し強めに親指で涙を拭われる。
大きくてゴツっとしてて、少し乱暴だけど優しさを感じるカレルドの手。
何故だが分からないが、ジワッと涙が滲みボロボロと流れる。
「何でまたそんな泣くんだよ?」
そう言いながら、またカレルドの親指が動く。
「すみ…ません…
私にも…わかりません…」
不思議な手。
10日間、眠り続け目覚めかけの時の感触は今でも覚えている。
薔薇の温室で、二人で話した時もそうだ。
離してほしくなかった手。
“私は、この人に恋をしていたのかもしれない。”
まだ戻らない記憶の部分の話。
思い出す日が来るのだろうか。
ジッとカレルドを見つめ、瞬きする度に大きな涙が頬をつたう。
それをカレルドが手で拭ってくれる。
“皆が見たら、驚く光景でしょうね。”
そう思っているとカレルドが言う。
「俺を見ながら泣くなよ。俺が何かしたみたいだろ?」
「すみません。」
微笑み、カレルドに触れられている右頬の方に少し顔を傾ける。
「どんな夢をみたら、寝ながら泣くなんて事になるんだよ?」
笑顔を見て安心したのか、カレルドも微笑みを浮かべる。
「…お母様の。港街で暮らしていた時の、夢をみました。」
少し黙ってしまったカレルドと目が合う。
「そうか。」
そう一言だけいい、頬から手を離し今度は肩を捕まれ抱き寄せられ、驚きの声が咄嗟にでる。
「わっ!」
またカレルドに身体を預けるような体勢になった。
それ以上何も聞くこともなく、黙ってしまった。
拒否する事なく、身体預ける。
この人なりの優しさなのが伝わるから。
どれくらい時間がたっただろうか、沈黙を破ったのは私。
「殿下?」
変わらぬ体勢で、顔を見ることなく呟く。
「なんだ?」
淡白な返事がかえってくる。
「薔薇の温室で話してくれた…
私が眠っている時に持って下さっていた薔薇の意味に、『謝罪』が含まれていると仰ってましたよね?
あの時は、はぐらかされましたが…
お聞いてもいいですか?」
「あぁ…よく覚えてるな。」
「…今、思い出しただけです。」
カレルドな小さくため息をつき、ぽつりぽつりと話しだした。
「…お前を連れ、シャンドリ邸に着いた日の夜だった。」
“やはり、その時の話よね…”
そう思いながら、黙って聞く。
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