記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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それぞれの出発2

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「わかりました。」
 すると、すぐにエノワールが私に近づいてきて、コソッと言う。

「助かりました!ありがとうございます!
 朝から機嫌悪いんですよ…」

「何かあったの?」

「知りません。安易に聞いて地雷を踏んでしまう方が怖いので…」
 苦笑いするエノワール。

 “地雷を踏んだ経験があるのね。”
「ふふ。なら、言う事聞いて馬車に乗っておきましょうか。」

「本当に、助かります…」

 いつものように、侍女らと別れ別の馬車に。

 私が乗る馬車の前にいるエノワールを見て出発前に聞いた事を、ふっと思い出す。

「そう言いば、あなた港街までじゃなかったの?」

「はい。急な変更でしたので居ましたが、コレから別の仕事をし間に合えば合流する予定です。」

「忙しいのね。」

「ええ!そりゃもう!人使い荒いですから!」
 笑うエノワール。

 “そう言う割には、楽しそうね。”

 話しつつ時間を潰していると、準備が整ったのかカレルドが来た。

「出るぞ。」
 そう言いながら、馬車に乗り込む。
 扉が閉められ、ゆっくりと動きだす。

 不機嫌そうなカレルドは、窓縁に肘をつき頬杖をし外を眺めながらため息をついた。

「どうかされましたか?」

 赤い瞳が動き、チラッと私を見て直ぐに窓の外に戻る。
「なんでもねぇよ。」

「何でもないわけないでしょ?そんな顔して、ため息まで。」

「うるせぇな。いいだろ、別に。」
 そう言いながら、顔を私に向けるカレルド。

「まぁ。いいですけど。
 1つ質問してもいいですか?」

「何だよ。」

「最終日。何かあるのですか?
 …いえ、何があるのですか?」

 黙って私を見つめるカレルドの目を、私もそらすことなく見つめる。

「ったく…マルセルに何言われたんだよ。」
 少し睨まれたが、恐怖は感じなかった。

「最終日は気が緩む者が多いから気を付けろ。と言われただけです。」

「それだけで、何かあると言い切るのか?」

「いいえ。
 …覚えてますか?私が、なぜ今回訓練をしたのか理由を聞いた時。
 殿下は、『今までは、最後の1日だけ見た。』と仰いました。
 わざわざ、見に行かれる程の事があるのでしょう?
 マルセル殿下の言葉は、その裏付けになったに過ぎません。」

 黙って聞くカレルドに向かってニコリと笑ってみせる。

「まったく…
 そこまで考えが纏まっているのなら、何があるのかくらい推測できるだろ?」

「えぇ。ですが殿下に説明して頂きたいですね。
 機嫌が悪いのも、それ繋がりなのでしょ?」

 カレルドはフッと鼻で笑う。
「分かった。だが、誰にも言うなよ。」

「分かりました。」

 ため息を吐き、ダルそうに話すカレルド。
 話に耳を傾け、たまに相槌を打つ。




 心地よく揺れる馬車に、暖かい日差しが照らす。
 少し開けた、窓際に身体をもたれ掛かからせ、ボーッと外を眺める。
 たまにフワッと風が入り髪が揺れる。

 “静かね…”

 フッとカレルドを見ると、いつものように足を組み窓際に肘をつき頬杖をつき目を瞑っている。

 話終わると、この体勢になり目を瞑ったまま。

 別に話しかけるわけでもなく、また外を眺める。
 夜ふかしをしたせいか、瞼が重くなる。



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