記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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それぞれ出発

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「おー、怖い怖い!」
 コルンがマルセルに向かい、両手を上げ振る。

「もぉ…またそんな冗談を…」
 すぐ目の前まで来たマルセルを見上げると、グィッと顎を持たれ、顔が近づけられる。

「冗談じゃないけど?」
 笑顔が消え、ジッと見つめられ驚き固まってしまった。

 真顔なマルセルを私も見つめる。
 恐怖などは感じなかった。

「おや。私は邪魔な様なので、出発しましょうかねー。」
 コルンは上げたままの手を横に振りながら私達に言う。

 私に近かった顔が上がり、手が離されコルンを見るマルセルに釣られて私も見る。

「あぁ。次会う時は、アルヤは俺のになっているかもな。」
 マルセルが目の前の私を抱きしめながら言う。

「え!?マルセル殿下!?」
 “人前でこんな事をする人ではなかったのに…!”

「ははは!私は何方の肩を持つ気は、ありませんよー。お嬢様派なので!」
 笑うコルン。
 続けて大きな声で、第二騎士団の中にいたカレルドに向かって言う。

「カレルド殿下ー!私はそろそろ出ますので!」

 見えないが、すぐにカレルドの声が返ってきた。
「そいつらを引き剥がしてから行け!」

「はははは!だ、そうですけど?マルセル殿下?」
 豪快に笑った後、マルセルに言う。

 マルセルも一緒に笑い、真顔に戻り更に強く抱きしめ言う。
「嫌に決まってるだろ?」

「えぇ…」
 思わず声が漏れる。

「お止めはしましたが、嫌だそうですー!私にはどうにも出来ないのでこれでー!」
 コルンがまたカレルドに声を張り、大きく手を振った。

 カレルドの舌打ちが聞こえた様な気がする。

「え!?コルン様!?助けてください!」
 コルンに助けを求める。が

「ははは!本当にどうする事も出来ないのですよー。大変だと思いますが、頑張って下さい!」
 “頑張って、って…”

 近くにおいてあった馬に跨がる。

「それでは!また!」
 そう言うと、颯爽に消えて行った。

「で、殿下!離してくださいよ!」
 マルセルの胸下辺りに手を置き、離れるように力を入れるがびくともしなかった。

「やだよー。もう帰るだけなんだからさ、アイツと馬車に揺られてないで、俺と帰ろ?」

「私、馬に乗れませんから!」

「俺と乗ればいいだけだよ。ね?」
 やっと少しマルセルの腕の力が弱まり顔を見上げるほどの空間ができた。

 “ね?って‥”

「おい。準備出来てんのなら、サッサとお前も出ろよ。」
 カレルドの声がする。

「まだアルヤを連れて行く準備できてないんだが?」
 マルセルが嘲笑うような顔をカレルドに向ける。

「あ”ぁ?」
 眉間にシワをよせ、睨む様子がチラッと見えた。
 その後ろからエノワールが、大きな動作で手を合わせお辞儀を何度もする様子が見えた。

 “…私にやってそうね。”

 思わず笑い、マルセルに言う。
「ふふ。マルセル殿下。私は馬車で戻ることにします。
 侍女らもいますし、馬だとゆっくり本も読めないでしょ?」

 カレルドの方を向いていたマルセルが、私の方に向き直した。

「ふっ。エノワールの為かい?」

「いいえ。のんびり揺られながら、本を読むのが楽しいだけですよ。
 皇宮に居るとそうも行きませんし。
 戻ると、やる事が山ほどありますしね。」
 マルセルから離れながらニコリと笑う。

「そかー。そう言われると弱いな。
 馬車を引いて来るべきだった。」
 少し不服そうだが、穏便に済ませそうで安心する。

 すると、腰を屈め私の耳元で言う。
「いいけど、気を付けなよ?
 特に最終日、皇宮が近づいてくると気が抜けるものも多いからね。」

「は、はい。」

 ニコリと立ち直しすマルセルを見上げる。

 “最終日…?何かあるの?”

「仕方ない、俺も出ようかな。
 何かされたら直ぐ呼ぶんだよー!」
 そう言い、ポンポンと私の頭に触れる。

「わかりました。お気をつけて。」

 私の頭から手を離し、手を振りながら去っていくマルセルの後ろ姿を見送りながら、少し乱れた髪を手で戻す。

「呼ぶってなんだよ。」
 カレルドが私の前に来る。

「魔鉱石の話です。昨夜教えて頂きました。」

 チッと舌打ちをし、振り返り歩きながら言われる。
「馬車乗っとけ。フラフラすんな。」

 ”ずっとココにいたからフラフラしてないのだけど。”

「わかりました。」
 すると、すぐにエノワールが私に近づいてきて、コソッと言う。



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