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理想と意志と夢

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 岩の隙間を覗き込み、一生懸命になって探す子供が目に入る。

「ふふ。可愛いですね。」
 隣にいるマルセルに言う。

「はは。そうだね。余程大事なのだろうね。」

「木剣とは言え、剣ですもの。騎士にとって命でしょ?
 将来有望ですね?」

「ははは。確かに、将来は君を守るロイヤルナイトかな?」

「そんな者を連れなくても、出歩けるような平和な国にしたいものですね…」

「すっかり皇后だね?」
 マルセルと目が合う。

「そうですか?
 …私は、この国の次期皇后として生きる事を決めたのです。
 悪人や魔獣などに脅かされる事のない、この平和な時が当たり前に毎日来る様な…そんな国に。
 ただの私の理想ですけどね。」


「とっても良いと思うよ。
 君が望むのならば、俺はどんな手を使ってでも叶えてみせよう。
 例え、この身が朽ちる事になろうとも。」

「え…?」

「はは。そんな顔しなくていいさ。
 皇帝になる。そんな意志が固まったってだけだよ。」

「マルセル殿下…?」

 私から目を離し、いつの間にか岩山の上に登っている子供らを見守るマルセルの横顔を見ていると、大きな声が聞こえた。

「あった!!!」

 岩の上の隙間に、必死に手を伸ばす子供が見える。
 中々取れるずに悪戦苦闘する親子の後ろで、カレルドは佇み静かに見守っている。

 数分格闘し、男の子の大きな声がまた響く。

「取れたぁ!!!」

 石垣の上で見守っていた皆が拍手をし、喜びを分かち合う。

 嬉しいそうな子供と父親はゆっくり岩から降りてくる。
 無事、降り終わるのを確認し、カレルドも降りてくる。

 手も使わず、一瞬で降りてきたカレルドを見て子供が呟く
「かっこいい…」

 そんな子供の前に屈み、また話しかける。

「真似しちゃダメよ?
 この、お兄さん達だから出来る事だからね。」
 ニコリと笑うと、子供はカレルドを見上げ、次にマルセルを見上る。

「お兄ちゃん達、凄い人なの?」
 そう言い、小さな木剣を大事そうに抱きかかえ、私に純粋で真っ直ぐな目を向ける。

「な!何言っているんだ!話しただろ?!
 皇太子殿下お二人と、次期皇后陛下だって!
 本当に申し訳ございません。」
 子供の横にいる父親は両膝を付き、男の子の頭を掴み一緒に頭を下げさせる。

「構わないから、顔をあげていいよ。」
 マルセルの言葉に、父親は掴んでいた手を離し顔をあげる。

 また、子供と目が合う。
「ふふ。とても凄い人なのよ。上に沢山騎士の方が居たでしょ?
 このお兄さん達に付いてきているのよ。」

 身分の説明なんかより、大事そうに小さな木剣を抱える子には、騎士の話を出した方が伝わりやすいと思った。

 私が言うと、子供が目を輝かせる。
「そうなの!?
 僕も騎士になってお姫様を、お守りするんだ!」

 私達は思わず笑ってしまう。

 父親は頭を抱え言う。
「本当に申し訳ございません…
 この子の下に娘が居まして…その子の絵本の影響なのです。
 気になさらないで下さい…」

 目の前のキョトンしている子供に謝る。
「笑っちゃってごめんなさい。
 とても素敵よ。頑張ってね?皇宮で待ってるから。」

 マルセルが腰に刺している剣を取り、見せながら屈み言う。
「本物だけど、持ってみるかい?」

 うんうん、と頷く子供にゆっくり渡す。
「重たいからね?」

 受け取り、自分の身長の半分以上ある大きな剣を、両腕で抱え男の子は言う。
「おもーい…」

「お、…落とすなよぉ?」
 横の父親はヒヤヒヤしながら、近くに手をやる。

「ははは。落としても構わないけど、貰おうか?」
 そう言い、剣を子供から受け取る。

 するとカレルドが言う。





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