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小さな木剣
しおりを挟む「ふふ。だから『根深そうで面白そう。』だったのですか?」
カレルドを見て言う。
カレルドは私を見て少し笑った。
「ははは。気持ちいい瞬間ではあるよな。」
そう言いながら笑うマルセル。
そして続ける。
「ミラディン侯爵の名が出たから、まぁ、情報までに。
例の媚薬だが、どうやらミラディン侯爵家が絡んでいるようだ。」
「…この件と繋がりがあると?」
段々と日が落ちてきて、ほんのり色づく空を見上げるマルセルに言う。
「さぁ?あるかもしれないし、ないかもしれない。」
私の方に視線を戻し、ニコリと笑い言う。
「ふふ。まぁ、いいです。」
そう言い、コツ、コツ。と2歩前に出てクルッと振り返り海を背にして二人の前に立つ。
ずっとざわざわとしていた石垣上の人達の声が少し止み、静かになる。
「意外と、別件も関わっているのかもしれませんね。
この件。手伝っていただけますか?」
海から風が吹き、髪とドレスがなびく。
マルセルとカレルドは、そんな私を見て優しく微笑むと、二人同時に片膝を付き私を見上げ言う。
「「仰せのままに。」」
その瞬間、少し静かになっていた石垣上の人達が声をあげる。
「ふふ。何ですかそれ?」
1歩近づき、2人に言う。
2人は立ち上がり、マルセルが答えた。
「はは。昔、父さんが母さんによくやってたんだよ。
何か頼まれる度にね。」
「陛下がですか?」
「あぁ。お前を見てると思いだした。」
淡白だが、なんとなくまだ微笑みの残るカレルド。
すると、上から子供の泣き声が響いてきた。
「僕も降りるんだぁ!!」
「無理に決まっているだろ!」
石垣にしがみつき泣く子供、父親であろう人が必死に落ちないように抑えていた。
「あら、大変。」
見上げ、呟くとマルセルが少し声を張る。
「どうした?」
その問いに子の父が慌てて答える。
「も、申し訳ございません!!
今朝そちらに落としてしまった、小さな木剣を取ると言い出しまして…」
その間もわんわんと泣く子供。
「木剣?」
3人でキョロキョロと辺りを見渡すが、その様な物はなかった。
するとカレルドが、ひょいひょいと石垣を少し飛ぶようにして登っていき、親子の前に行った。
“あれも、魔鉱石で何か足場をつくって登ってるのかしら。”
そう思いながら見上げていると、カレルドが親子と少し話をしたと思った瞬間。
その親子がフワリと宙に浮き、石垣を乗り越えゆっくり降りてきた。
『飛んだぞ!?』
『嘘だろ!!?』
そんな声が上から聞こえてくる。
「やる事なす事派手だなぁ…」
「あら?殿下も人のこと言えませんからね?」
「はは。そうかなぁ?」
そう言うマルセルと、降りてきたカレルドとその親子の側に歩み寄る。
信じられない。といった表情をしている父親と、いつの間にか泣き止み呆然とする子供にカレルドが言った。
「ほら、探すなら早くしないと日が暮れる。」
ハッとした、父親がガバッと頭を地面に擦り付ける勢いで土下座をする。
「ありがとうございます!」
そんな父親の横の子供の横に屈み、話しかける。
「こんばんわ。
どの辺りに落としてしまったの?」
子供は黙ったまま、スクッと立ち上がり落とした辺りであろう岩山に駆け出す。
そんな子供の後ろを、カレルドが付いていく。
「はは。そんなに大事な物なのだろうね。」
後ろ姿の子供らを見ながら、マルセルが言うのを聞きつつ、立ち上がりながら見守る。
「大変申し訳ございません!!」
父親は私達に深々と頭を下げ、子供の後を追う。
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