記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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ソフィア

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テーブルが準備され、周りに椅子が囲むみ、叔父と叔母が座っていた。

私達が入ると、エマがにこやかに出迎えてくれる。
「あ!お嬢様!おかえりなさいませ!」

「えぇ。ただいま。」
ニコリと笑顔を見せ、エマが引いてくれる椅子に座る。
その横にカレルドも座った。

「すみません。慌ただしくて…」
目の前にいる叔父と叔母に謝る。

少し奥に、ニーナとソフィアが居るのを確認する。

「私達は全然いいのだけど…もう大丈夫なの?」

「はい。皇宮に戻ってからやる事は増えましたけど、大丈夫ですよ。」
満面な笑みを見せ安心させようとする。

「あの男は…どうなるのですか?」
叔父がカレルドに聞く。

足を組み、軽く背もたれに持たれ座るカレルドに視線を向ける。

「…やろうと思えばどこまででも出来る。
どうなるのを望む?」

鋭い目つきを叔父に向ける。
空気が一瞬にして凍りつく。

“叔父さまにまでそんな目をして…”

そう思い口を出そうとすると、叔父が言う。

「私はアルヤを傷つける者は許せない。
ですが、悲しむ姿は見たくないのです。
どうか適切な判断を、よろしくお願いします。」

「叔父さま…」

少しカレルドは笑い言う。
「まぁ、少し小突いて終わりだな。」

安堵の表情を見せる叔父と叔母。
その後ろから、ニーナとソフィアがカップを持ってくる。
ニーナは私の前に、お手本の様にゆっくりとお茶を目の前に置く。

「ありがとう。」

ソフィアは少し緊張した面持ちで、カレルドの前に立ちお茶を置く。
「どうぞ。」

「あぁ。」

そんな様子を見ていると、ニーナが少し屈み私に小声で言う。
「問題ないかと思います。」

私は小さく頷く。

叔父と叔母の後ろに戻るソフィア。

紅茶を少し眺め、考えながら口にする。

すると、エマが口を開いた。
「パン屋さんなのですよね?
今日はお休みされたのですか?」

その問いに答えたのは叔母。
エマに向かって言う。
「いいえ。今日の営業は終わったの。
私達も歳だから、もう1日中は厳しくて…
午前中だけで閉めてるのよ。」

「そうでしたか…
お二人だと難しいですよね。」


「ええ。ソフィアが毎日手伝いに来てくれているのだけど、そろそろ限界ね…」
優しく微笑みながら少し悲しげな顔をして、目の前のカップを指でなぞる。

“叔父さまも、腰が悪いみたいだものね…”
「そうですか…」

「歳取るわけだよね。美人さんにはなるだろうとは思っていたが、ここまでとわ。」
叔父が私を見ながら笑いながら言う。

「本当よね!見とれちゃうわね…」
叔母も私を見る。

「そうなんです!もう世界一ですよ!
その上、優しいですし!穏やかですし、でもカッコイイ時もあったりして!
そんなお嬢様の侍女になれて幸せなんです!」
エマが胸の前に拳を握り力説する。

「もう、エマやめてよ。恥ずかしいわ。」
辛気臭かった空気が穏やかな空気にかわる。

「お二人も…貴族の方なのですか?」
ソフィアが侍女らに質問する。

その質問にニーナはピクリと反応し、エマがたじろぎ、私を見る。
「いいえ。ニーナは男爵の娘だけど、エマはソフィアと同じよ。」

そう答えカップを持ち上げ口にする。

「「え?!」」
エマとソフィアの声が被り、顔を見合わせていた。

「私も男爵の娘ですが、既に没落しております。」
ニーナが自分の事を言う。

「そうなのか?」
カレルドも驚きだったのか、私をみる。

「はい。」
簡単に返事をすると、叔母も私に聞く。
「後ろ盾っていうの?そう言うのが必要じゃないの?」

「私の場合ですが、後ろ盾があると逆に妨げになるのです。
私を利用してこようとする方がほとんどですから。」

「利用って…孤独…なの?」
ソフィアがぼそっと言うのが聞こえた。

「ふふ。孤独ではないわ。
ニーナとエマも居るし、私の後ろ盾はシャンドリ伯爵と両陛下だから、変に他の貴族を入れる必要ないと思っているわ。」

笑顔を見せると、安堵の表情を見せる叔父と叔母。

だが、ソフィアだけは違った。
難しい表情をしたまま下を向いた。

痺れを切らしたカレルドが私に言う。
「身分で迷っているのかと思ったが、違うなら何に迷っている?」

ニーナ意外、首かしげる。

黙ったままの私にカレルドは続ける。

「あの大勢集まっている中、男に食ってかかる度胸があり。
俺の目の前にビビらず茶を出し、部屋を出ずに声を発せる奴はそうそう居ないと思うが?」

皆がソフィアを見る。

「ふふ。随分高評価ですね。」

「素直な感想だ。
お前と話す事すらできない奴だって多いだろ?」

「そうですね…」

ソフィアは自分の事を指差しながら言う。
「えっと…私の話…ですよね?」

「ええ、そうよ。
…ソフィア。皇宮に来る気はない?」
ニコリと笑いかける。



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