116 / 192
理由
しおりを挟むニコリと笑うと、カレルドも微笑み返してくれる。
近くで指揮を任されている騎士と話していたエノワールにカレルドが言う。
「エノワール、剣貸せ。」
「え。良いですけど…どちらに?」
こちらに来ながら腰の剣を抜きカレルドに渡す。
「いつもの所だ。」
受け取り腰に刺す。
「…気をつけて下さいよ?」
「あぁ。」
“そう言えば、剣持ってないわね…”
心配そうなエノワールを無視してカレルドは歩きだす。
少し引っ張られる形で着いていく。
「いつもの所って、よくここに来られるのですか?」
「この辺通るなら、大体ここで休憩やら設営になるからな。」
「そうなのですね…」
周りを見ると新人騎士達は手が止まり、私達を見ている。
その中からハンナが駆け寄ってくる。
「お供いたします。」
「いや、いい。アイツらに早く準備するように言っとけ。」
カレルドが新人騎士達に目をやる。
「かしこまりました。」
そう言い、戻っていくハンナを見届け再び歩き出す。
「こっちだ。」
私に歩幅が合わせられ、ゆっくり進む。
“変わったのはロベルトだけじゃなくて、この人もよね。”
思わず笑みが溢れる。
「何笑ってんだよ?」
「何でもありません!それで?なぜ訓練しようと思ったのですか?」
カレルドを見上げながら聞く。
「能力の見極めと厳選をしたかったのが大きな理由だな。
今回の訓練に参加している新人以上の騎士らは、全員お前の部隊を希望している奴らだ。
まぁ。アイツらだけじゃないがな。」
「え…」
「少数精鋭の部隊を作るんだ。中途半端は奴らを一々審査してやる暇はないからな。
一応、ある程度厳選し見込みのある奴だけを連れてきた。
新人の遠征訓練でもあるが、俺の目的はお前の部隊への厳選だ。実践に出して、どうお前を守るかを見るのが1番手っ取り早いからな。
お前が港街に行きたいと言ったのは、俺的には都合が良かったんだ。」
「え。でも、私の部隊って話は最近ですよ?その前から遠征訓練行くって言ってましたよね?」
「お前に部隊の話をするだいぶ前から、その話はあったからな。
準備のつもりの厳選だったが、タイミングよく訓練前に募集が始まったからメンバーを組み直した。」
「何か、色々と同時進行なのですね…」
「この件に関しては丁度良かったんだ。」
「セナは希望を出さなかったから外されたのですか?」
悔しそうだったセナを思い出す。
「いや。アイツが1番初めに希望を出した。」
「え、なら何故?」
「言ったろ。アイツには別の仕事を任せている。実力は知ってるし、どう動くかは大体わかる。」
「それは、セナは訓練に参加しなくても厳選に合格したって事ですか?」
「あぁ。…まぁな。
ある程度絞ってやるから後は自分で決めろ。
他の隊でも厳選が始まっているし、マルセルの所は終わったと聞いた。
皇宮に戻る頃には全体で30人程度には絞られているはずだ。」
「もうそんなに進んでいるのですか?!」
「あぁ。
ちなみにロベルトも希望を出してたぞ。」
「え!?嘘でしょ!?」
「全く。いけすかない野郎だ。
着いたぞ、あそこだ。」
薄暗い森を歩いてきたが、目の前が開ける。
日はだいぶ沈んでいる。
遠くの山の先はまだ赤く。空は暗くなりつつある。
もう少し歩くと、山の頂上に近いのか見晴らしがいい所だった。
「わぁ。」
下に見える街に灯りが灯っていく。
「どうだ?一応、考えてみたが。」
カレルドを見上げる。
“考える…?”
何のことかと思った瞬間思い出す。
「まさか、牢獄塔に行く時に私が言った事ですか!?」
「あぁ。」
「確かに、場所を考えてとは言いましたけど…
は!昼間の湖もですか!?だからあの時みたいに私と2人で馬車に乗ってたのですか!??」
風が吹き乱れる髪をカレルドはかき上げながら笑う。
「どうだろうな。」
“絶対そうだ!!”
「律儀ですね。でも、気に入りました!ありがとうございます。」
カレルドを見上げ笑顔を見せる。
チラッと私をみて景色に目線を戻す。
「よかったな。」
私も景色に目線をうつす。
「なんだか、露店に連れて行ってもらった帰りを思い出しますね…」
完全に山に日が隠れ、辺りは月明かりに照らされはじめる。
「同じ様にしてやろうか?お姫様。」
フッと笑うカレルドに手を差し出される。
手を取りつつ言う。
「ふふ。あの子達は元気でしょうか…」
言い終わる前にふわっと地面から足が浮き上がる。
「わ!相変わらず凄いですね…
魔鉱石をもらってから、殿下の凄さがよく分かります。」
「コレに関しては苦労したからな。」
どんどん高く舞い上がり、太陽が沈んだ山の先の街の灯りまで見えてきた。
、
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる