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命に代えても。

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はぁー。
 長いため息をつき、カレルドは馬車を降りた。
「お前はここにいろ。」
 エノワールに言い、後方に歩いて行く。

「うわぁ。」
 眉間にシワを寄せ、苦い顔をするエノワール。

「あの…耳を塞ぐのをオススメします…」

「え?何するつもりなの!?」

 すると、後ろの方がざわつくのが分かる。
 男達の悲鳴と怒号が段々大きくなっていく。

 嫌な予感がして手で耳を塞ぐ。
 エノワールは既に耳を塞ぎ、チラチラと後ろの様子を伺っていた。

『パァン!!!』
 と、凄まじい音と共に一瞬光る。

「ふぇ!!??」

「まだ来ますよ!!」

『パァン!!パァン!!』
 次は2回連続で鳴る。
 あまりにも凄まじい音に、思わず目を瞑る。

 間があき、ゆっくり目を開ける。

「もう、大丈夫そうです。」
 後ろを確認し、エノワールが言う。

「何あれ!?」

「あぁやって威嚇し、脅してるんですよ。」

「あれ脅しなの?!」
 “何人か殺ったんじゃないかと思うような音だったけど…”

「えぇ…まぁ。」

 エノワールと話しているとカレルドが帰ってきた。

「行くぞ。」
 馬車に乗ってきたカレルドから、不思議な香りがする。
 雨が降ったあとの様な。そんな香り。

 馬車の扉が閉められ、ゆっくり動き出す。

「すごい音でしたけど…」

「あぁ。ただの威嚇だ。殺したりはしてないから安心しろ。」

 私の考えがわかるのか、思っていた事を答えられる。

「そうですか…」
 少し早い鼓動を感じながら外を見る。

 “疲れた…”

 馬に乗ったエノワールが近づいて来たのに気づきカレルドは窓を開ける。
「何だ?」

「回り見てきましょうか?」

「いや、指揮官の指示があるまで動くな。」

「本当に何もしないつもりですか?」

「あぁ。何かない限り動く気はない。」

 “…じゃぁさっきのは何かあったから動いたって事?
 例のやつら、とか言ってたわね…”

 外から目を離さずに思う。

「はぁ…わかりました。取り返しがつかなくなる前に動いて下さいよ。」

 エノワールのその言葉にバッと2人を見る。

「おっと。失礼いたしました。」
 私に笑顔をみせ言うエノワール。

 カレルドも私を見て笑う。
「心配するな。命に代えても守ってやるよ。」

 ブワッと顔が火照る。

「よくそんなセリフを言えますね。」

「お前も言ってこい。」
 そうエノワールに言うと、ピシャッと窓を閉めるカーテンも閉めるカレルド。

「ふふ。ぜひエマにも言ってくれる方を送ってあげてください。」

 カレルドは目を瞑り言う。
「知らねぇよ。」

 クスッと笑い朝から読んでいた本を手に取る。





 カレルドと馬車に揺られ過ごす。

 たまに話つつ本を読む。沈黙の時間のほうが長いけれど苦ではなかった。

 もう一度、襲撃があったが直ぐに制圧され、恐怖などは感じなかった。

 段々と日が暮れ始め空が赤くなる頃、馬車が止まる。

「今日はココで設営だな。」
 カレルドに手を引かれ馬車を降りる。

 開けた場所に、騎士達がテントを組み上げていく。

 ひんやりする風が吹く。

「絶対1人になるなよ。いいな?」

「わかりました。」

 侍女らは食事の準備の手伝いに行きく。
 私達は、新人騎士たちが指導を受けながら悪戦苦闘しつつテントを立てる姿を見守る。

「はぁ…。まだまだ時間がかかるな。」

「こういうのを含めての訓練なのでしょ?」

「さぁな。」

「さぁな。って…
 何度も遠征訓練しているのでしょ?」

「初めてだが?」

「え?!そうなのですか!?」

「あぁ。俺の隊ではな。
 他の隊は隊長に任せてさせた事はあるが、俺は最後の一日だけ見ただけだしな。」

「え、ならなぜ今回訓練を?」

「まぁ。色々と事情はあるが…」
 そう言いながらカレルドは空を見上げ、私を見る。

 首を傾げる私にカレルドは腕を出す。
「ここで突っ立って話すより、歩きながら話そうじゃないか。」

 突然の提案に驚いたが、出された腕に手を軽くかけながら言う。
「いいですよ。」

 ニコリと笑うと、カレルドも微笑み返してくれる。





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