113 / 216
エノワール事情
しおりを挟むニーナとの隙間からカレルドを見ると、目があった。
ぶわっとまた顔が赤くなるのが分かる。
「まぁ、その日だけじゃないがな。」
私を、見下ろしながら笑い言うカレルド。
「も、もうやめてください…
罪悪感で押しつぶされそう…」
「なんだそれ。」
カレルドは私の前でかがみ言う。
「俺の勝ち。」
「な、なんですか!それ!」
「はは。最近負けっぱなしだったからな。」
立ち上がり、騎士たちの方に向かいながら軽く手をあげた。
「大丈夫ですか?何言われたのですか?」
エマが聞いてくる。
「10年前に何かあったのですか?」
ハンナも聞いてくる。
「もうやめてー!私じゃなくて殿下に聞いてよー!」
ニーナの胸に抱きつきながら言う。
「ご気分が悪いようじゃなさそうで、安心しました…」
「ニーナぁ…もう私、ニーナと結婚する。」
「まぁ。」
笑う声とともにエノワールの声がする。
「それは、色々と勘弁して頂きたいですね。」
少し顔をあげてエノワールをみる。
「…やだ。」
プイっとまたニーナに顔を埋める。
「ええ…」
私を囲む皆が笑う。
昼食を終え、片付ける騎士たちを待ちつつ
どこからかきた水鳥が泳ぐ湖を眺める。
「少し、よろしいですか?」
エノワールが近づいてきた。
「なに?」
侍女とハンナが数歩下がる。
横に来て話す。
「何かあったんだろうと察しますが、よく殿下が聞いてくださいましたね。」
「コレのこと?」
指輪をつけていた手を前に出す。
「はい。どうしたら大人しく聞いてくれるか、参考にしたいですね。」
「ふふ。私もよく聞いてくれたな。と思うわ。参考にするような事してないわよ。」
「それは残念です。」
穏やかに笑い、私の出した指を見るエノワールを横目で見る。
「…気になるなら殿下に聞いて頂戴。私から言うことはないわ。」
出していた手を下げて言う。
「いいえ。その話は危なそうですから。
でも、かなり予想外でした。」
「…次期皇帝が決まったと思ってた?」
湖を眺めていた視線をエノワールにかえる。
少し黙りエノワールが口を開く。
「…決まったとまでは思ってはいませんでした。近くなったとは思いましたけど。」
「やっぱりカレルド殿下に皇帝になって欲しいの?」
「あぁ…。
…正直、どちらでもいいんですよ。
皇帝になられたら、今以上に大変になりそうですし。
ですが、お嬢様がマルセル殿下をお選びになられると、それはそれで大変なんですよ…
このどちらかなら、皇帝になってもらった方が楽かな。と思ってます。」
「あはは!何その理由!嘘でも『なってもらいたい』って断言するものじゃないの?」
笑う私にエノワールは言う。
「正直に言った方が、お嬢様の記憶に残るでしょ?お願いしますよ?」
「ふふ。何?戦略なの?なら、思惑は成功かもしれないけど、私はアナタがどう忙しくなろうが関係ないのだけど?」
「わかってます。片隅にほんの少しだけでも記憶に残って貰えればいいのです。」
胸に手を当て、軽く会釈をする。
「さすがね…」
湖にまた視線を戻す。
気持ちよさそうに泳いでいた水鳥の姿はもうなかった。
「そろそろ出発ですね。行きましょうか。」
「ええ。」
入ってきた小道の方を見るとカレルドがコチラに来ているのが見えた。
皆でカレルドの側まで行く。
「それで?10年前に何があったかお聞きしても?」
歩きながらエノワールが聞いてくる。
「…まだその話するの?」
「そりゃ気になりますよ!まだニーナさんさえ居なかった時の話なのでしょ?」
“あぁ…まぁ確かにそうね。”
段々近づいてくるカレルドに向かって小走りで近づく。
「何だ?俺を見るだけで真っ赤にしてたくせに。」
「いじわる!」
カレルドの後ろに回り込み言う。
「エノワールが10年前の事知りたいそうですよ!」
「俺に擦り付けに来たのか。」
「はい!お任せします!」
後ろの私をチラッと見るカレルドを見上げる。
「任せるねぇ…」
エノワールと、その後ろに侍女2人とハンナが期待の眼差しでカレルドを見る。
、
1
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください
ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。
※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる