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真実
しおりを挟むマルセルを見た瞬間、風が吹き二人の髪がなびく。
顔にかかった髪を耳にかける。
マルセルも髪をかき上げていた。
「嘘?なんの事かな?
俺は君に嘘なんて言っていないよ。」
横から来る、1人の人影を気にせず話す。
「以前、ここで話をした時。
大きな喧嘩をし、2人で動けなくなった。と、お話して下さいましたね…」
「あぁ。したね。」
「引き分けだったと。仰っておりましたが、違いますよね?」
真剣な目を向ける。
「思い出したのかい?それとも、コイツに聞いた?」
驚きも動揺もしないマルセルは、チラッと横に来たカレルドに目を向ける。
「…いえ。当時の日記が出てきただけです。」
「ふふ。別に嘘って訳じゃないさ。
確かに先にコイツが倒れたらしいが、その数秒後に俺も倒れた。正直覚えていない。
その勝ち方に俺が納得していないから、引き分けだったと言っただけだよ。」
ニコリ笑うマルセル。
「では、私がした婚約の話はどう受け取られたのですか?」
カレルドが反応し、私を睨むのが分かるが見ないようにした。
「日記に書かれてなかったのかい?」
「…教えてください。」
「君から婚約の話をされた時。嬉しかったよ。
でも、惰性感がいなめなかったのが悔しくもあった。
だから、
『惰性ではなく、真剣に選んでほしかったけど、嬉しい。
準備ができたらプロポーズするから待っていてほしい。』
と君と約束したつもりだったのだが。」
黙り、俯く私にマルセルが言う。
「どうした?何か君の日記と違ったかい?」
「…私の日記には
『惰性ではなく、真剣に選んでほしかった』
としか書かれてなくて。」
「はは。はじめの部分だけか。
まぁ、否定するような言葉から言ったからね。そこだけ聞き取れたかな?」
“私が、全部聞いてなかった…?”
「俺的には、婚約するけどプロポーズはちゃんとするから待っていてほしい。って意味だったんだけど。
何日かして、君は断られたと思っているとに気付いた。
その辺は、ハッキリ言わない俺が悪かったと思ってる。
だから、君がコイツと付き合おうが文句は言えなかった。」
「なぜ、断られたと思っている私に、違うと言ってくれなかったのですか?」
「3ヶ月コイツと同じ部屋で、ベット並べて寝かせられてたんだ。
あの状況で、君に
『勘違いしてる』なんて話せなかった。
コイツに寝ている間に殺されかねないからね。
3ヶ月後、勘違いしてると話しに行ったが吹っ切れた顔をしていた君を見て今更言えなかった。」
「私が、目を覚ましたときに仰っていた…
婚約の約束をしたって言うのは、その事ですか?」
「そうだよ。
あの時は記憶がないって半信半疑だったから、ちょっと揶揄っただけだったんだけど。
同時に、記憶がないならないで、良いかとも思ったよ。
狩猟大会に誘うときに言ったはずだよ。口約束だった。と。」
「なぜ、その事を言ってくださらなかったのですか?」
「君が昔した婚約の話は実は承諾したんだー。だなんて、今更言えないだろ?3ヶ月経っただけでも言えなかったのに。」
「…申し訳ございませんでした。私がしっかり聞いていれば」
マルセルに頭を下げる。
「はは。いいんだよ。
俺も悪いんだ。
前にも言った通り、約束は君が記憶をなくしているなら無効だろうとも思ってるよ。
思いだしたなら、この話をして来ると思ったから、その時プロポーズする予定だった。」
ゆっくり顔をあげる。
「…ありがとうございます」
「くそっ。」
カレルドの苛立つ声がする。
「…もしかして、私がマルセル殿下に婚約の話をしていた時。起きて聞いてらしたのではないかと思っていましたが…
どうやら、違うみたいですね。」
「あぁ。知らねぇよ。」
“誰も嘘はついていない。”
「俺も、あの時お前が起きてるんじゃないかと思ったことがある。
アルヤの成人が近づいてきて、婚約の口約束が進まないように邪魔してると思って
カマかけたら本当に知らないみたいだった。」
マルセルはカレルドをみて笑う
「くそ、あの時待ち伏せてたのはそれか…」
髪をクシャッとさせながらカレルドが言う。
ニコリと笑い、花の方に身体を向ける。
「モヤモヤしてたものが、晴れた気がします。
ありがとうございました。」
カレルドであろう、ため息が聞こえる。
小指にしている貰った指輪に触れ、覚悟を決めた。
くるりと振り返り二人を見て言う。
「私のワガママを、聞いてくださいますか?」
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