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母からの手紙2
しおりを挟む母の字が書かれているのを見て、手が震える。
うるさい心臓を落ち着かせるように、ひと呼吸置き読む。
『アルヤ。
この手紙を読んでいるアナタは、もういくつになったのかしら。
それとも、すぐ見つけられたかしら。
この手紙が先にかしら?
それとも、ネックレスを見つけたのかしら。
ネックレスは、アナタがよくかくれんぼで隠れている机の裏にあるわ。
アナタの物よ。
あのネックレスには、アナタを守ってくれるおまじないをしておいたわ。
だから持ち歩かないで、お部屋に置いておいてね。
たまに確認して、赤い色が黒になったり割れたりしたらお父様や、お兄様に言ってね。
急に居なくなってしまって、ごめんなさい。
アナタを守るために、必要な事だったの。
勝手な母でごめんなさい。
決して、アナタを嫌いになった訳じゃないことを分かって欲しい。
私の愛しいアルヤ。まだまだ大きくなるまで側に居たかった。
近くで成長を見届けたかった。
お別れの言葉は言わないわ。
いつになるか分からないけれど、いつかきっと会いに行くから、待っていてね。
大好きよ。愛しているわ。
もう一つの封筒を準備したわ。
大人になりまだ詳しく知りたいと思うなら、開けてね。
他の手紙を、皆に渡してほしいの。
特に、陛下に渡してほしいわ。
お願いね。アナタの助けになってくれるはずだから。』
ボロボロと涙をこぼしながら手紙を読み終える。
“お母さん…”
すると、大きな手が私の頭を撫でる。
見上げると、いつの間にか入ってきていたカレルドだった。
「殿下…」
すぐにマルセルと皇后が部屋に入ってきた。
泣いている私を見て驚くが、事情は飲み込めた様だった。
「アルヤ?大丈夫?」
皇后が近づいてくる。
「…はい。」
止まらない涙を、ハンカチを取り出し拭きながら頷く。
「私たちにも、お前たちにもある様だ。」
陛下の言葉に驚く皇后。
「え?アルヤにだけじゃなくて…?」
皇后は陛下の隣に座る。
マルセルと目が合う。
「…大丈夫かい?その手紙って…」
言い終わる前にカレルドが口を出す。
「おい。やめろ。」
「…大丈夫です。」
そう言い、机に手紙を皆に見えるように置く。
「どうぞ。」
どんなものだったか。説明するより見せたほうが早かった。
想像していなかった私の行動に戸惑う。
「いいのかい?」
陛下が私を見る。
「はい。」
私の言葉に皆が手紙に視線を下ろす。
だがセインだけは私を見ていた。
「お兄様もどうぞ…
その手紙にも同じ事が書かれているかもしれませんが…」
出来るだけ涙を抑え笑う。
頷くだけで、私が置いた手紙に視線をおとした。
すると皇后が手で顔覆い泣き始める。
「つらすぎるわよ…事情があるにしても、幼い子を残すなんて…」
母でもある皇后は、この中で一番私の母の思いに準ずるものがあるのかもしれない。
陛下は皇后を抱き寄せる。
静かに陛下の胸で泣く皇后。
「私に渡してほしい。か。
読むよ?」
陛下への手紙を手に取り言う。
「よろしくお願いします
…お兄様も、殿下も、どうぞ読んでください。」
手紙を広げるセイン。
マルセルも手紙を手に取り、カレルドを見た。
「お前が先に読め。」
珍しくゆずるカレルド。
何も言わずに、マルセルは手紙を広げた。
黙ってもう一つの手紙を持つ私に、カレルドが言う。
「それは、開けないのか?」
「…大人っていつから何でしょうね。」
「さぁな。まぁ、知りたくないなら開けなくていいんじゃないか?」
「イジワルですね…知りたいの知ってる癖に。」
「なら、変なこと考えずに開ければいいだろ。」
そう言い笑うカレルド。
「…そうですね。」
意を決して開ける。
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