記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

文字の大きさ
上 下
86 / 217

母からの手紙2

しおりを挟む




 母の字が書かれているのを見て、手が震える。

 うるさい心臓を落ち着かせるように、ひと呼吸置き読む。




『アルヤ。

 この手紙を読んでいるアナタは、もういくつになったのかしら。
 それとも、すぐ見つけられたかしら。
 この手紙が先にかしら?
 それとも、ネックレスを見つけたのかしら。
 ネックレスは、アナタがよくかくれんぼで隠れている机の裏にあるわ。
 アナタの物よ。
 あのネックレスには、アナタを守ってくれるおまじないをしておいたわ。
 だから持ち歩かないで、お部屋に置いておいてね。
 たまに確認して、赤い色が黒になったり割れたりしたらお父様や、お兄様に言ってね。



 急に居なくなってしまって、ごめんなさい。
 アナタを守るために、必要な事だったの。
 勝手な母でごめんなさい。
 決して、アナタを嫌いになった訳じゃないことを分かって欲しい。
 私の愛しいアルヤ。まだまだ大きくなるまで側に居たかった。
 近くで成長を見届けたかった。

 お別れの言葉は言わないわ。
 いつになるか分からないけれど、いつかきっと会いに行くから、待っていてね。

 大好きよ。愛しているわ。


 もう一つの封筒を準備したわ。
 大人になりまだ詳しく知りたいと思うなら、開けてね。

 他の手紙を、皆に渡してほしいの。
 特に、陛下に渡してほしいわ。
 お願いね。アナタの助けになってくれるはずだから。』


 ボロボロと涙をこぼしながら手紙を読み終える。

 “お母さん…”

 すると、大きな手が私の頭を撫でる。
 見上げると、いつの間にか入ってきていたカレルドだった。

「殿下…」

 すぐにマルセルと皇后が部屋に入ってきた。

 泣いている私を見て驚くが、事情は飲み込めた様だった。

「アルヤ?大丈夫?」
 皇后が近づいてくる。

「…はい。」
 止まらない涙を、ハンカチを取り出し拭きながら頷く。

「私たちにも、お前たちにもある様だ。」
 陛下の言葉に驚く皇后。

「え?アルヤにだけじゃなくて…?」
 皇后は陛下の隣に座る。

 マルセルと目が合う。
「…大丈夫かい?その手紙って…」

 言い終わる前にカレルドが口を出す。
「おい。やめろ。」

「…大丈夫です。」
 そう言い、机に手紙を皆に見えるように置く。

「どうぞ。」
 どんなものだったか。説明するより見せたほうが早かった。

 想像していなかった私の行動に戸惑う。

「いいのかい?」
 陛下が私を見る。

「はい。」
 私の言葉に皆が手紙に視線を下ろす。
 だがセインだけは私を見ていた。

「お兄様もどうぞ…
 その手紙にも同じ事が書かれているかもしれませんが…」
 出来るだけ涙を抑え笑う。

 頷くだけで、私が置いた手紙に視線をおとした。

 すると皇后が手で顔覆い泣き始める。
「つらすぎるわよ…事情があるにしても、幼い子を残すなんて…」

 母でもある皇后は、この中で一番私の母の思いに準ずるものがあるのかもしれない。

 陛下は皇后を抱き寄せる。
 静かに陛下の胸で泣く皇后。

「私に渡してほしい。か。
 読むよ?」

 陛下への手紙を手に取り言う。

「よろしくお願いします
 …お兄様も、殿下も、どうぞ読んでください。」

 手紙を広げるセイン。

 マルセルも手紙を手に取り、カレルドを見た。

「お前が先に読め。」
 珍しくゆずるカレルド。

 何も言わずに、マルセルは手紙を広げた。

 黙ってもう一つの手紙を持つ私に、カレルドが言う。

「それは、開けないのか?」

「…大人っていつから何でしょうね。」

「さぁな。まぁ、知りたくないなら開けなくていいんじゃないか?」

「イジワルですね…知りたいの知ってる癖に。」

「なら、変なこと考えずに開ければいいだろ。」
 そう言い笑うカレルド。

「…そうですね。」

 意を決して開ける。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

処理中です...