記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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昔の話

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 二人で移動する。
 その少し後ろからニーナとエマ。その後ろからドイムがついてきた。

 近くのベンチに座り、魔鉱石の使い方を習う。

 指先や手の平に、少し出してみる程度の簡単なものから初める。

 やってみて実感する。

「凄いこと、やってらしたんですね…」
 特に、風を操るのは難しかった。

「まぁ、慣れもあるからね。さっきのだってかなり訓練したんだろ?」

「見てらしたのですか…」

「丁度陛下と話しててね。外を見たら君が、例の問題児と向き合ってるからビックリしたよ」
 はははっと笑うマルセル。

「…訓練とかそんな大層な事してないんです。
 お父様が、兄様達を訓練していた横で、木剣を貸してもらい振り回してただけなんですよ」

 昔を思い出し、口にする。

「でも、カレルドの首に木剣突きつけたんでしょ?訓練もなくできたの?」

「知ってたのですか!?」

「まぁね。陛下に話を聞いただけだけど。」
 驚く私に軽くわらう。

「…あの頃の殿下は、さっきのロベルトと同じだったのですよ。」

「と、言うと?」

 マルセルの顔を見て、自分の口元に人差し指を持っていく。

「秘密ですよ?」
 ニコリと笑う。

「もちろん。」

「…当時の殿下は、力で一瞬でねじ伏せる剣術でした。
 一瞬で終わらせる為、
 体力と持久力がない。勿体無い。
 と、よくお父様が言ってました。
 体力と持久力を付けるように、しつこく言うお父様に殿下は怒り剣を向けました。」

「え、前伯爵にそんな事したの?だいぶ厳しい方だったよね?」
 驚くマルセル。

「はい。一緒に来た陛下は森に入っていらしたので、止める方もいませんでした。
 お父様は殿下の剣を避け続け相手をました。
 体力も持久力もないので、すぐに肩で息をしだしまし、
 その後ろでお兄様相手に木剣で遊んでいた私が呼ばれました。
『今の殿下は、アルヤより弱いよ。』と。」

「うわ、睨みつけてるカレルドが目に浮かぶよ。」
 眉をひそめる。

「ええ。しっかり睨んでましたね…
 丁度、剣の振り方を覚えてた私に、お父様は…こう攻撃がくるから避けて木剣を前に出す様に支持をしました。」

「それで成功したと。」

「偶然ですよ…
 でも、悔しかったでしょうね。
 母と結婚する前の事ですので、平民の女の子に負けたのですから。」

「それで、アルヤも剣術を教わったのかい?」

「ふふ。それがですね。」
 クスッと笑う私にキョトンとする。

「その後すぐに母が伯爵邸から出てきまして。
『皇太子殿下になにしてるの!?』と、怒られまして。」

「ははは。確かに。」
 マルセルも笑う。

「その日から、木剣を使うのを禁止されまして…
 なので、剣先をある程度読んだり、避け方を軽く教わったくらいです。
 なので、剣の構え方すら知りません。」

「だから構えずに持っていただけだったんだね。」

「はい。こっそり木剣を持ち出して遊んでいましたけどね。」

「カレルドは、それで言われたとおり体力と持久力を鍛えて、今の体力お化けになった訳か。」

「ふふ。森に入られ魔獣を倒しながら走っていたそうですよ。
 白いスーツを真っ赤に染めて帰ってきてました。」

「あー、よく真っ赤にしてたね!その頃くらいかな、俺も走れと皇宮の周り走らされてたよ。そういう事だったのか!」
 納得したように笑う。

 すると、ロベルトが俯き今にも倒れそうなほどフラフラと走ってくるのが見える。

「お。やってるね。」

 私はロベルトをジッと見つめる。

「どうしたの?」

「きっと、殿下も思い出されたのでしょうね…
 ロベルトはあの時の殿下と同じです。
 力はあるから、狩猟大会では大差をつけ1位なのでしょうが…。
 もしかしたら、化けるかもしれませんね。」

「本当にロイヤルナイトになるかも?」

「どうでしょう。それは本人次第ですね。」

 視線を感じたのかロベルトがコチラを見た。

 手振ってみるが、案の定無視して走り去る。

 “振り返してきた方が怖いわね。”
 そう思い、クスッと笑う。

 スッと立ち上がるマルセル。

「さぁ。陛下に呼ばれてるだろ。そろそろ行こうか。」
 手が私の前に差し出される。

「…そうですね。」
 手を重ね、立ち上がる。

「俺も行ってもいい?」

「え、私は構いませんが…お仕事は大丈夫なのですか?」

「やる事は終わらせてるから問題ないよー!」
 歩きながら話す。

 “カレルド殿下はいつも忙しいと言うけど…マルセル殿下は意外と時間あるのね”

「部屋に戻り取ってきますので、先に陛下の元に行かれて構いませんよ?」

「いや、一緒に行くよ」

「そうですか?」

 他愛もない話をしつつ私の部屋に着く。

 ニーナが扉を開けてくれ部屋に入る。
 マルセルも後ろからついて扉を閉める。

 気にせず引き出しを開け、小袋を取り出す。

 すると、マルセルが後ろから抱き着いてくる。

「殿下?!」

「俺がつけた覚えのない所に、首に赤い跡が少し見えてるけど。
 カレルドだろ?」

 思わず首を手で隠す。

「その指輪も、そうだろ?」

 首を隠した手に付けられた指輪を見られたのだろうか。
 ビクっと身体が反応する。

「そして?今度は遠征訓練と称して街にデートかい?」

「で、デートだなんて、昔、母とお世話になっていたお店に連れて行ってくれる事になっただけで…」
 この前のカレルドとの会話を思い出す。

「…何で俺に言わないの?」

「えっ…丁度思い出していたから…」

「ふぅん。」

 そう言い、マルセルは私を掴み向き合う型になる。

 いつも笑っているマルセルの真顔が目の前にくる。

「じゃぁ、俺ともデートに行って、プレゼントした物を身に着けてくれるって事でいいね?」

 腰に手を回され、顎を持たれる。
 両手でマルセルの胸辺りを抑えるが意味はない。
 後には机があり、逃げることは出来なかった。

「で、殿下…?」
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