記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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小袋の中身

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 “本当に連れてきたのね…”

「どうぞ。」

 扉が開き、マルセルが先に入りカレルドがその後ろから入ってきた。

 “昨日、並んで座ってるだけで凄い珍しいと思ったのに。今日は並んで歩いて来たの?
 もう、騒動でしょうね…”

「連れてきたよ。」
 ニコリと笑い、さっき座って居た窓側の椅子に座るマルセル。

「本当に連れてこられたのですね…」
 苦笑いする私。

 カレルドを見ると、かなり不機嫌そうだ。

「殿下申し訳ございません。お忙しいのにわざわざ来ていただいて…」

「大丈夫だよ、会議室でほぼ決まってることを、グダグダ大臣に言われてキレかかってる所を連れてきたんだ。
 助けてやったんだから、感謝して欲しいくらいさ。」
 マルセルが足を組みながら笑う。

 黙ったままカレルドは、私が座るベットの足元側に座りため息を付いた。

「大丈夫なのですか?」
 大分疲れている様に見える、カレルドに聞く。

「あぁ、大丈夫だ。
 んで?思い出したんだって?」
 足を組み肘を付つきながら、私を見ながら言う。

「…はい。」

 すると、カレルドは上着の内ポケットに手を入れ指で挟み見せる。  

「コレだろ?」 

 黒い小袋が目に飛び込んでくる。
 ドクンっと心臓が強く鼓動した。

 カレルドから小袋を受け取る。
「これ…どうして…」

「シャンドリ邸からお前を連れて帰る時に、ヴェラスから預かっていた。」

 銀色の刺繍で『リアナ』と書かれていた。

「お母様…」
 ぎゅっと握り締める。

「リアナと言うのは、母上の名前かい?」
 マルセルが小袋を見て言う。

「はい。その通りです。」
 既に泣きそうになるのを堪え言う。

「開けてみろ。」
 カレルドに言われ、巾着になっている口を伸ばし、中身を手に出してみる。

 割れている黒い石、ネックレスのチェーンと金具。そして、小さく折り畳まれた紙。

 カレルドが立ち上がり、私の手のひらに乗った物をマジマジと見る。

 マルセルも身を乗り出し見にくる。

「コレがお前が、どうしても確認したいと言っていた赤いネックレスか?」
 カレルドに聞かれて、頷きながら震える手で石を並べて雫の型を作る。

「コレが魔鉱石ならデカいな。俺らの3倍はある。…触っても?」

 マルセルに言われ、手のひらを向けながら言う。
「どうぞ。」

 マルセルが一欠片取ると、カレルドにも手のひらを向けニコッと笑う。

 カレルドも一欠片取りマジマジと見つめる。

「コレが赤かっただなんて、信じられないくらい完全に真っ黒だ。」
 マルセルが、じっくり観察しながら言う。

 石とチェーンと金具を小袋に戻し手には小さな紙だけを残した。

 それを見た、カレルドとマルセルは石を小袋の中に戻す。

 ジッと紙を見つめて動かない私を、二人は黙って見ててくれる。

「…別れを告げる、手紙だったら…私…」

 身体を震わせる私を、マルセルは優しく頭を痛める撫でる。

「それはないだろう。」
 カレルドが言った。

 バッと涙の後が残る顔でカレルドを見上げる。

「お前、何を言っているんだ。」
 マルセルがカレルドを睨む。

「なぜ…?見たのですか?」
 カレルドの赤い瞳を見つめる。

「見てねぇよ。
そんな小さな紙に別れを書くような淡白な人ではなかったろ?いいから。開いてみろ。」

 コクリと頷き恐る恐る紙を開く。

 


『純白の花』



「ほら、違ったろ?」
 そう言い、カレルドは私の横に座る。

「…どう言う意味だろうか?」
 マルセルが紙を見て言う。

「…本」
 ボソッ言い、カレルドの方に勢いよく身体を向けるが…

「いったーぁ…」
 身体の痛みでよろけ、カレルドに支えてもらう形になった。

「あほか、大人しくしてろ。」
 そう言われ座ってた位置に戻されるがカレルドにしがみつき言う。

「私!」

 たった1言、言っただけなのに遮られる。

「ダメだ。」
 カレルドにしがみついた手を離さず、痛みで震える。

「俺にも説明してくれるかな?」
 ムスッとしたマルセルが言う。

 カレルドはため息をつき、私の頭を撫でながら言う。
「シャンドリ邸に行き、その本を探そうとしてるんだ。」

「おっと…」
 マルセルが言葉に詰まる。

「今度ばかりは、お前を連れて行く事はできない。理由はわかるだろ?」

 掴んでいる手を離すと、カレルドがもとの位置に座らせる。

 俯き黙っている私に、マルセルが私の手を軽く握り言う

「アルヤ…」

「…すみません。一人にして下さい…」
 か細い声で言う。

 思わず、マルセルはカレルドと顔を見合わせる。

「行くぞ。」
 カレルドが言うと、マルセルも立ち上がり扉に向かう。
 その隙にカレルドは私の耳元で囁く。

「今夜また来る。」
 頷きもしない私の頭を軽く撫で、2人で部屋を出ていった。








 扉を開けると、皇宮の侍女や騎士達の大勢の人だかりが、息を潜め立っていた。
 その中には、両陛下と2人の側近の姿まである。

「何だお前らは」
 カレルドが陛下を睨む。

「いやぁ…お前ら2人で並んで廊下を歩き、更にアルヤの部屋に入って行ったっと多数報告があってな。
 喧嘩でもしたら、直ぐ止めれる様に待機してたのだ!」
 はははっと笑う陛下。

 その後ろでうんうん!っと頷く后皇。

「しませんよ。」
 マルセルが笑い答える。

 チッと舌打ちだけするカレルド。

「でも、そんな神妙な顔して2人で出てくるのは予想外だったわ!アルヤに怒られでもしたの?」
 ニヤニヤする皇后は2人に言う。

「怒られてませんよ。ただ、1人にして欲しいそうです。」
 困った顔を見せ、マルセルは背にしている扉を振り返り見る。

「お前が話しとけ。俺は忙しい。」
 そう言い、カレルドはニーナとエマの前に行く。

「はいはい。」
 マルセルは呆れた様に返事をする

 カレルドを前にニーナが聞く。
「お嬢様は…」

「大丈夫だ。少し1人にしてやれ。」
 そしてすれ違い様に、ニーナの耳元でもう一言言い去る
「今夜また来る。」

 ニーナとエマはカレルドの後ろ姿にお辞儀をする。

「さぁ、もう何もありませんよ。皆仕事に戻って。」

 マルセルが集まっていた人達に言い、ゾロゾロと戻っていく。

「あなた達が、黙って2人で出てくるなんて。アルヤはまるで猛獣使いね。」
 皇后が去っていくカレルドを見た後、マルセルも見て言う。

「猛獣だなんて、やめてくださいよ。」

 そんな会話をしながら、両陛下とマルセルも帰っていった。



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