上 下
38 / 192

願い

しおりを挟む





「殿下!!」

 私の声が聞こえたのか、しゃがみ込んでいるカレルドが立ち上がる。

「お前まで来る事ないのに。」
 肩で息をしているカレルド

「お怪我はありませんか!?」
 カレルドの両腕を掴み聞く。

「あぁ、大丈夫だ。」
 見たところホントに怪我はしてなさそうだった。

「良かった…」
 ポロッと涙が溢れる。

 ふと、下を見ると氷に捉われているマルセルがピクリともしてない。

「マルセル殿下…?」

 反応がない。

「マルセル殿下!」
 近寄ろうとするとカレルドに腕を掴まれる止められる。

「大丈夫だ。死んでなんかないし、怪我もない。」

 そう言われ、もう一度マルセルを見ると手を上げてくれている。

「よかったぁ…2人とも怪我してなくて、本当に良かった…」

 ボロボロと涙を流す私の頭をポンポンと、カレルドが手を置く。

「そこは、俺だけの心配でいいんだけどなぁ。」

 ここで陛下と皇后も到着した。

「アルヤ嬢早いのぉ!
 おーい、マルセル生きてるかー
 氷の中に捉われている気分はどうだー?」

 陛下がしゃがみながらマルセルを覗く。

「ええ。生きてます
 冷たくて気持ちいいですよ。」

 負けを認めたのか、諦めたような声でマルセルが言った。

「本当に氷なのねー、すごーい」
 皇后が触りながら言う。

「この氷はどうやって溶かすのか?炎?」
 陛下がカレルドに聞く。

「まぁ、それでも溶けるが時間がかかる。」
 そう言うとパチンを鳴らす。

 その瞬間氷が一気に水に変化し空中で水の玉になった。

「ほぉ、この水の塊が宙に浮くのも不思議だな。
 水だけで浮いてるのか?」

「…あぁ」

 カレルドは陛下の問いに簡単に答えて水玉を後ろに投げた

 ははははっと笑い声がした。
 その主はマルセルだった。

「無茶苦茶だな。バケモンかよ。」 
 座っていたマルセルがパタリとその場に寝転ぶ。

 その言葉に陛下も笑う

「確かにバケモンだな!
 次の訓練で全ての種明かしをするのだぞ?良いな?」

「はいはい。」
 面倒くさそうにカレルドが返事をした。



「さぁ!こんな所だが勝ったのはカレルドだ。
 何をアルヤに願うか決めたか?」

 陛下が観衆をチラッと見て言う。

「あー、」
 と言いながら、私の頭から手を離すカレルド。

「なんでも良いのか?」

「あぁ、アルヤ嬢がいいと言うなら。」
 ニコリと、陛下が私に笑う。

「じゃぁ、この場でプロポーズしてもいいわけ?」
 真顔で言うカレルド。

「え!?」
 ビクっと反応し思わず声が出る。

 はははと笑う陛下。
「ああ、いいとも、アルヤ嬢が受け入れるのなら文句はない。」

 ふーん。

 と、言いながらカレルドは私の前で膝をつく。

 観衆から
 きゃーーーっと声がする。

 顔をあげ私み見つめながらカレルドは言う

「俺と…


 夜、露店を周ろう。」

 そう言い私に手を差し出す

「露店ですか…?」

「あぁ、ダメか?」

 ふふっと笑ってしまうが私はカレルドの差し出された手に手を重ねる。

「楽しみにしています。」

「あぁ。」
 そう言いカレルドは立ち上がった。

「てっきりプロポーズするのかと思ったぞ!ビックリするなぁ!」
 はははっと笑う陛下と皇后。

「こんな荒地でそんな事しねぇよ。」
 カレルドが悪態をつく

「あら?別の場所ならしてたの?、」
 皇后がニヤニヤと言う。

「ああ。」
 と、少し笑いながら言った。

 陛下は観衆の方へ向き両手を上げると、
 静かになった。

「カレルドが願いを言った!
 今夜、2人で露店デートするそうだ!
 皆!邪魔するでないぞ!はははは」

 歓声と共に『告白じゃねぇのかよ!』などの、声も聞こえる。

「言われてるわよー!カレルド!」
 皇后が煽る。

「言わせておけ。」
 カレルドは私を持ち上げるとスタスタと壇上へと足を進める。





「マルセル大丈夫ー?立てる?」
 皇后が、地面に寝転んでいるマルセルに言う。

 上半身を起こしながら答える
「ええ。」

「良かったわね、プロポーズとかじゃなくて。」
 ふふっと笑う

 立ち上がるマルセル。
「そうですね。」

「で、どうするの?」

「心配しなくても、諦める事はないですよ。」

 マルセルはカレルドの後ろ姿とを見ながら言う。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

処理中です...