記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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庭園

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 ドレスの裾を両手で持ち挨拶をする。

「ああ。…久しぶりだな。」
 私の前に来る。
 白いスーツの裾が見え顔を上げる。

 カレルドの顔を見ると薔薇の事を思い出し少し顔を背けてしまった。

 それが気に食わなかったのかカレルドは私を揶揄うように言う。
「もう少し、華やかでもよかったぞ?」

 イラっ。

「もう少し早く知らせして下さっていればまだ華やかに出来ましたのに。」

 そらした顔をカレルドに向けて満面の笑顔で言ってやった。

「ははは。すまない。
珍しく午後に時間ができそうだったから急になってしまった。…とてもキレイだ。」
 私にそう言い、さらに顔だけ後ろに向け言う。

「キミらも、すまなかったな。」
 ニーナとエマにも謝るカレルド。
 “意外ね。2人にも謝るなんて…”

 サッとまた私の方を見て言う。
「こんな天気のいい日に部屋にいるのは勿体無い。
 外に行こう。」

 そう言い私の手を取り引っ張り歩き出す。
「ちょっと…」

 廊下で見ていたエノワールが言う。
「そんな連れ出し方ないですよ!もっと紳士的でスマートに!」

「うるせぇ。」
 止まりギロっとエノワールを睨みつけるが効いていないようだ。

「ダメです!」
 思わずクスっと笑ってしまった。
 “あんなにオドオドしていなエノワールがこんなに、はっきりと言うなんて。”

 チッと、舌打ちをしてカレルドはニーナとエマに言う。
「付いてきても構わないが、エノワールの後ろにいろ。」

 “着いてこなくていいわよ?”
 と、軽く首を振り目配せするがニーナは
「かしこまりました。」
 エマもニーナに合わせて2人でお辞儀をする。

「さぁ、行くぞ。」
 今度は手を引かれる事なくカレルドの横を歩く。

 カレルドを横目で見る
 白いスーツに黒いシャツはいつもだ


 すれ違う人達は皆ギョッとした後、話しかけて来る事なくお辞儀をする。

 “視線は痛いけど話しかけて来ないのは楽ね…”

 そう思っているとカレルドが言う。
「庭園をぐるっと回るか。
 歩けるか?」

「はい、大丈夫です。」

 外へと繋がる扉が開かれる。
 フワッと風が通る。

「階段がある。気をつけろ。」
 そう言い私に手を差し出すカレルド。

「ありがとうございます」
 素直に手を取り階段を降りていく。

 天気は良いが、雲も多く日が照ったり影になったりしている。

 エノワールド達は少し遠目からついてきている。
 カレルドの指示なのだろう。

 いつも綺麗に整えられている庭園をゆっくりカレルドと歩く。

 この前来た時にはまだ蕾だった花が咲いている。
「2日前にも来ましたが、蕾だったお花が咲いてます!」
 つい楽しくなってはしゃいでしまう。
 歩きながら話しをする。

「花は好きか?」
 カレルドがはしゃぐ私を見て笑いながら聞く。

「はい!…特に最近では薔薇にとても詳しくなりました。」

「ほう。なら宿題の答えは、わかったか?」


「…はい。それも、殿下の手紙が届く数分前に。」

「ははは。タイミングバッチリだったのか。」

「あの、殿下!私と殿下は…」
 途中で話を遮られた。

「その話は、温室でしよう。そして」
 急に止まるカレルドに釣られて私も、止まる。

 顎をグイッと持ち上げられた。

「その、殿下ってのが気に入らない。
 2人の時は名で呼べと言っただろ?」

 カレルドの顔が近くに迫る
「か、カレルド…近いです」
「次言ったらお仕置きだからな」
 ふ。っと不敵に笑い、手を離してくれた。

 “顔のドアップは心臓にわるい。。”
 そう思い俯いているとまたカレルドの不敵な笑いが聞こえた。

 不思議に思い顔を上げる。
 カレルドの目線は左側の広場を向いていた。
 確かにガチャンカチャンと音が聞こえる。

「何を見ているのですか…?」
 そう言い私もカレルドと同じ方向を向こうとした時。
 カレルドが私の視界を遮る。
「見るな。マルセルがすごい顔して睨んでいるぞ。」

「へ?!」

「中々滑稽だな。」
 睨まれていると言うのに楽しそうに笑うカレルド。

「さぁ、進もうか。
 殴りかかってきそうな勢いだ。」

 “それは困る!”

 言われた通りに前に進む。

 背の高い木々や、花で見えなくなった。

「マルセル殿下は何を…」

「ああ、明日の備品を森まで持って行ってたんだろうなー。仕事さ。」
 まだ楽しそうなカレルド。

 “そんなに睨まれて楽しいの?理解できないわね。”

「…もしかして!私といる所を見せたくて呼んだんじゃ!?」
 バッとカレルドの顔をみる。

「ははは。偶然さ、偶然。」
 “…嘘だ
 絶対狙ってやったわね…”

「明日マルセル殿下と会うのになんて事を…」

「俺も明日居るから大丈夫だろ。」

「…それが、、、」

 カレルドにこの前のマルセルとの話しをする。

「…ほーぉ。」
 楽しそうだったカレルドの顔が少し怖くなった。

「その話も後だ。
 着いたぞ。あの温室だ。」

 カレルドが指を刺す方向にあったのは小さな温室だった。
 中から白い布でもしているのだろうか。
 中の様子はわからなかった。

「あんなところに…」

 皇宮内には温室は数個ある。
 だがこの小さな温室は記憶にない。

 少し進むと温室の横に誰かが立っている。

「殿下。本当にいらっしゃったのですね。」
 麦わら帽子をかぶり土だらけの手袋をしている老人だ。

「あぁ。来ると言っただろ。」

 老人は私を見て挨拶をする。
「初めまして。この小さな温室だけを担当する庭師のワードでございます。」

 少し屈みワードに目線を合わせていう。
「こんにちは。この温室だけとは、それだけ難しいお花なのですか?」

「ここは薔薇専用の温室です。私の家が代々お世話をさせていただいているだけですよ。
 それより…そんな、屈まれると美しいドレスに泥が付いてしまいます」

「ドレスは洗えばいいのです。
 ワードと目を見て話しているこの時間の方がドレスより大事ですわ。
 …代々受け継がれている薔薇ってもしかして…」

「ほほほ。素晴らしいお嬢さまだ。
 ねぇ。」

 ワードはカレルドを見て言うが黙ったままだった。

 ワードが帽子を取り言う。

「この老いぼれが、心を込めて整えております。どうぞ。初代皇帝陛下の薔薇を堪能して行かれてください。」

 “やっぱり…”

「誰も来ていないな?」
 黙っていたカレルドが言う。

「ええ。誰か来る方が珍しいですから。
 ごゆっくりどうぞ。」

 ワードはそう言うとカレルドと私に頭を下げた。

「…ありがとう。」
 そう言うとワードはニコリとし去って行った。

 カレルドが少し遠目から付いてきていたエノワールに合図をおくる。

 エノワールは胸に手を当てた。

「さぁ。入ろうか。
 宿題の答え合わせと、積もりに積もった疑問を解決してやろう。」

 カレルドが私に手を差し出す。

「はい。」

 手を取り温室に入った。



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