記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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侯爵令嬢

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 明るいピンクのドレスに沢山のリボンが付いている。

 …スッと右耳に髪をかける。

 ニーナが近づき小声で言う。
「ミラディン侯爵令嬢キャロル様15歳。
 半年ほど前から妃教育を受けられておりますが、成果は出ていないと聞きます。
 お嬢様とは…」

 ここで右手を軽くあげ“もういい”と合図をする。
 スッと後ろに下がるニーナ。
 エマも空気を呼んで黙っている。


 “キャロルか…
 あのワガママな子ね。
 大きくなってはいるけど派手なドレス好きは変わってないわね。”

 泣けば親が何とかしてくれると思っている、やりたい放題の子だ。

 “幼い頃からマルセル殿下とカレルド殿下両方に色目を使っていたわね。
 相手にはされてなかったようだけど”

 段々と二人に近づいてきている。
 絶対に通らないといけない渡り廊下で話しているから横を通らざる負えない。

 キャッキャ!っと高い声が聞こえてくる。

 わざと靴音を大きくたてる。
 コツンコツン。

 その音にマルセルが振り返る。

「やぁ。アルヤ」
 マルセルに笑いかけられる。

 マルセルの背後からチラっと私を見たキャロルは隠すことなくキッと睨みつける。
 まるで
『邪魔するな』
 と、言わんばかりの睨みだ。

 そんなキャロルを無視し挨拶をする。

「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。
 キャロル様もお久しぶりでございます。」

 ドレスの裾をもち広げ両陛下に褒められた挨拶を堂々と披露する。

「図書館の帰りかい?」
 マルセルが完全に私に身体をむけた。

「はい。」
 背を向けられたキャロルは悔しかったのだろう。
 私とマルセルの会話に割って入ってきた。

「あらー、魔獣に襲われて寝込んだみたいな話を聞きましたが、もういいのですかぁ?
 まだ、お部屋でお休みになられたほうがいいのではぁ?」
 キャロルはなで声で言う

 “会話を遮るなんてみっともないわね。
 そして敵意むき出しの言葉。
 私に黙って部屋に引っ込んでろと…
 半年も教育を受けてきてこの程度か。”

 相手をするほどではないわね。

「ご心配ありがとうございます。
 この通りすっかり元気ですわ。」

 ニコリと返す。

「あ!!こんな所に!」
 キャロルの後ろの廊下から男性の声が聞こえる。

 後ろを振り返るキャロル。
「うわ!お兄様!」
 ずんずんと近づいてくる。

 “キャロルの兄…
 ミラディン ダナン令息
 キャロルと7つ年が離れていて、妹を溺愛しているらしかったわね。”

 キャロルはマルセルの後ろに隠れ抵抗を、みせる。
「おっと。」
 そういいマルセルは少しバランスを崩したが立ち直す。

「殿下、ご挨拶申し上げます。
 妹の無礼をお許しください。」

 と、マルセルの前に立ちお辞儀をする。

「やぁ。俺は良いのだが。」
 そう言いながら顔を私の方に向けるマルセル。
 ニコリと笑い続ける。
「少し、アルヤにキツイ言い方をしていた方が気になったかな。」

 ダナンが私に気づくと、ビクっとし顔を少し赤らめるのが見えた。
 すぐに、お辞儀をし挨拶と謝罪をする。

「あ、アルヤお嬢様!お久しぶりです。
 妹の代わりに謝罪いたします。申し訳ございません!」

 “別にあなたに謝ってほしいわけじゃないのだけど…
 まぁいいわ。”

 ドレスの裾をかるく持ち上げ挨拶をする。
「お久しぶりにございます。
 私は気にしていませんから、お顔を上げてください。」

 私の言葉を聞き顔を上げたダナンにニコリと笑顔を見せる。
 さらに顔を赤くする。

 “分かりやすいわね。”

「ありがとうございます。」
 そう言い、マルセルの後ろに隠れるキャロルを引っ張りだすダナン。

「こら!殿下に迷惑だろ!!
 妃教育を何回サボれば気が済むだ!!」

 “サボってここに居るのね…”

「いやよ!マルセル様がいらっしゃるのにお勉強なんてしてられないわ!」

 私は一体何を見せられているのだろうか。
 マルセルがいなければ素通りするのに。

 ふぅ。と小さいため息をつく。

 ここで黙っていたマルセルが口を開く。
「キャロル嬢?妃教育は誰でも受けられる教育ではないんだよ?
 俺を思うならしっかり授業を受けてほしいな?」

 笑顔でキャロルに諭す。

 顔は笑顔だが、怒りが隠しきれてないようなそんな顔だと私は思うが
 キャロルは違うようだ。

「わかりました!マルセル様にふさわしい妃になる為に頑張ってきます!!」

 と、マルセルから離れ、兄のダナンに連れられていった。
 連れられる最中もこちらを振り向き私を睨むキャロル。

 “まぁ、いいわ。”

「大変でしたね。」
 クスリと笑うとマルセルも笑って返してくれる。

「えぇ、慕ってくれるのは嬉しいが、アレでは…ね?」
 言葉を濁す。

 マルセルがサッと手を廊下の方に出し私に進むように促す

 “ついてくるのね。”





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