記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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マルセルとカレルド

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 目の前にカレルドの顔が現れた。


 身体がビクっとなる。
 カレルドはすぐ離れて言う。

「さぁ。もう寝ろ。」

「は、はい」

 起き上がり言われた通り布団にはいる。

 そこで肩にカレルドの上着をかけてもらっていたのを思い出す。
「あ、殿下…上着」

 言い終わる前にカレルドが言う。
「あ”?」

 顔が見えなくても分かるくらいの不機嫌な返事だ。理由はすぐにわかった。

「あぁ…カレルド…上着、ありがとうございました。」
 肩から外し声の下方に上着を差し出すとスッと受け取られる。

 何となく目が慣れて見えてきてカレルドの姿がぼんやり見えてきた。

 上着を渡した私は横になりながら布団をかけ直す。

 横になった私を確認するカレルドは私の髪をサラリと触り言う。
「おやすみ。」

「おやすみなさい。」

 数歩、足音が聞こえ扉が開く。

 チラリとコチラを見たような気もしたがすぐに扉が閉まった。



 “ドキドキしすぎて寝るに寝れないわね。”
 くるりと花瓶がある方に寝返りをする。



 10本の赤い薔薇に1本の白い薔薇


 ”赤薔薇の花言葉は『愛、美』で…

 白薔薇の花言葉は『純粋』だったはず…

 薔薇は束の本数でも意味が変わるんだっけ…でも覚えてないなぁ”


 目を閉じ。薔薇の香りだけを感じる。

 “カレルド殿下がお花を持ってくるだけでもすごい事だと思うけど、薔薇でさらに意味まで考えているなんてビックリよね…

 私に優しくするのは…時期皇帝の座の為なのだろうか…”

 考えれば考えるほど底なし沼に入ってしまったようだ。


 ウトウトとし眠りにはいる。








 バタン。


 部屋からでてくるカレルド。

 扉を閉しめ“ふぅー”と息を吐き扉にもたれかかる。

「カレルド殿下?大丈夫ですか?」
 扉の外に待機している護衛騎士が聞く。

「…あぁ。大丈夫だ。」
 そういうと、扉から離れ廊下を歩きだし振り返る事なく後ろの騎士に手を振り言う。

「お疲れ。」
 騎士はサッと敬礼する。

 手に持っていた上着を着る。

 ふわりとアルヤの香りがし思い出す。



 扉を開けた瞬間の、月明かりに照らされて銀髪にピンクがかった髪が光って見えて天使かと思った。


 まさか起きていたとは思わなかった。

 ビックリして俺を見る顔は可愛く美しく、からかいたくなる。

 薔薇をすべて渡せた。

 意味は調べてほしくないような、気づいてほしいような複雑だ。

 あの調子だと調べるだろう。

 わかった時のアイツの顔は見ものだろうな。

「ふっ。」

 笑みがこぼれ廊下を曲がると人影が見え足を止める。


「…くると思ったよ。」


「何のようだ。マルセル」


「相変わらず喧嘩腰だな。俺は兄貴だぞ?」

「2分だけな。用がないなら話しかけるな。」

 マルセルの横を通ろうとするがそれを遮られる。
「邪魔だ。」

 ギロリとほぼ同じ身長のマルセルを睨みつける。

「アルヤの部屋に行ってきたのか?」

「お前には関係ない。」

「聞いたんだろ?記憶がない事。」

「だったら何だ?」

 はぁ、と深いため息をしマルセルが言う。
「昼過ぎ。アルヤが目を覚ましてすぐ。
 俺がアルヤの婚約者だと伝えた。」


 カッと頭に血が上りマルセルの胸ぐらを掴み壁に追い込む。


 ダン!


 マルセルはニヤリと笑ったままだ。

「そんなすぐ分かる嘘をついて、混乱させるな。」

「記憶がないんだ。嘘だなんてわからないだろ?このまま事実にすればいいだけだ。」

「貴様…」

 胸ぐらを掴んでいる手に力がはいる。

「お前が以前アルヤに告白やらしていたのは忘れ去られたんだ。
 今は俺のアルヤだ。無闇に近づかないでもらおうか。」


 乱暴に掴んでいた手を離す。

「誰を選ぶかはアルヤが決める事だ。」

 床に倒れ込んだマルセルにそう言い捨てる。

「そうイキがるなよ?」
 立ち上がり埃を叩きながら言う。


 ふ。っとカレルドが不気味な笑みを浮かべた。
「どうだろうな。」
 そう言い廊下を歩いていく。


 全く生簀がない。


 だが、柄にもなく薔薇を渡しておいて正解だったな。





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