記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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医師アノル

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 完全に扉が閉まるのを確認し医師が言う。

「殿下からお話はうかがいました。
 私にはいつも通りのお嬢様にしか見えないのですが…」

 医師はまた手を顎にもっていく。
 考えるときの癖だ。

「…はい。
 マルセル殿下とお話をして分かりました。
 …約6年ほどの記憶がありません…」

 自分で口にしたけれど、思い知らされているようで少し悲しかった。

「ふぅむ…
 おっと取り敢えず診察をさせて下さい。
 手首を出していただけますかな?」

 私はそっと腕のまま医師アノルに向ける。

 少しの間、沈黙が続いた。

「…はい。ありがとうございました。
 体温も脈拍ともに異常はありません。
 顔色もだいぶ良いですね。」

 腕をもどしながらコクリと頷いた。

「明け方一度、目覚められた時に頭痛が酷いようだとカレルド殿下に言われ、
 鎮痛薬を少しお口に入れさせてもらったのですが、何処か痛い場所などありますか?」

 “カレルド殿下…やっぱりあの方はカレルド殿下なのね”

 彼の顔が頭に浮かぶ。



 ロンバルディ カレルド殿下
 第二皇太子。マルセル殿下の双子の、弟だ。



 “…カレルド殿下もかなりのイケメンに育ったんだ!
 あんなに愛想のない人だったのに。。。”


「あ、
 …確かに頭痛と身体中痛かったですが
 今はそれほどではないです。」

「それは良かった!
 カレルド殿下にどうにかしろ!と凄まれた時は生きた心地がしませんでしたわ」
 アノルはハッハッハっと笑う

「あいつは昔から血の気の多いやつだからな。」

 やれやれと言った感じでマルセルは言う。

「まぁ、今回ばかりはお嬢さまを心配してのことですので」
 ほほほと笑った


 “確かカレルド殿下は血の気の多い暴れん坊みたいな噂があったわね

 マルセル殿下は勤勉で穏やか。
 だと聞いたな…
 双子でも正反対の性格だってよく皆んな話してたっけ…”


「頭痛などがあるかもしれないので後で侍女に鎮痛薬を渡しておきましょうね。」

「はい。ありがとうございます」

「さて、記憶に関してですが。
 ご自身のお名前などはお分かりになりますか?」

 アノル医師が本題にはいる。

「はい。
 シャンドリ アルヤ 魔獣の多い地を納めている…
 シャンドリ伯爵家の養女です。」

 平民だったお母様を気に入り結婚し娘の私も引き取り養女にしてくれたと聞いている。

「ありがとうございます。
 先ほど殿下からお聞きしましたが。
 皇后陛下のお茶会に参加された記憶が新しい記憶で間違いないですか?」

 その話しも話したのかとマルセルチラッと見た。

「…はい。ですが思い出そうとすると頭痛が…」

「頭痛ですか…
 あまり無理して思い出そうとするのはやめておいたほうがよさそうですね。」

 私はコクリと頷く。けれど。
 “早く全部思い出さないと…”
 そうとも思っていた。

「その頃の事を覚えているなら侍女の事も覚えておいでですか?」

 アノル医師に向かってまたコクリと頷いて言う。

「ニーナとエマの事はわかります。
 ですが…マルセル殿下を見ても思ったのですが急に大人になっていてビックリはしました。」


「だから、誰かわからなかったのか…」

 マルセルが腑に落ちたように言う。

 “気にしてたのね。
 それはそうね。婚約者が目を覚ましたと思ったら一言目が『だれ?』だもんね‥”

「はい…失礼な発言でした申し訳ございませんでした。」

 頭を下げる。
「あ、いや、いいんだよ。気にしないでくれ」
 マルセルはニコリと笑う

「大人なられましたもんなぁ」
 アノル医師も笑う

「あ!アノル様はすぐにわかりましたよ!お変わりなくて!」

 ふんふんと鼻息荒く言った。

「はっはっは!
 歳を取ると6年くらいじゃ変化が微々たるものなんでしょうな!」

「え、そんなつもりで行ったのでわ!
 知ってる方がいて安心したと言う意味で!」

 焦る私と裏腹にアノルとマルセルまで笑う。

「そうだな!13歳の成長期の6年と老人の6年は違うな!」

 アワアワとしてるい私にアノルはいう。

「いやいや、
 笑って申し訳ございません
 侍女について聞いたのは、彼女等にも状況を説明してはどうかと思ったからです。」

 笑い終わったマルセルも言う

「それは俺も賛成だ。
 彼女らはずっと君に仕えているて信頼もある。
 記憶のない部分のサポートができるだろう。」

 “その通りだと思う。だけどまた悲しむ姿をもう見たくない。”

 侍女というより友人に近いからだ。
 歳のそれほど離れていないし、はじめは話し相手として私のそばにきたのを覚えている。

 黙ってしまった私にマルセルはいう。
「伝えないと言う選択ももちろんあるよ?
 俺らのは提案であって決断するのはアルヤだよ。」

 うんうん。とアノル医師も同意のようだ。

 “感情よりも今後の事を考えると伝えてサポートしてもらった方がいいだろうな…
 私だったら伝えてもらえない方が悲しくなるし…”

 心の中で伝える事にした。


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