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1章

6.

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Side:唯都

任務を受けてから数日が経った。


俺は少ない荷物を持って清廉学院へとやってきた。


清廉学院はアヤカシ討伐の専門科があるから東京から少し離れた山奥にある。


「でかっ…」


俺の前にそびえ立つ大きな門。


きょろきょろと見回しても入る場所が分からない。


「・・・飛びこえるか。」


俺にとってこの壁は越えられる高さだ。


が、しばらく探っていたら重要なことに気づく。


「ちっ・・・結界か。」


清廉学院を囲むように張られている結界。


壊すことも可能だが、面倒なことになりそうだ。


色々と悩んでいると、突然隣に人影が現れた。


「おはようございます、志野唯都(しの ゆいと)様ですね?
私、清廉学院理事長の秘書、鐘崎(かねさき)と申します。」


「はい。」


志野とは俺の偽名。


風華の名は表の世界でも有名だから隠した。


名前は公表されていないので本名のままだ。


そして、俺の今の格好は黒く前髪の長いかつらに特殊なメガネをかけている。


カラーコンタクトにしようと思ったが俺の目は異物を受け付けなかったので、目が黒く見えるようになるメガネを作ってもらいかけた。


前髪が長いのは、上から見下ろされたら目の色が違うことに気づかれるからだ。


そんなオタクに見える俺に、鐘崎はにこやかに笑って挨拶をした。


「理事長がお待ちです。
空間を移動しますので捕まって下さい。」


人に触るのは嫌だったが空間を移動する能力はもっていないので、俺は仕方がなく、鐘崎が差し出す手を握った。


「では、行きますよ」


鐘崎の声が聞こえた瞬間、視界がぐるりと回って俺たちは門の前から室内に移動した。


「着きましたよ。」


くらくらする中、鐘崎の声が聞こえる。


頭を振り、直ぐに体制を整えると鐘崎ではない声が聞こえた。


「いらっしゃい。
志野唯都君、いや…風華唯都君かな?」


気配は感知していたので、驚きはしなかった。


俺はゆっくりと豪華な机のほうをみると、穏和な顔つきの男性が座っている。


「なぜ、その名を?」


「羅都とはここの同級生だったんだよ。
羅都は本名で学生時代を過ごしていたからね。
それにこの前、連絡をもらってね。」


まぁ、座ってと促され座ると、鐘崎が紅茶を淹れてくれた。


紅茶を一口飲むと、ほっと息をはく。


・・・美味しい。


馴染みのある味で入れ方がとても丁寧だ。


息を吐いた俺を見て、満足したように男性はうなずいた。


「お口にあったかい?
これは、羅都からお土産にもらったんだよ。
君がよく飲んでいる紅茶だそうだね。
あぁ、自己紹介がまだだったね、私はこの清廉学院の理事長をしている清廉雅之(せいれんまさゆき)だ。」


黙って紅茶を飲む俺をニコニコと眺めて、理事長は自己紹介をする。


「・・・父が何を言ったかは知りませんが、俺は風華の姓を隠して行動します。
報告はしますが、万が一の場合が起こった時こちらで対応させて頂きますのでご了承願いたい。」


「後で報告してもらえれば、それで構わないよ。私は君を頼りにしている。
この学院からトリナッツァをなくしてくれ。」


「ご期待に添えられるよう、努力します。
理事長も、何かありましたら連絡下さい。」


「今私が知っているのは、警察経由で羅都に渡した資料が全てだ。
今後、情報が入り次第、君に連絡をしよう。
連絡手段は、携帯でいいかな?」


「お願いします。
連絡手段ですが、俺は任務の際あまり携帯を持ち歩きません。
また、携帯では盗聴の恐れがありますのでこちらを。」


代わりにと、俺が渡したのは小さなピアス型通信機。


風華組が普段任務の際に使用するものだ。


「風華組が使う特殊通信機です。
盗聴の可能性は低いですが、理事長の話声を盗聴する者や読唇術をもつ者もおりますので使用の場合は周りに注意を。」


俺は使用方法と通信コードを理事長に伝えた。


「わかった。・・・あっ、そうそう志野君に渡すものがあった。」


志野と理事長が呼んだのは、仕事の話は終わったことを意味する。


俺も雰囲気を変える。


「なんでしょう?理事長さん?」


今の口調より崩した感じの話し方。


いつもの口調では調査に支障があるから場所にあった話し方をしている。


今回は高校生なので、編入生-志野唯都-として生活する。


だからそれらしくふわりと微笑む。


「わぁ…すごく雰囲気変わるね。
っと、これはカードキー。
寮の部屋の鍵と財布がわりになるよ。
君のは特殊で、全ての部屋が開けられるようにしたから無くさないで。」


はい、と渡されたカードキーはシルバー。


受け取ると、バックにしまう。


「えっと、そろそろ案内人がくるはずなんだけど…」


時計を見た時、小さくドアをノックする音が聞こえた。


コン、コンッ―


「どうぞ。」


「失礼します。」


入ってきたのは、茶髪の少年。


制服だから、生徒だと分かる。


「すみません、私用で遅くなりました。」


ぺこりと頭を下げる少年を手で制し、理事長は話しかける。


「構わないよ。丁度いい所に来てくれた。
志野君、彼は君の同室者の平良義樹(たいらよしき)君。
志野君と同じ1-Aで攻撃科の生徒だよ。」


「平良義樹です。よろしく。」


「志野唯都です。」


「平良君、志野君を案内してあげてくれ。
私はこれから仕事があるからね。」


「はい。行こうか、志野君。」


「はい、失礼しました。…ボソッ…あ、理事長、夜の外出許可はよろしいか?」


俺は理事長に平良が聞こえないくらいに声を潜めて尋ねた。


「…ボソッ…構わないよ。もし、先生に見つかったら私から許可をもらっていると言ってくれ。でも、君が教師相手に見つかるわけがないよね?」


いたずらに笑った理事長に苦笑する。


「当たり前でしょう。……では、失礼します。」


最後は平良にもきこえるように言うと二人で理事長室を後にした。
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