異形の魔術師

東海林

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事の始まり編

第11話

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side エルントス=ラーゼン=ブレネスト

 漸く一段落と言うところまで来た
 今日のランディとの会談で彼が野心を持たない事がハッキリした
 同席した御三方は懐疑的な目を持っていたが、すぐにどうこうという事は無いだろう
 もっとも私の我が儘に振り回されていると言う認識の方が強いようだが…
 
 本日最後の書類を確認してサインをし、済みの箱に入れる
 一息つくために立ち上がり、窓から外を眺める
 夜空にきらめく星と城下に広がる灯りを眺めるのが好きだ
 父である国王陛下から言われた言葉をお思い出す

『町の灯りが無くなれば、それは国の終わりを意味する』

 幼少の頃の言葉で、全ての内容は覚えていないがこの言葉だけは覚えていた

 物思いにふけっていると、紅茶のよい香りが鼻孔をくすぐる
 ハロルドが用意してくられたらしい

「すまぬな」

 ハロルドは礼をして答える
 紅茶を一口味わってから、ハロルドに尋ねてみる

「今日のランディを見てどうだった?」
「はい、姿は変わりましたが、学園の頃とさほど変わりないかと、今日のお茶会でも話は合わせても、出来れば早々に退場したい様子は変わりありませんでしたので安心しました」
「そうか、やはりそう見えたか」

 これに関してはアンネローゼ、デライズやスーネリアからも同じ答えをもらっているし、私も変わらないと感じている
 学園ではデライズとスーネリアとの縁で、私とも縁が出来た
 普通ならば取り入ろうと躍起になるのだが、ランディは出来るだけ距離を取ろうとしていた
 高位貴族のクラスに低位貴族が居るのは雑用のための暗黙のルール
 その雑用も進んで受け、そつなくこなしていた
 それに魔法に関してその努力で能力を飛躍的に高めているうえに、その方法を惜しげも無く伝えている
 その方法を実践した者としない者では、大きく差が出る事も判っている
 私の目から見ても人柄に問題も無く、臣下に加えたかったので卒業前に一度打診した事がある
 結果は断られてしまった

『冒険者になるのが夢でして』

 誘っておいて何だが半ば命令に近い言葉に、毅然とした態度で拒否をした
 断られた事に驚き半分、やはりそうかという部分もあった
 他の貴族達も後ろ盾や援助の話をしても、全て断っているのを知っていたから

 ならばと、本人の希望通り冒険者として一旗揚げたところで、もう一度打診する事に決めた

 私の感がずっと囁いているのだ
 ランディは国を豊かにするために重要であると

 自分で言うのもなんだが、人を見る目はある方だと思う
 私の見定めた人物は、それとなく進言して相応しい職務につかせている
 皆職務に邁進し評価を上げてくれているが、ランディには今まで見てきた人物以上の何かを感じている

 卒業パーティーで私を庇い化け物に変わってしまったが、私の感ではさらに重要度が増したと訴えかけてきた
 危険性からすぐにでも処分をするのが通例だが、私の我が儘を通して私が全責任を持つ事で経過観察に持ち込んだ
 分の悪い賭けだとも思った事もあるが、賭けは私の勝ちのだった
 当面は魔術院の研究対象としての保護と、家名を贈り私の後ろ盾がある事で守っていければと思っている

 その間にランディには実績を作ってもらわなければならない
 彼が有用であると広めるためにも

「ランディのお披露目の件はどうなっている」
「10日後に執り行えるよう各所と調整が済み、予定通り行える見込みです。別件ですが一つお耳に入れたい事が」
「なんだ?」
「第2騎士団長ポートリス卿をはじめとする数名に不穏な動きがあるそうです」
「郊外演習の準備で忙殺させていたが、やはり諦めないか…」
「如何なさいますか?」

 失脚させるのは簡単だが、少々間が悪い
 ならば利用させてもらうか

「デライズから模擬戦の申請が出ていたな?」
「よろしので?」
「あぁ、7日後に第1騎士団演習場での模擬戦を許可する、希望者がいれば見学も許可すると伝えろ、今日はもう下がって良い」
「わかりました、失礼足します」

 ハロルドの退室を見届けてから、大きく息を吐く

「さて、吉と出るか凶と出るか…」


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