異形の魔術師

東海林

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事の始まり編

第10話

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side ブレネスト王国宰相オルスタイン=ベルモントート公爵

 件の化け物との会見が終わり自分の執務室に戻る
 共に参加していたシェンコスとユリウスを招き入れる
 2人とも勝手知ったるなんとやら、勝手にソファーで寛ぎだす
 まぁいつもの事だからいいのだが
 秘書官に飲み物を用意させて下がらせると、おもむろに口に出す

「思ったよりも、普通だったな」
「そうか?あの見た目であの会話は違和感が酷かったぞ」
「警戒していましたが、確かにそうですね」

 そう普通だった
 見た目は化け物、だがその会話は人そのもの
 故に危機感もある
 王族を仇なす為の魔法生物
 それが彼の今の姿
 しかし心はどうなのか?
 それを見極めなければならない

「シェンコフ、総騎士団長としての君の感想は?」
「息子から人だった時の話は聞いている、その人物像とさっきの話しぶりからすると、かけ離れたものは無いな」
「では彼の危険性は少ないと?」
「いや、だからこそ危惧してる。俺から見ても彼は善人と言える、あの見た目だ、これら嫌と言うほど迫害を受けるだろう、何処で爆発するか想像も出来ない」
「知恵がある分たちが悪いと?」
「それだけじゃ無い、魔道具か何かを身につけているのか誤魔化していたが、アレはヤバい、純粋に筋力だけで人が引き裂けるとレベルだ。それだけの力があって打たれ弱いなんて事は無いはずだ、下手すれば刃が通らない可能性もある。アレが暴れ回ってみろ、止めるのにどれだけの犠牲が必要か、俺は命が惜しいね。」

 最後戯けてみせるが、間違いなくシェンコフの本音だろう

「それに力だけの話じゃ無い、そうだろ?ユリウス」

 シェンコフの言葉に、魔法師団長ユリウスはコクリと頷く

「彼は非常に興味深い」
「興味深いとは?」
「彼は言ってみれば、人を元に魔力と呪いで作られた魔法生物。ただし不完全とは付くけれどね」
「「不完全!?」」

 思わずシェンコフと被ってしまった
 普段無表情のユリウスの口角が上がるのが見える
 くっ、恥ずかしい

「そう不完全なんだよ、でも不完全故に心は人のままで居られた。犯人の老婆の言葉と現場を目撃した者の証言を思い出して欲しい。老婆は悪魔と契約して魂と引き替えに人を邪竜にする呪いを手に入れた、5本の呪いの槍を順番に打ち込まないと行けない。呪いを成就させるには手順を踏まないといけない。だけど彼は初めの1本を破壊して残り4本の槍を受けた。中途半端に発動した呪いは危険だ、もしかしたら暴走して膨大な魔力を爆発させて甚大な被害を出していたかもしれない、それこそ学園だけでは済まない規模でね。幸か不幸か呪いは不完全ながらも成就された、体と魔力は変わったけど心だけが人のまま……本当に心は人のままなのかな?心は器である肉体に引っ張られる、もしかしたら変わっていないように見えて何処かが壊れていたら?羽虫を払うように人に危害を加えないとも言い切れない、もしかしたら人とは違う概念になっていたら?恐ろしい、何と恐ろしくも興味深いんだ。魔力特性も面白い、元になった彼は属性への親和性が低いのに、魔力量は人よりも多かった。それで大分苦労をしたようだけれど、努力で中々に面白い魔法の使い方をしたいたね、あの魔法の使い方は有用だから是非広めていきたいと考えているよ。そうそう魔力特性だったね、面白い事に特性自体は変わって居ないんだよ、魔力量に比べて各属性への親和性は低いんだけど、低いと言ってもこの国に居る各属性のトップクラス届くんじゃないかってレベルだからとてもじゃないけど低いとは言えないか、例えるのが難しいな?蛇口を思い浮かべれば良いかな?人の時は大きな水槽があるけどチョロチョロとしか水が出せなかった、そして邪竜になった今は大きな湖ほどの水を、沢山水が出せる蛇口を手に入れれた、しかも一つの属性では無く全部の属性で、寝てる間にこっそり調べたけど、もう興奮して踊りたくなったよ。彼1人で全部をこなせてしまうんだよ、こんなに恐ろしくも興味深い事は無い、あぁ実に興味深い、そうだこうしては居られない、ちょっと彼の所に行ってくる!」

「待て待て待て!シェンコフ取り押さえろ!」
「お、おう」
「離せ、離せば判る、離さなければ調べられないじゃないか!」
「いいから落ち着けって」
「私は猛烈に興奮している!この情熱を今解き放つ時!」
「放つな馬鹿者!!」


 数十分後

「うん、誰にでも間違えはあるさ」
「ユリウス反省してないな?」
「人は失敗を糧に進むものだよ」

 こいつは昔からこうだった
 何故か疲れが押し寄せてきた気分だ

「結論から言えば、彼にはこの国を滅ぼせるだけの力と魔力が有ると言う事だな?」

 神妙な顔で頷く2人

「はぁ、エルントス殿下には困ったものだ。このままでは何時破裂するか判らない危険物を抱えるだけでは無いか」
「そう言うなオルスタイン、殿下の人を見る目は確かだ」
「その通り、今までも殿下の見立てに狂いは無かった」
「とは言え今回は何とも言えん、為政者として切り捨てる覚悟を持って頂きたかった」
「そうならないように我々が動いてるでは無いか」
「魔術院の方は任せて、僕も居るしあそこの長は寄子のローゼンハイム侯爵家が取り仕切ってる、悪いようにはしないよ」
「ホルムクル=ローゼンハイム卿か・・・確か婦人も研究者だったな」
「そうだよ、それにあそこは好奇心の塊しか居ないから、差別とかは無いと思うよ。その代わり突撃されて大変そうだけど。」
「おいおい、ホントにそれ大丈夫なのか?」
「何を他人事みたいに言っているシェンコフ、第2騎士団がきな臭い動きをしていると報告が上がっているが」
「それについては調査中だが、どうも今回の件にポートリスが絡んでいるようだが尻尾がつかめん」
「最近よからぬ噂が絶えないな、手綱はしっかり握っておけよ」
「判ってるよ、今は郊外への演習準備をさせているから下手な事はしないだろうよ」
「ならいいんだがな」

 疲れからかなんとなく外を見ると、嫌らしいほどに高く青空広がっていた
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