上 下
70 / 141

66 VS騎士団長

しおりを挟む
どうしてこうなった・・・そんな気持ちでいっぱいだった。

「頑張れー!」
「いけー騎士団長!」
「頑張ってー!フォール公爵!」

周りから聞こえてくるのは声援。場所は城の騎士団用の闘技場。その真ん中で、俺は訓練用の真剣を片手に持っており、目の前には騎士団長であるグリーズ子爵が俺と同じ剣を持って立っている。

周りから聞こえてくる声援を聞きつつ俺はその現況をじと目で見ながら言った。

「こんなに観客がいるとは聞いてなかったんですが?セレナ様」
「あら?いいではありませんか」

俺の抗議にセレナ様は涼しい顔で答えた。

「次期宰相の妻としては今のうちにこの国の最大戦力を知っておきたいのですよ」
「だからと言ってこの老体に無理を強いる必要はあったのですか?」
「たまには体を動かしたいでしょ?」

そんな会話をしているが、まあ、要するに国王陛下に謁見に行った時にポロリとそんな会話をしたらどこから聞き付けたのかセレナ様が俺と騎士団長で手合わせをするという事態に差し替えて噂を流したらしい。グリーズ子爵はグリーズ子爵でそれも面白いと認めてしまい、結果的に俺はグリーズ子爵と戦うハメになった。

「あ、あの・・・頑張ってください。フォール公爵」
「・・・ありがとうございます。セリュー様」

そして、セレナ様の隣には当然のようにセリュー様がいた。陛下と王妃様は忙しいそうで無理だが第二王女と第二王子が見にきているだけあって目立つ目立つ。

まあ、別に勝つ必要はないからある程度手を抜いても大丈夫かな・・・なんて少しだけ考えてから俺はセレナ様やセリュー様から、ローリエやサーシャに伝わることも考えられてため息をつく。

正直現役の騎士団長相手にどこまで粘れるかわからないけど・・・勝つつもりでやるしかないか、と俺は諦めることにした。せめて真剣ではなくて木刀なら気楽にいけるのになぁ・・・

「では、構えて」

そんなことを考えていたら、審判の騎士が俺とグリーズ子爵にそう言う。その言葉に互いに剣を構えてから視線を鋭くする。一瞬にも思える時間互いを見つめてからーーー審判の合図でスタートする。

「ーーーはじめ!」
「ふっ!」

その合図と同時に飛び出したのはグリーズ子爵。とんでもない速さでこちらに突っ込んできた。俺はそれをすんででかわすと下段からグリーズ子爵に斬り込む。しかし、それを読んでいたかのようにグリーズ子爵は避けるとそのまま足払いをする。

「くっ・・・!」

なんとかそれを避けてから俺は距離をとって出方を窺おうとするが、それを許さないように追撃してくるグリーズ子爵。右、左、右、左、上、下、上、上、下、まさしく縦横無尽に攻撃してくる。それをなんとか捌きながら俺は体が徐々に思い出すのを感じる。

そうか・・・どうやら随分鈍っていたようだ。

「はぁ!」

決定的な上段からの斬撃、避けられないそれを俺は正面から受け止める。

「なに・・・?」

決まったと思っていたグリーズ子爵がそれに目を丸くする。俺は思わずそれに笑みを浮かべながら言った。

「すみません、スロースタートで。ここから本気でいきます・・・!」

キン!と、剣を弾いてから俺は視線を鋭くして殺すつもりで斬り込む。その意志が伝わったのか、グリーズ子爵は笑顔で答えた。

「上等!それでこそ剣鬼だ!」 

キンキンキンと、金属が激しくぶつかる音がする。お互い本気で剣を振っているから風切り音もする。観客はその光景に目を丸くしているが、そんなことを気にせず俺とグリーズ子爵は互いに本気で殺しにかかる。

バトルオタクの素質はないはずなのになぁ。

何回、何十回、何百回打ち合っただろう。時には避けて、時には剣以外も使って文字通り死闘を繰り広げて、互いに互いしか見ていなかった。サーシャやローリエ、ミントにバジルにも見せられない光景だなと思いつつ、鍔迫り合いをしていると、グリーズ子爵が笑いながら言った。

「見事です剣鬼!引退したとは思えないほどの力量です!」
「騎士団長に褒められるとは嬉しい限りです」

ギリギリ!と互いの力で剣が軋む。おそらく俺とグリーズ子爵の力にこの剣が悲鳴をあげているのだろう。安物の訓練剣だから仕方ないが、それを忘れて打ち合う。

何度も何度も何度も・・・が、やがて限界がきたのだろう。そのことを忘れて打ち合う何度目かの斬撃に剣は明確な形で悲鳴をあげて刃先が割れた。

バキン!といい音がして互いに互いの喉元に半分になった剣を突きつけた状態で制止する。

「ここまでーーーかな?」
「ですね」

そうお互いに息を吐いて剣を納める。と、この光景に見とれていた審判は慌てたように言った。

「そ、そこまで!引き分けです!」

その言葉に会場は盛り上がる。今更ながらやりすぎたことを反省しつつ俺はため息をつくのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

処理中です...