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18 両手に花

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セレナ様が前世の記憶持ちなのが判明してからもセレナ様と愛娘のローリエとの仲は良好のようだった。何度かお茶会をしているようだが・・・ローリエいわく、お姉さんがいたらこんな感じなのだろうかという程に仲良しになったようだ。

まあ、親としては娘に親しい友人が出来ることはいいことなので素直に微笑ましいが・・・相手が相手なだけに完全に安心していいものかは悩みどころだろう。

「はっ・・・やあ・・・!」

そんなことを考えて俺は現在剣をふっている。何故かと問われれば・・・そこに剣があったからだ。まあ、そんなとある登山家の名言のような高尚な理由は特にないのだが・・・体を動かしたくてそうしている。

貴族というので皆の中でイメージがあるのは文系・・・まあ、領地の管理などを主とする頭を使う頭脳系の仕事か、または武系・・・剣を使う騎士など国を守るための兵力としての力仕事が主だとは思う。実際どちらも正しいが・・・その辺は世界観などによって大きく違ってくるだろう。これで魔法なんて代物があればますます判断に迷うところだが・・・この世界にはその手の力はないのでそう複雑ではない。

まあ、若干ファンタジーらしいこともあるにはあるが・・・今は関係無いので保留とする。

この世界での貴族というのは、文系の貴族と武系の貴族が混ざったような感じのものだと俺は理解している。
まあ、それらが半々にあるというか・・・例えば我がフォール公爵家は、本来文系の家柄で、その手のことに精通しているので、昔は宰相の任を国王陛下から賜ったことがあるらしい。

逆に武系の家などは、国力として重要視されて、騎士団長などは我が家と同じ公爵家が代々受け継いでいるらしい。

さて・・・では、文系の家柄の俺・・・というか、カリスさんが何故剣をふれるのか。まあ、そこがカリスさんのひねくれたところというか・・・トラウマに触れることになるので、今は深くは掘り下げないが、カリスさんは一時期この国の騎士団に在籍していたことがあるのだ。

昔取った杵柄というか・・・かつては《剣鬼》と呼ばれるほどに騎士団では注目されていたカリスさんは、その名に恥じないくらいに引退した現在でも剣をふれる。

まあ、書類仕事で鈍った体をほぐすのに剣というのは丁度よかったので、単に素振りをやってるだけだ。

「ふぅ・・・」

何十、何百と休むことなく剣をふるが・・・体力の消耗は思ったよりも少なかった。これで現役の半分以下の力だというのがカリスさんのスペックの高さを促しているが・・・渋いイケメンフェイスで、力も地位もあって、美人の嫁と娘がいるとかどんだけ恵まれているんだよと突っ込みたくなるレベルだが、まあ、他人から見ての幸せが自分の幸せとは限らないというのがよくわかる。

そんな風に剣をふって一息つくと、パチパチという小さな拍手が聞こえてきたので俺は振り替えるとーーーそこには愛しの妻であるサーシャと、愛娘であるローリエが少し離れた場所でこちらを見物しているのが見えた。

「二人とも見てたのかい?」
「旦那様がこちらにいるとジークから聞いたもので・・・」
「そうか・・・」

汗を軽く拭っていると、ローリエが俺の服の袖を引っ張ってきたので、そちらを見ると・・・そこには顔を輝かせた愛しい娘の姿があった。

「おとうさま、かっこいいです!」
「そうか?サーシャはどうだった?」

愛娘の頭を撫でてから少し遠くにいるサーシャにそう聞くと、サーシャは少し顔を赤らめてポツリと言った。

「その・・・素敵です・・・」
「そうか・・・本当なら二人を抱きしめたいが、生憎と汗をかいていてね。後でもいいかい?」

そう言うとサーシャは控えめに頷いて、ローリエは少し残念そうに言った。

「おとうさまだっこだめ?」
「ダメではないが・・・ローリエも汗臭いお父様は嫌だろ?」
「そんなことないよ!おとうさまだっこ・・・だめ?」

俺はその言葉に勢いよく、でも優しくローリエを抱き上げて、抱きしめていた。娘のおねだりには勝てないよ・・・なんかね、最近、ローリエを普通に甘やかす機会が増えたからか、こういう愛情表現を惜しみなくできるようになったのだ。

そんなローリエを抱きしめて頬擦りしていると、俺は後ろから控えめに服の袖を摘ままれたことに気づいてそちらを見ると・・・サーシャが少しいじけたように言った。

「わ・・・私も、旦那様が汗だくでも、その・・・ローリエみたいに、私も・・・」

もじもじしながらそうおねだりする愛妻に俺は悶え死にそうになりながもローリエを片腕で男らしく抱き上げてから、空いた片腕にサーシャを抱きしめて囁いた。

「これで大丈夫かい?」
「その・・・もっと、強くても・・・大丈夫です・・・」
「おとうさますごい!ちからもち!」

右手に恥じらいながらも嬉しそうに微笑む愛妻、左手に抱き上げられて天使のように微笑む愛娘・・・きっと今の俺は世界一幸せな男だろう。

そんな両手に花を満喫しつつ、たまには体を動かすこともいいと思えた午後の一時だった。



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