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1 婚約破棄キャンセル

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「クレア!貴様とは婚約破棄する!」

その言葉の直後に俺は前世を思い出した。え?何このタイミング?より正確にいえばこの身体の持ち主、ドラゴニア王国の第2王子のアーサー・ドラゴニアの人格が俺に変わったのだった。

俺とは前世の日本の社会人としての記憶を持つキモヲタのことだ。名前は覚えてない。転生したってことは何かあって死んだのかもだけど··········そこも覚えないので仕方ない。

それより問題なのはこの状況だ。場所は学園の卒業パーティー会場での出来事。なんでよりよってこんな修羅場に巻き込まれてるの?というか、このアーサーという人物と目の前で涙を堪えてる可愛い銀髪の婚約者(婚約破棄告げたから元かな?)のクレアと、そしてウザイくらいに抱きついてきてる黒髪のサラサという人物で俺は物凄く嫌な予感に囚われる。

前世で姉のために発売日に並んで姉が終わってから無理矢理付き合わされた乙女ゲーム『トリック/スイート』で全く似たような展開を見たような気がする。

うん、ようするに·······乙女ゲー転生したようだ。しかも攻略対象の王子に。訳がわからない。

しかも何故か婚約破棄告げたタイミングって何の嫌がらせ?俺が物語の悪役令嬢のクレアのことを大好きと知っての狼藉なのかな?だとしたらクレームの迷惑電話を掛けまくってやる。

しかも物語通りならともかく、クレアは冤罪で断罪されるようだ。そしてお決まりのヒロイン電波パターン。俺に抱きついている黒髪の女がヒロインのサラサ。そしてその後ろに並んでクレアを睨んでるのが残りの攻略対象。うん、思いっきり逆ハーだね。

しかし困った·······冤罪な上に可愛い婚約者に婚約破棄告げたタイミングって助けたくても助けにくいじゃないのよさ。いや、考えろ俺。俺はやれば出来る子。このタイミングからクレアを救う手段を······俺の推しを守らねば!

「ーーーなんて言うと思ったか?」

その発言に会場の皆が驚く。まあ、そうなるよね。必死で視線を巡らせて俺はなんとか打開策を練る。そしてゼロコンマ数秒で状況を把握してなんとか続ける。

「全く········これを告げるまで誰も止めようとしないとはな。道化もそろそろ止めにしよう」
「ど、道化?どうしちゃったのアーサー?」
「軽々しく名前を呼ぶな」

バッとサラサを振り払ってから、俺は驚くクレアに近づくとそっと手を握って言った。

「すまなかった、クレア。こんな茶番に付き合わせて。いや、それ以上に辛い役目を押し付けてしまって」
「で、殿下、これは一体········」
「見ての通りだ。次世代の私の側近が皆使い物にならないということを皆に分からせるための茶番だ。そして·······ここからが本番」

騎士のようにクレアの手にそっと唇を寄せると羞恥心を捨てて俺は言った。

「クレア。結婚しよう」
「·········え?」
「結婚だよ。俺と夫婦になって欲しい」
「ちょ·······アーサー!」
「黙れと言っているだろう。貴様の役目はここまでだ」
「な、ど、どういうこと········こんなイベント知らない!」

うるさい外野を無視して視線をクレアに向けるとーーークレアは涙を流していた。

「わ、私·······殿下に嫌われたと思って········」
「すまなかった。私にも王太子として自らやらねばならないことがあったんだ。だが······今日からは私がクレアを絶対に守ると約束しよう。だからクレアーーー結婚してくれ」
「········はい」

涙を拭って頷くクレア。なんとかクレアの心は守れた。さて、次は体裁を整えよう。

「殿下!どういうことですか!」
「何故そんな女を助けるんですか!」
「その女はサラサを傷つけた犯罪者ですよ!」
「········はぁ。まさか証拠もないこんな話本気で信じているのか?だとしたらお前たちは本気で愚か者だ」
「な······なにを!」
「なら、証拠を出すといい。最も被害者(仮)のその女以外の証言や証拠があるならな」

その言葉に黙り込むのを見て呆れてしまう。恋は盲目というが、よもやただの電波ヒロイン1人にこうも籠絡されるとは。

「何も無いなら次に移ろう。父上」

この状況を黙って見ていた父上に視線を向けると俺はハッキリと言った。

「この通り私の側近候補は皆使い物になりません。挙句の果てに国をこんな女のために潰そうとした愚か者です。私は王太子として、この国の未来に彼らは不要だと意見具申します」
「·······よかろう。貴様はどうなのだ?」
「必要でしたら処分をしていただいて構いません。フリとはいえクレアを悲しませたのは事実。どんな罰でも甘んじて受けます。ただ、どんなことになっても私はクレアから離れる気はありません」
「殿下······あ、あの!私も殿下と·······アーサー様と一緒にいます」

ぎゅっと俺の手を握ってくるクレア。······え?何この可愛い生き物。やばい本気で可愛すぎる!

そんな俺たちのやり取りを見ていた父上はくつくつと愉快そうに笑って言った。

「どこまで誠かは聞くまい。ならばアーサー、王太子として結果で示せ。そこの黒髪の女に関しては話を聞く必要があるだろう。連れて行け」
「ちょっ······やめてよ!アーサー!助けてよ!」

見苦しく抵抗する電波系ヒロインを見送って、真っ青な顔をしている攻略対象達を見てとりあえずホッとする。な、なんとか切り抜けたぁ········本気で今まで1番頑張った気がする。主にプロポーズ。こんだけ色々酷いことしてるのに慕ってくれているクレアたんマジ天使。

「じゃあ、私達も行こうか」
「はい」
「皆、騒ぎ立ててすまなかった。パーティーを楽しんでくれ」

そうしてクレアを連れて俺は会場を後にした。やる事と考えることは山積みだけど·······とりあえずこの可愛い婚約者を守れてホッとする。いや、結婚するから嫁かな?




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