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10 魔王様の優しい支配

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「な、なんだこれは·······!」

ドランタ帝国の皇帝、モルドは城の外の異常事態に驚愕していた。空にはオーロラが出ており、民衆や兵士はこの城までの道を空けて1人の男を歓迎していた。いや、頭を垂れて崇めていた。

その男はこの国の貴族でもなければ、皇帝の自分の親類でもない。そして遠目からでも分かる絶望的なオーラは人間から発せられるものではない。つまり·······

「ま、魔王だと·····!?何故奴がこの国に·····!」

これまでその存在を公にはしなかった魔王。確かにハルバート王国でつい最近確認されたが········モルドとしてはどうしてそんな化け物が現れたのか見当もつかなかった。

「ええい!何をしている!早く奴を拘束しろ!」

そう命令を下しても誰も動くことはなかった。ある者は恐怖で動けず、ある者は皇帝を見限るように魔王の襲来を心待ちにしており、ある者は保身のために何をすべきかを考え待機を選択した。そして······モルドは知る由もないが、既に城の半分の人間は魔王の配下のオーガストにより取り込まれていたので、もはや皇帝はこの城で孤立してしまっていたのだった。

「ぐ······くそ!」

どちらにしても、モルドは自身の安全を確保するために部屋から出ようとするが·······それは近くの兵士が通さないように立ち塞がることで意味を無くした。

「な······何をする無礼者!ここを通せ!」
「なりません。魔王様がいらっしゃるまでここをお通しは出来ません」
「貴様·····裏切るつもりか!」
「ええ、もちろん。妻を貴方に奪われてそして用済みになったと殺した貴方に仕える気はありません」

その兵士だけではない。悪戯のように妻や恋人を奪われて、そして飽きたら捨てる。そういう行いをしていたツケが回ってきたのだろう。

「くだらん!いいから通せ!」
「なりません。崇拝すべき魔王様が来られるまでお通しできません」
「あんな化け物を敬って何になる!」
「魔王様は奇跡をお与えになりました。私の妻を綺麗な姿で蘇らせてくれたので」
「何を馬鹿なことを!」
「何が馬鹿なことだ?」

ゾクッとその声にモルドは萎縮してしまう。振り返らなくてもわかる。後ろには魔王が立っているのだ。

「さてと·······貴様が皇帝だな」
「·······魔王。何が目的だ」
「気まぐれでな。この国を貰いに来た」
「ふ、ふざけるな!それを許すと思うか!」
「少なくとも国民は認めているようだが?」

魔王が指を鳴らすと、近くの兵士がモルドのお腹を強く殴ってから、地面に頭を垂れるように倒した。

「ぐっ······や、やめてくれ······」
「何をやめろと?」
「しゃ、爵位をやる、お金もだ!なんなら妻も子供やろう·····だ、だから助けてくれ······」
「貴様!魔王様になんて態度を!」
「よい。それだけ頭が緩いということだ」

早速芽生えている忠誠心に魔王は若干苦笑したくなるが、何とか抑えて冷たい視線で皇帝の髪を掴むと言った。

「私個人としてはお前に興味はない。国は貰っても命までは取らないでも構わない」
「な、なら·······」
「しかしな·······お前はどうやら相当に嫌われてるようだ。これからお前を憎む国民に何度か殺されるような痛みを味わせて貰えるらしいが、決して殺さないから感謝するといい」
「あ、あ、あ·········」

兵士に引きづられていく元皇帝を見送ってから魔王は皇帝のいた玉座につくと言った。

「この国は今後私のものだ。逆らえば死にたいほどの苦痛を味わせてから殺してやる。だが、大人しく従属すれば、貴様らに褒美を与えよう。選ぶといい」

その言葉に全ての兵士が頭を垂れて魔王を崇めた。そうして、ドランタ帝国は魔王が支配することとなるが、後にこの国の住人はこの日を『魔王様降臨の日』として勝手に祝うようになるのだった。そして、他国にもこの国のことは伝わり、後にこんな噂が流れた。魔王の支配下になった国には魔王からの奇跡が与えられるというーーー。






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