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ガヤ

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「げ、クラウ・ソラス」


 呟いた途端、バシャァンという音を立てて窓が吹っ飛ぶ。

 つーか、ここ魔王城の三階建ての第二執務室!


「ヴァンパイアキング!クラウ・ソラスって何だったかしら~?」

「神々の王・ヌァザの剣。呪文が刻まれた魔剣で、一度抜くと隠れた敵さえ見つけ出して必ず倒す不敗の剣ですね。また、鞘から抜くと輝く光を放ち、敵の目を眩ませる。と言うのもあり、特製を知らないと初見殺し的な武器の一つでもありますね。」

「あら~それじゃぁ、私達目が眩むわねぇ。サングラス的なモノあったかしらん。」

「素直に手で目を覆ってしまえば良いでは無いですか。と言うか、私達は今更勇者に敵対する気は無いですから、特に問題無いのでは?」

「あらん、ガヤねぇ私達。」

「ええ。ただ早急な書類だけは魔王ちゃんに早々に対処して頂ければ幸いですが。」

「魔王ちゃん頑張って~フレーフレー!」


 解説・状況の説明有難う!
 そして片手で目を覆ってからもう片方の手を振って、早々に部屋の隅に貴重な品や書類だけ持って飛んでいくなっ!ヴァンパイアキング!サキュバスクイーン大量の蝙蝠になって端に逃げるな!魔王を救え!


「私達ガヤですもの~。」

「魔王ちゃんこの場で濡れ場は構いませんが、いや絶賛推奨致しますが、絨毯の染み抜きはご自分で処置お願い致します。ソファーも同等ですのであしからず。」


 おい!
 魔王を救う気ゼロか!と言うか処理っておいいいいいいいっ!


「元からそんな気ありませんわ~私、勇者ちゃんの応援しておりますものぉ。」

「魔王ちゃん、よく言うでは無いですか。『人の恋路はケンタウロスに蹴られて折檻』と。」

「あらん、『スレイプニル』では無いのん?」

「いやいや、『ユニコーン』かも知れません。」

「えーそれって処女を好むって言う馬でしょうぉ~?私も魔王ちゃんも処女じゃないしぃ~ヴァンパイアキングもでしょ~?それって私達の天敵みたいなものじゃないかしら~」

「ならば『バイコーン』で。」

「あらん、ユニコーンの正反対、不純を司る二角獣ねぇ。私、見た目だけなら『さがり』がいいわぁ~。」

「いやそれ馬の首だけの妖怪で、既に脚どころか身体が無いから乗ることも蹴ることも出来ないですね。」


 あらあらあらって、笑うサキュバスクイーン。
 そしてそんなガヤ役の二人の前にいる『魔王』は、窮地に陥っているワケで。


「ダーッくそー!魔王ちゃん滅茶苦茶結界貼りまくっている!?」


 パパっと細かい破片…窓を割って入って来たものだから硝子の破片が腕やら身体やらについているらしい勇者は、服に付いた破片を払い落とし、床に撒き散らしながらも此方に接触しようと歩を進ませる。途端、ガンッという音を立てて張り巡らせた大量の結界によって阻まれ、その場でイライラしながら見えない壁、何百もの結界を張り巡らせた『魔王』特製の結界の壁を叩いている。


「勇者ぁ~窓を壊して来たのはいいけど、後で請求するわよん~。」

「あああ、強化ガラス…縁も修繕が必要ですね、気に入っていたのに。勇者、慰謝料込みで30万です。」

「ボッタクリ!」


 サキュバスクイーンとヴァンパイアキングと勇者が和やかに?話しているが、金額は相当ボッタクっている。そもそも窓自体は9千位だし、周囲の多少凹んだ縁は魔法を使えばお値段0。修理費0。下手すればガラス自体も修繕魔法で出来る気もするが、ソコはヴァンパイアキングでは無いが慰謝料として請求しても1万5千位で良いような、そうでないような。微妙な金額なような。

 むしろガッツリと請求し、二度と設備破損させないように教育するべきな気が。
 いやいやそれより、魔王城の3階の窓を割って入って来るなよ。
 普通の人間なら怪我どころか死んでいるだろ?それとも転移者はそれぐらい平気なのか、もしくは『勇者』だからなのか。
 と、此処で勇者を見て後悔した。

 目、血走り過ぎ。

 真っ赤に染まっていてって、あれ、普段黒目では無かったか?今見たら真ん中の黒目以外赤一色。折角の勇ましくもこの世界にはない異国風の、よく見ると美しい顔立ちが異様な程に鮮血に染まり、勇者を歪な装丁に彩っている。


「あああ、畜生!あの国の外道共!」


 何だかすげー憤っているけど、どうした?
 魔力暴走していないか?
 勇者を目を凝らして見詰めると、湯気のように暴走した魔力が勇者の身から溢れている。


「マジ、ありえねえええ!」


 おいおいおい、『魔王』の結界があるから周囲に被害が出ていないけど、落ち着け勇者。魔力が滲み出ていて迷惑過ぎるのだけど。
 壁に飾ってある絵がバリバリ破れていっているのだが。
「あああ、僕の芸術作品~!」って、ヴァンパイアキングが叫んでいるけどそれ、何時飾った。と言うかその絵、えらい趣味悪い気がする。

 寒気やら怖気やらがして非常に気持ちが悪いのだが…。


「これね、旦那と交尾中の状態を絵師に頼んで描いて貰っちゃった、良いでしょう。」


 うふふって誰だ、こんな趣味悪い絵飾ったのって、お前かー!お前なのかー!何か変な絵だよなって思っていたけど、抽象的過ぎて良くわからなかったよ!
 一部モザイクみたいになっている所もあるし!もしかして絵師見たくないから適当に描いたのでは無いか?傍迷惑なことするな!つか、「え~良いなぁ、私も旦那との最中の描いて貰おうかしら~。」って、お前ら羞恥心ってもんが無いのかーっ!


「サキュバスクイーンである私に、羞恥心なんてあるワケ無いわぁ~。」

「ヴァンパイアキングである私に、むしろあったら怖い。」


 お前ら……。
 とか言っている間に勇者がハアハアと息が上がって来ているけど、魔力欠乏していないか?
 え、違うって?どう見てもその症状としか思えないが。


「クソッ!薬を盛られた!」

「はい?」

「俺を召喚しやがった国の貴族、王族の奴等、元国王が居なくなって俺が不要ってことになって、それ、でー…」


 そのままフッと意識が途切れたのかバタンと真後ろに卒倒し、勇者は身動き一つ動かなくなった。






 ※ ※ ※






「死んだ?」


 つんつんと『勇者』を突っつくヴァンパイアキングが、先程の絵を抱えたまま足先で突っつく。


「あらまぁ、見事な魔力欠乏症ねぇ~。んん?でも他にもあるみたいだわぁ。どうするの、魔王ちゃん?」


 どうでも良いが、ヴァンパイアキング。その絵を執務室に飾るのは禁止な。「えー!」じゃないから。そんなアホな抽象的な絵を見せられる度に此方の精神がガリガリ削られるから止めてくれ。SAN値が減るから。「仕方無いなぁ。」じゃないから。
 お前達夫婦(夫夫)の性癖見さられる此方の身を考量してくれ。


「寝かせるしか無いわけだが…。」

「んふふ、これ薬を盛られたって言うけどぉ。」


 かなりヤバいのを盛られたって感じじゃない?とヴァンパイアキングが絵をクルクルっと巻き、部屋に呼んだ従者に言付けて下がらせる。
 次いでとばかりにその従者に「魔王ちゃんの寝床に貼っといて。」と言いやがったので、「城の中に貼り付けたら減俸」と言付けたら、ヴァンパイアキングの馬車に貼り付けるのでご安心下さいと言われた。

 …この従者わかっている…。

 もしかしてヴァンパイアキングよりこの従者を側近や役職に収めた方が、諸々勝手が良くなるのでは!?と思ったが、サキュバスクイーン曰く『未成年の少年愛が強い』人だから止めておきなさいと忠告を頂いた。ついでに「魔王ちゃんってばこの従者の好みの対象に入るから、彼と二人きりになるのはお勧めしないわ。」と言われ戦慄する。


 何故『魔王』の周囲には碌な人物が居ないのだろうか…。


 さて。
 サキュバスクイーンが勇者の二の腕を手にとって、匂いやらナニやら嗅ぎ取っている。


「一応『勇者』って言うだけのことはあるのねぇ~。自力で投与された毒の成分をほぼ【レジスト】していっているわぁ~。でも残念ねぇ、この子(勇者)、淫魔が司るモノには抵抗が出来ないのねぇ。」

「どんなのが使われているかわかるか?」

「んーとぉ、お約束だけどぉ~致死毒・壊死系毒等複数の毒物が混ざっているわねぇ。えげつないわぁ~殺意が強いわねぇ。後は…んーこの薬、ううん毒かしらん?私達には効かないけどぉ、そっかぁ、勇者ちゃんには有効なのねぇ。」

「サキュバスクイーン?」

「『勇者』ちゃんが祝福を受けしモノだって言うのは聞いたことあるけどぉ、祝福だとレジスト出来ないのねぇ。」


 祝福と言うのには多少制限があると聞いたことがある。この場合勇者の『祝福』はこの世界の神か精霊からの祝福なので、身体強化等の他に、毒・麻痺・魅了等の抵抗が出来ると言う。


「これって?」

「淫事ってことよぅ。『魔王』ちゃんの治療魔法でも無理ね~。」

「は?」

「元々治療魔法って言うのはぁ、怪我等の治療全般だけどぉ、淫魔の領分の性を吸い取るって言うのとはまた違うでしょうしぃ。」


 そうだよなーって言うヴァンパイアキングの声が聞こえて来る。
 え、つまりどういうこと。
『魔王』にも理解出来るように説明してくれ。


「そーんなワケでぇ~魔王ちゃん次第だけどぉ~、勇者ちゃんこのままだと辛いだろうしぃ。しかも面倒な呪いまで付属しちゃっているしぃ。」

「呪い、と?」

「そそ、『勇者』ちゃんが本気で好きな人としか【解除】されない呪いよ~。つまりぃ~『真実の愛』って言う解除方法ねぇ~。勿論キスだけじゃ駄目よん。」


 この際『勇者』が本気で『魔王』を好きかどうかは置いておいて。
 普段から性的にと言うか廊下だろうが外だろうが場所を問わず襲われている身としては、そうでも思わないと救われない気もしているが…。

 それって、つまり。


「『勇者』ちゃんを死なせたくなかったら、頑張って『勇者』ちゃんとセッ○スをしちゃってね、魔王ちゃん。」


 だよなあああああああーー!

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