今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】

柚ノ木 碧/柚木 彗

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5章 今日も周囲も人間関係もゴタゴタしていますが、国内の紛争やら暗殺やらで物騒な最中、恋人が出来て戸惑いつつも鑑賞致します。

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 Side:バーネット

「ったくあの、有象無象腹立つわーっ」

「あのなモニカ、有象無象ではなくウィックローの襲撃者…」

「同じじゃないの。あ、御免訂正。ゴミだったわ」

「君って奴は…」

 領館が襲撃された後、領主であるバーネットは港町カモーリの町を一周し覆っている壁。その壁に付いている門の扉を閉ざす様に指示を出す。

「それとルイ、手間で悪いけど汽車の方も閉ざして。いざとなったらソコ、壊しても良いよ」

 バーネットが側に控えていた古参のメイド、ルイに告げる。

「宜しいので?」

「領民の命を天秤に掛けたら汽車等はどうでも良いからね。人の建てたモノは後で時間は掛かるけど直せる。だけど人はそうじゃない…わかるね?」

「はっ」

「それと鉄道員に伝えて。もし襲って来る様なら、鉄道や汽車を使って破壊活動しても可だと」

「…それは」

「ん~ほら、数台だけ無傷な汽車があるだろ?それ使って襲撃者に向かって突っ込んで轢いても良いし、何なら爆発物詰め込んで突っ込ませても良いからね」

 これを聞いた途端、モニカが何やら「うひょぅ」とか言い出したけど取り敢えずスルー。恐らく爆弾とか魔法で作り出す算段を頭の中で練っていそうだ。
 最もこの短時間で…ああ、彼女なら出来るか。
 以前やらかしたし。
 いや、モニカ風に言うなら訂正。やらかしすぎた、だな。

「かしこまりました。ですが、緊急のみと伝えておきます」

「ああ、頼む」

 室内から退出して行ったルイの方を見たモニカが虚空を見詰め、次にニヤリと頬を緩める。長年の勘と言うか何と言うか。これは良からぬ事を考えている顔だと察すると窓辺に移動し、

「やっぱり。襲撃者達ほぼ片付いているわね~流石王都の『鬼神』の名は伊達では無いわね」

「…君はこうなるコトを知っていたな?」

「ふふ、何を?」

「ココが襲撃されるって事」

「うーんそれはちょっと違うわね。私ソコまで内情を知っていた訳じゃないから。でも国王は知っていたでしょうね。何せ自身の息子をココに呼び寄せたのだから」

「やっぱりかっ!あの古狸!」

「どっちかっていうと細身だから狐って所かしら?それは兎も角、ココの騎士達は優秀ね。迅速に動いて対応しているわ。もう門が閉まる」

 そりゃね、日々訓練しているからな!とは口が裂けても言えないけどな。

「で」

「はい?」

 誤魔化されないぞとモニカを睨み付けると、参ったと言うように彼女は両手を上げ、

「今回は本当にノープランなのよねぇ。何せ情報が集めやすい私の本拠地、【王都】では無く『可能性はあるかな?』程度でしか情報収集してなかったのだもの」

「という事は」

「そ。でも本当に頼んでいた品を取りに来て、そのままって感じだしねぇ」

「モニカにしては珍しいな」

 するとスイ~と流れる様に眼差しを横に向け、

「そりゃ、ね」

「ん?なんだモニカ」

 俺が言うと先程まで横を向いて居たのに、何故急にジト目になって此方を睨む?
 そして何故そこで溜息を吐く?「あ~も~」って更に大きく吐息を吐くんだ?
 ん?此方へスタスタと歩いて来て…

「私ね、甘い雰囲気とか見るのは大好きなんだけどね。特にニキとレナちゃんの初々しい状態とか、レスカ様とユリア様のラブラブしちゃってる状態を見るのは大好きだわ。でもね、目潰し!」

 ビシィッと俺の目にモニカの指っ!

「ぐあぁ!」

 あまりに痛みにその場に蹲って「目がっ!目がっ!」と言っていたら、”脳内”で○ス○ごっこか。とか言う突っ込みが聞こえた気がするが、その名前も『ごっこ』も知らんし聞いたことも無い。そもそもモニカの声では無かったし、幻聴だろう。
 そんなことは兎も角。

「モニカ!危ないだろう!」

「はんっ!それぐらいでどうこうしないでしょ、そんな軟な男なら旦那にはしないわ」

「なっ」

 旦那。
 モニカの口から旦那!まだ婚約しただけなのに!
 途端カッと自分でもわかる程顔が火照るのがわか…

「目潰しぃ!」

「ぎゃああ」

 なんでだよっ!
 叫びかかったけど、痛くてそれどころではない。

「言ってるそばから。女心と秋の空って言葉知ってる?私自身が砂糖吐くような甘いのって嫌なのよ。何度もやらかすと…」

 気が変わるわよ?
 そう言われた気がして、バーネットは背筋に冷や汗を流して普段表情には出さないようにするが焦ってしまい、声が上ずってしまう。

「わかった、わかった!今はそれどころでは無いし…」

 は~と溜息を吐くと、フフンと言う声。
 痛む目を擦りつつチラリとモニカを見ると、頬が少しだけ…うん。
 ヤバイな、十年掛かった年月のせいだろうな。あ~夢じゃないだろうか。って、それどころじゃ無かったんだったな。頬が緩むが抑える。モニカが睨んで来た気がするが口に出したらまたやられそうだ。
 冷静に、冷静に。

「で?」

「あ?」

「あ?じゃないわよ。街を襲撃しようとして、何処かで潜んでいた隣国の奴等が陸地からも軍を引き連れて来てるわ。恐らく近場の森等に身を隠していたのか、それとも街に時間を掛けて潜伏し、徐々に身を隠して軍を紛れ込ませて来ていたのか」

「船で密入国していたって奴だな」

 ふうん?とニヤリと口角を上げてモニカは窓辺に立ち、片手を振るうとそこから1羽の真っ白な鳩が窓を通り抜けて外へ飛び出して行く。

「バーネットは町の方で手一杯でしょうし、私はどうしようかな~。アルビオン兄さんは多分門前で肉弾戦しそうだし、あの『鬼神ちゃん』連れていって貰おうかな。それじゃ私はレナちゃん達町に居るから心配だし『夜叉ちゃん』連れて港へいこう~と」

 おいおい、それってニキ達強制連行?と思うが、その方が安全だと思い直す。

「貴方は門前に騎士達の配置と、襲撃船の撃墜指示で此処から動けないでしょうし。それにユウナレスカ様達、友情にアツいからそっちでしょうしね~」

 とモニカは言い、クルリと背を向けて執務室の扉を開き…何故か此方を振り返る。

「忘れ物」

 と言って…

「んぐー!?」

 スタスタと俺の側に来て、顎をぐいっと掴んで…おおぃっ。
 触れるだけのキスとかってっ!
 くそ、やられた!

「ふふふ、奪ってやったぜ」

 それ、男の台詞っ!と言うか俺が言いたい台詞!
 そして俺の目の前で腕捲りをして右腕にあるんだかないんだか、舗装で力瘤を作って見せて(コブは無い)からぺろっと舌を出す。

 ぐぁっ、は、破壊力が…
 精神的によろめくと、察したらしいモニカは目が細まり…

 ニヒヒってアルビオン様みたいに笑うな!
 お前ら兄妹、悪戯が成功した時の笑みは見事なぐらいにそっくりだな!
 顔や姿はモニカのが遥かに美人だがな!

「モニカ、ココから見える範囲だけでも町に数十名程が動き出して来てる。何名かゴロツキの寄せ集めっぽいが、プロ…傭兵らしき者も居る。注意しろ」

「は~い。んじゃやっぱり『夜叉ちゃん』拾って行かないとね~」

「言っても聞かないから止めないが、『傷』は作るなよ。作るぐらいなら迷わず殺せ」

「ん~いい男ならヤメとくわ」

「おい」

「強制労働に必要でしょ?」

 …そうだった。モニカってソウイウ奴だった。
 去って行くモニカの足音に、これから相まみえる敵に「ご愁傷様」と呟いてしまうのだった。






 * * *





 side:レナ

「レナッ!」

 町の中を急に走り出し、領館に戻ろうとするレナの腕を掴みニキは引き寄せた。

「今は行っては駄目だ」

「でもっユリアや兄さんに皆が!」

「落ち着けレナ」

「落ち着いていられないわ!」

 駆け出そうとするレナを抱き寄せて、駄目だと言う。

「危険だ。安全だと分かるまで行ってはいけない。それに君の兄である『鬼神』のジーニアス殿がこれしきでやられるワケはないだろ?」

「そ、それはそうだけど」

 確かに。
 絶対に兄ならば反撃に出て豪快に周囲を崩壊させそうだ。
 壁とか豪華な調度品とか、待って、領館の高そうなツボとか割ってないよね!?兄さん大丈夫なの!?修理費が嵩みそう!って言う問題じゃなくって!ウチのお金でどうやっても弁償とか出来そうにない!って、ああああああっ!
 修理費ぃ!

「それに冷静に考えてみてくれ。…どう考えても反撃しまくりだろ、ほら」

 いや、それはそうなんだけど、違う意味で冷静ですって!それより何より修理費~!あああ、元アレイ家貧乏性のサガが出てしまう~!等と思いつつ指を刺した方角を見詰める。
 ニキが指差す先、そこには…


 ポーンと投げ出される人間みたいな人。
 それが「ぎゃあああああああぁぁ…」と、悲鳴を上げて空高く飛び…
 飛び…
 飛び……
 過ぎてないか?

「飛び過ぎ」

「兄さん…やり過ぎ」

 弧を描く様に宙を舞い、町から遥か彼方にある海にまで飛ばされたようで、盛大な水飛沫の音が聞こえて来た。と同時に、それまで町を見下ろす形に建っている領館に火が着いているのに気が付いた者、または全く気が付かなかった者。町中にいた町人達が我に返ったのか、一斉に逃げる人が出て来て混乱する。

 …のだろう、普通ならば。
 人の数が多い王都ならば、恐らくそういった光景に陥るだろう。
 実際先日のスタンピードの時は混乱の極みを見せたのだから。だがココは港町カモーリ。何度も海賊等が海から積荷を奪いに来たり、陸地に上がって略奪行為等が長年起こる地域。更には戦時中には陸地からも襲撃される土地柄、あっという間に騎士らしき者達が統率を取り、人々を逃していく。

「領館は駄目だ!教会に行け!」

「同じく港も危険だ!敵軍らしき船が囲ってる!」

 すると上空に黄色い煙と赤い煙、それと青い煙が領館から立ち上がる。

「領館は無事だ!」

 え?とレナは思う。
 先程まで領館は駄目だと叫んでいた騎士らしき者達が、今度は一斉に「無事」だと叫ぶ。あの狼煙みたいなモノは何か意味があるのだろうか。

「あの青い煙は領館は無事って事だ」

 ニキがレナに説明すると、成程と納得をする。

「で、黄色と赤い煙が上がったから港が危険だってこと。特に赤だからな、襲撃があるのだろう」

 ニキが手を繋いで「よし、一先ず領館に」と呟いた途端、ガキッと金属が重なる音が近場で鳴った。

「ぐぅ…」

 と言う呻き声が聞こえた後、ニキとレナの周囲には2名程の男達がその場に倒れ伏す。

「え」

「流石」

 と、ニキが口をついた時には更に人数が増え、ニキ自身も身を踊らせて一人の男を地面に叩きつけた。

「お嬢様ここは危険です!」

「ひゃぁっ!」

 不意にレナの真後ろに現れたコリンに驚いて声を上げてしまうと、数名の男達が何故か此方を一斉に見てナイフを翳して駆け寄ってくる。

 ナイフ…ッ

 咄嗟に避けなければと思ったのだが、先日の件で身が竦んでしまう。
 怖い。
 領館で突き付けられた、あの冷たいナイフ。
 あれから何度か騎士が帯剣している姿等を見ると、即ビクッと身が震えてしまう。こう言うのをトラウマって言うのかしら、なんて思っている暇は無い筈なのについつい思考が止まらない己に驚いてしまう。
 それどころか足まで竦んでしまい…

「ぎゃっ」

「ひいっ」

 駆け寄って来た男のウチ一名をニキが殴り掛かり、後の数名はコリンが一瞬のウチに次々と蹴り上げて地面へと叩きつけていった。
 そして最後、一番後方に居たと思わしき男の頭部が一瞬のウチに火炎で焼かれ、倒れた男の側にはモニカがブツブツと、

「ちょっと~私の息子の様に可愛がっている子の大事な嫁に手を出そうとしないでくれる?」

 等と言いながら右手の人差し指で今だ燃え盛る火を出し、燃焼し一瞬のうちに消失した元髪が生えていた頭部に豪快にケリを入れて居たのだった。

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◇◆◇◆◇ 更新中のお話 ◇◆◇◆◇
新作 BL ※ とある商店街のお茶屋さん
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NL ※ 今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/789277952/571182846

宜しかったら見て頂けると嬉しいです(*´ω`*)

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